2つのレース――「天晴爛漫!」12話レビュー

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©2020 KADOKAWA/P.A.WORKS/天晴製作委員会

ソフィア救出とギル打倒のため天晴達がゴーストタウンに乗り込む「天晴爛漫!」12話。車は今回移動手段でしかなく、一見するとレース要素は全くないように見える。だが心の荒野を走ってきた本作は、今回も確かにレースを続けている。

 

 

 天晴爛漫! #12「WE WILL STOP YOU!!」

 

ソフィア救出という「開拓のレース」

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©2020 KADOKAWA/P.A.WORKS/天晴製作委員会
天晴達はけして闇雲にギルを倒しに行っているわけではなく、そこにはソフィア救出という明確な目的がある。そして彼らは手分けして彼女を探しに行くわけだが――つまりそれは「ゴール目指してそれぞれがコース選択をする」のと変わらない。真正面から行くも樽に隠れるも最低限の戦いを厭わぬのも全ては「荒野」をいかに進むかの選択であり、それはレースでどのルートを進むか決めるのと同じことだ。
 
ただ大陸横断レースと異なる点を挙げるならそれは、ゴールするのが誰なのかに意味がないことだろう。発見・救出そのものに価値があり、そこに他より早くといった競争はない。またソフィアを見つけた者は白の信号弾を打ち上げるから、他の者は自然とそこに集まることになる。これは競争のレースというよりも「開拓のレース」だ。誰よりも早くではなく誰もやらなかった何かを成し遂げることに意味のある、通った後が後続の道標となるもの。天晴は浮き橋を引いて天晴号で渡河して道を作ったが、ゴーストタウンで皆がやろうとしているのはそういうレースなのである。
 
 

ギル打倒という「競争のレース」

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©2020 KADOKAWA/P.A.WORKS/天晴製作委員会
「開拓のレース」は天晴がレース参加者との間に切り開いてきた新しい価値観だが、しかし旧来の――大陸横断レースと同じ「競走のレース」もけして消えているわけではない。天晴達の中でもディランとTJは「ギルを倒す」目的も強く持っている。それは誰かが成せば後続には何もできないから、目的を果たしたいなら1位を求め競争する以外の選択肢はない。
 

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重要なのは「開拓のレース」の対象にも「競走のレース」の対象にも信号弾が用意されていることだろう。このゴーストタウンの戦いでは、その2つの異なる価値観は片方に統一されたりはしない。細かく言えばソフィアの救出も「州兵より早く」という競争の要素はあるし、ディランとTJも目的を果たすためには共同戦線を張らねばならない。新しいものも旧いものも、それだけを理由に全て否定はされないのである。
 
 

レーサーであること

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©2020 KADOKAWA/P.A.WORKS/天晴製作委員会
だが、それは今回だけの特殊なことだろうか? レース開始前の描写に多くの時間をとった本作はこれまでも、勝敗ある「競走のレース」と共にそれだけでは測れない「開拓のレース」を両立してきた。天晴がアルのセカンドカーに勝つと同時にアルとの友情を築いたように。それに影響されたシャーレンが、相手の卑怯な運転に敗北しながらもチームからの信頼は勝ち取ったように。
そう捉えるならば、このゴーストタウンでの戦いも(ひいては人生そのものも)これまでのレースと何ら変わることはない。ギルの部下のナイフ使いを倒したシャーレンは、何者か問われて「レーサーだ」と答えるが、それは彼女と今回の話が前回までの延長線上を進んでいる宣言だと言えるだろう。
そしてならば、ギルとの戦いの決着はどのようにつくのか? 大陸横断レースの行方は? 天晴達のこれからは? 全てはきっとこれまでを裏切らない、しかし予想を超えたものになるだろう。物語のゴールは、もう間近だ。
 
 

感想

というわけで天晴爛漫の12話レビューでした。30分大暴れ、お遊びもあり……太陽にほえろネタ、ノリノリだったな。へっぴり腰とかヘルメットとか新聞紙ドヤ顔とかセスも好感度を稼ぐ稼ぐ。
個人的にはナイフ使いの声優さんが松田利冴さんだったのが驚きで。全然気付かなかったけど、そのつもりで聞いてみると確かにりっさんだと分かる……彼女が印象に残った人は、主要メンバーを演じている刀使ノ巫女もぜひご視聴を(隙あらば宣伝)。
 
ギルが何か企んでいるらしいことから、レースの決着と彼との決着はあくまで同時ということになるのかな。次回は最終回、10人(+1匹)の最後の勇姿、待ち遠しいです。