破片の物語――「Gのレコンギスタ V 死線を超えて」感想

© 創通・サンライズ
Gのレコンギスタ V 死線を超えて」を視聴。5部作の大長編の終わりを、この感想では「破片の物語」として読んでみたいと思います。
 
 

ビーナス・グロゥブから帰還したベルリ達が、いくつもの勢力の重なり合う最後の戦いに臨む「Gのレコンギスタ V 死線を超えて」。その中で序盤、印象的に感じたのが破片の描写でした。例えばベルリのG-セルフが敵機ガイトラッシュを近距離で撃破した場面では破片を浴びる姿が描かれているし、巨大MAユグドラシルが試し運転でMSを破壊した際にも立ち会った僚機はその破片を盾で払っている。撃破されたMSは火球に包まれて消えるのがおなじみですが、別に全てが蒸発して消えているわけではないのです。
 
本体や本丸がなくなっても、破片まで残らず消えるわけではない――このことは示唆的です。これまでの、そして本作での戦いで各勢力のトップは幾人も命を落としていますがそれで勢力自体が全て終わるわけではない。前作でリーダーのキア・ムベッキを失った金星方面のジット団は地球帰還を諦めずにキャピタル・アーミィと手を組むし、月の勢力トワサンガにしてもノウトゥ・ドレットが戦死した後もマッシュナー・ヒュームが単艦で戦ったりする。この2勢力は言ってみれば当初のそれの破片に過ぎないのです。
 
また、破片は必ずしも目に見える形で残るわけではありません。むしろ目に見えないところ、心の中にこそ破片は食い込むもの。先に挙げたガイトラッシュパイロット・ロックパイの戦死(殺害)をベルリは体調を崩すほど引きずるし、彼と恋仲だったマッシュナーは最終的には錯乱とすら言える精神状態で自身も命を散らします。私は前作については「老廃物を汗や涙で流す」というテーマで感想を書きましたが、心の破片はこれと同じようなものとして捉えることができるでしょう。
 
 
戦って争う中で、人は否応なく破片へと引き千切られていきます。ビーナス・グロゥブまではベルリと行動を共にした少女マニィ・アンバサダは地球圏では愛するマスクの所属するキャピタル・アーミィに戻るし、そうすれば今度はマスクを愛するようになっていた副官のバララ・ペオールが破片の扱いを受けることになる(彼女はマニィにマスクと仲良くするよう一応言ったりユグドラシルに乗り替えるが、それで破壊したかつての乗機ビフロン同様に心の中には破片が残っているのが皮肉)。ベルリの姉アイーダが育ての父スルガン長官を失うことなどもこれらに含められるでしょう。元々は繋がっていたはずのものが引き千切られることに、苦しみが伴わないわけがありません。
 
ただ、破片となっても残された者は生きていかなければなりません。そして一面では、破片になったから可能になることも存在します。例えばジット団のクン・スーンはベルリ達と刃を交えながらも降伏を受け入れ生き延びますが、これは隊長のキアや同僚のチッカラを失い、彼女が彼女個人という破片になったからこそ。
またベルリ達の母船メガファウナは成り立ちこそアメリアの偽装海賊部隊でしたが、物語の中で様々な勢力の人間個々人を――つまり破片を――取り込むことで唯一無二の視点を獲得するに至りました。更に言えばメガファウナを引っ張るアイーダは父であるスルガン長官に軍に戻るように言われても断り単独で動こうとしますが、これは自分達が破片の状態だからできることがあるのをよく認識しているからこその行動と言えます。
 
破片はちっぽけで、しかし一方で自由です。生きていく中で人はどうしてもわだかまり等を抱えて視界も曇ってしまうもので、だから自己や認識、気持ちといったものを破片にし、分解することである種のフレッシュさを取り戻せる。心の痛みも破片としてなら胸の中の箱にしまえるようになるし、不可分に思えるものも存外小分けにできたりする。アメリア大統領の息子クリムは自分すら国威発揚に利用しようとする父に愛想を尽かして決別したし、ベルリはキャピタル・タワーに戻らず、またクレッセントシップやG-セルフに乗ってでもなく自ら地球を回る道を選びました。
 
本作は最後、大好きなベルリを追いかけて先回りした少女ノレドとベルリの再会を描いて幕を下ろします。生きていく上で人は破片になることから逃れられないが、しかし破片になるから解き放たれるものもあるし、時にはまた繋がれることだってある。一人ひとり動く個人という破片を散りばめたような作りのこの物語に、それが人生というものではないかなどと考えながら私は映画館を後にしたのでした。
やっぱり難しい作品だなとは感じつつ、TV放送時からの自分の変化も感じながらの視聴となりました。チッカラさんが大変に美人でジャスティマのプラモがほしくなったり、元気でかわいいノレド・ナグさんがベルリと再会できる終わりがとても嬉しかったり。スタッフの皆様、お疲れさまでした。
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>