「天晴爛漫!」11話レビュー~替えられないものを取り戻せ~

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©2020 KADOKAWA/P.A.WORKS/天晴製作委員会

天晴を庇い小雨が瀕死に陥った「天晴爛漫!」。11話では小雨は病院に運ばれるも助かるかどうか定かでなく、天晴はいつになくうろたえる。修理が必要なのはギルに破壊された車だけではない、車に込められていた天晴の、天晴達の心もだ。

 

 天晴爛漫! #11「Rain in the Dark Night」

 

天晴が壊されたものとは

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©2020 KADOKAWA/P.A.WORKS/天晴製作委員会
人生は荒野を行くことにも似て、険しい道程の中で何かが傷ついたり壊れたりするのは避けられない。父を殺されたホトトも、エンジニアの探究心を否定されたセスも、クラウディアを守れなかったディランも皆、心の故障を抱えたまま生きてきた。唯一負けん気を失っていないアルにしても、ソフィアをさらわれたことで思わずスタッフに怒鳴ってしまうほどその心は乱れている。修理は物心両面で必要とされているわけだが、天晴は工具を放り出しアルの協力要請を断ってしまう。それはこの場で誰より壊れているのが天晴の心だからだ。何より修理を必要としているのは、天晴自身の心だからだ。ギルの暴力と小雨の命の危機に自分と自分の技術が何の力にもなれなかったことに、天晴は自分の理念を無力だと否定されて――壊されてしまったのだ。
 
 

天晴ではないが、天晴と同じものが小雨を救った

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©2020 KADOKAWA/P.A.WORKS/天晴製作委員会
もっとも壊れているのは天晴だから、意識を取り戻した小雨が行うのも彼の「修理」である。しおらしい天晴の様子で異常を診断した小雨は、的確に助言という修理を行う。彼は初めて知った輸血を「世の中にはとんでもないことを考える奴がいる」と評するわけだが、「とんでもないことを考える奴」なのは天晴も一緒だ。天晴は確かに小雨の生死に無力だったかもしれない。しかし「天晴的なもの」は小雨の命を救った。無敵にも思えるギルの暴力を止めた。だったら、天晴が絶望するほど彼の理念は無力なものではない。それに気付かせることこそは、小雨の生還だけができる天晴の心の修理なのである。
 
 

一番大切なものは自分で取り戻せ

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©2020 KADOKAWA/P.A.WORKS/天晴製作委員会
こうして立ち直った天晴は、先に放り出した工具を身に着け皆の元へ戻る。工具を振るわずとも、その口上は皆の心を応急修理するものだ。走れるようにするものだ。本当に替えが効かないのは理念――個々の"本質"だけで、それ以外はいくらだって別のもので修理できる。父を失ったホトトがしかし、先導してくれる年長者だけはこの旅で得られているように。
 
逆に言えば、唯一無二の"本質"だけは、奪われたら取り戻すほかはない。ソフィアを守る約束であったり、かつて愛した女性を守れなかった過去との決着であったり、理由は様々だが、天晴達はレースに仮託されたかけがえのないものをギルに奪われている。セスが自らスーツを脱ぎ捨てエンジニアに戻ったように、それだけは自分で手を伸ばさなければ取り戻せない。
 
「怖い奴は残ればいい。あんな奴に大切なものを傷つけられて、奪われても耐えられる奴は残ればいい」
 
負けられない戦い、いや、退けない戦いが、そこにはあるのだ。
 
 

感想

というわけで天晴爛漫の11話レビューでした。代替可能・不能の両方の描写があり解釈に悩んだのですが、輸血が天晴の役割を代替しつつ「天晴的なもの」の代替不能性を示している……と捉えられたことでばーっと考えが広がった感じです。こういう自他の線引ってすごく好みなので、天晴の口上を見直していて格好良さに痺れてしまいました。
 
しかし小雨が助かって良かった。逆に他の面々が死んでもそれぞれ目的を達成できそうなフラグも立っていますが、そういう結末であってもそこには悔しさよりも満足がありそうです。まあでもやっぱり、できればソフィアの祈りが神に届いてほしいな。頑張れ、皆。