裸体と裸心――「異世界美少女受肉おじさんと」3話レビュー&感想

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© 池澤真・津留崎優・Cygames / ファ美肉製作委員会
本音むき出し「異世界美少女受肉おじさんと」。3話で神宮寺は、うっかり橘(元おっさん)の裸体を目撃してしまう。今回は裸を巡るお話だ。
 
 

異世界美少女受肉おじさんと 第3話「ファ美肉おじさんと怒りのエルフ」

野盗のアジトを壊滅させた橘と神宮寺だったが、その時回った火によってエルフの森が焼失してしまう。
焼け落ちた森をみて、エルフの頭目ルーは激怒。
その上、橘の美貌に嫉妬したルーは橘と神宮寺を亡き者にしようと攻撃を仕掛けてくるが、神宮寺には全く通用せず……。

公式サイトあらすじより)

 

1.裸の宴

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ルー(ふーん、まあ人にしてはいい線いってるんじゃない?透明感のある肌に青い瞳、黄金の髪と整った顔立ち……手入れの努力は認めましょう)

 

この3話ではルーという少女が新たに登場する。エルフ族の頭目であり、前回の野盗退治で起きた山火事で自分達の住む森が燃え、更には森の守り神(1話で橘達を襲ったモンスター)を殺された彼女は激怒する……が、それらへの関心は長続きしない。ルーは自分の美貌に絶対的な自信を持っており、橘の美貌に感じた脅威でその内心はいっぱいになってしまったのだ。
 

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ルー(でもまあ、わたしの方がぜんぜん美しいんですけど?)
橘・神宮寺「なぜ脱いだ!?」
 
己の美しさを誇示するため彼女がとった行動は脱衣、半"裸"化であった。また激昂すると本音が口に出てしまうルーは信教の建前を守れずたびたび橘への対抗意識を口にしてしまうが、これは本音を"裸"にする行為だとも言える。そう、3話の共通点は肉体に限らぬ"裸"なのだ。
 

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ルー「露出魔!?」
橘「確かにそう見えるけどよ、言い方あんだろ?」
神宮寺「事実を述べただけだが?だいたい、よくそんな裸のような格好で外を歩けるな」

 

人は普段なぜ服を着ているのか?それはもちろん、裸ではいろいろ不都合があるからだ。素肌だけでは外傷の防御や体温調節は十分にできないし、「事実を述べただけ」の神宮寺の言葉はルーの神経を逆撫でするばかり。後に神宮寺が橘に食事をさせるため食材が守り神の肉なのを隠したように、裸のままでは世の中は回らない。しかし一方、どちらが美しいかの多数決で惨敗したルーに橘が気遣ってかける言葉がかえって彼女を傷つけもするように、オブラートに包めば全てが解決するわけでもない。……橘と神宮寺に必要なのは、いったいどちらだろうか?
 
 

2.裸体と裸心

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橘「異世界なんだろ?てことは誰もいないし誰も見てない。もうちょいゆとり持ったらどうよ」
 
なんとかルーの怒りをかいくぐった橘達は村を去り、神宮寺の作った料理に舌鼓を打ちながら酒を飲む。「楽園の扉」による橘の部屋の複製の中ではなく外での食事は解放感満点だ。つまりこれは"裸"になるための助走としての宴である。
 

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神宮寺「待て、何をしている?」
橘「暑いから脱げって誰かに言われた」
神宮寺「なるほど、酔ってるな」

 

酔っ払って橘が半分脱いだり、食虫植物のようなモンスターに食べられかけたり、齢32にもなってピーマンが苦手という打ち明け話で危機を脱したり……後半のドタバタを通じて、神宮寺と橘は様々なものをあらわにしていく。裸になっていく。例えば少女の体になった橘はひどく酒に弱くなっていることであるとか、この異世界転移は半分長期休暇のようなものでもあるとか、単なる魅了のバッドステータスも薄着の橘を見ていたい深層心理の現れになれば行動不能を引き起こしたりであるとか。しかし今回もっともあらわになったのは、冒頭なり酔っ払ってなり脱ぐ主体である橘の心の方だろう。
 

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神宮寺「もう泣くな、橘。お前が泣いていると俺まで悲しくなる。ほら、戻ろう」
 
あわや食虫植物に食べられんとする危機から脱した酔いどれ橘は、共に女性的な名前(橘日向、神宮寺司)なのに神宮寺ばかりいい男でモテるコンプレックスをぶちまける。かつて彼は神宮寺とゲームをした時主人公の名前を自分、ヒロインの名前を司にしたが、それは一種のあてつけであったことをあらわにしてしまった。にも関わらず優しい神宮寺に、橘は思わず尋ねてしまう。
 

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橘「性別って肉体と精神、どっちに宿ると思う?」
神宮寺「俺は、お前が思う方でいいんじゃないかと思うぞ」

 

橘は転移前とは大きく異なる状況にある。美少女の体を受肉し、酒には酔いやすくなり、どうやら神宮寺と惹かれ合う呪いをかけられていて……そのまま考えれば、今の彼には何重にもオブラートがかかっている。しかし名前のコンプレックスを明かしたように、今の姿だから裸になった部分が存在するのも確かだ。
 

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橘「おええ……こんな世の中クソだマジで。クソだ」

神宮寺「酔い方はきっちり年相応だな」
 
衣服があるから羞恥なく安心して話ができるように、隠せるからあらわにできる本音もまた存在する。性別についての先のセリフのようなクリティカルな質問なぞ、直後に嘔吐でオブラートに包まなければ話が終わってしまうだろう。
橘と神宮寺はきっと、この何重にもオブラートのかかった旅の中だからこそ己の裸の心を見つけていけるのだ。
 
 

感想

というわけでファ美肉おじさんの3話レビューでした。今回は割とすんなり書けた方かしらん。裸をキーワードにレビューするのは決めていましたが、書き始めてみると被服も同じくらい大事だよねとバランスを調整する結論になりました。
 

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本人はショックだろうけどルーは髪が切られた後の方が好きだなあ。性格ぜんぜん違うけどマクロスΔレイナ・プラウラーっぽさがある(そういやレイナも耳長だった)。さて、次回はパロディ色の強いキャラの登場のようですが、いったいどんな騒動が待っているのでしょうね。
 
 

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