あつらえる剣――「片田舎のおっさん、剣聖になる」8話レビュー&感想

©佐賀崎しげる鍋島テツヒロSQUARE ENIX・「片田舎のおっさん、剣聖になる」製作委員会

新調の「片田舎のおっさん、剣聖になる」。第8話ではアリューシアがベリルに手合わせを申し込む。2人が交えるのは、新しい服をあつらえる剣だ。

 

 

片田舎のおっさん、剣聖になる 第8話「片田舎のおっさん、神速の剣を食らう」

ossan-kensei.com

1.アリューシアが願うベリルの幸せとは

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アリューシアから「今後を左右する重要な話がある」と声をかけられたベリル。いったい何かと思えば、それは新しい服の購入で……?

 

装いの「片田舎のおっさん、剣聖になる」。第8話はベリルが服を新調する回だ。騎士団の特別指南役として隣国からの使節団の警護に参加、あわせて両国の王族に紹介されるとなれば確かに普段の道場着は似つかわしくない。ただ、今回彼が新しくした服とは単なる一張羅ではないように思う。

 

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ベリルが新しく買った「服」とは何か? それを考えるには弟子の1人である騎士団長、アリューシアの存在が欠かせない。彼女がベリルを尊敬以上に思慕しているのは第1話から描かれてきたところで、今回は上述の服の新調のため彼を街に誘うわけだが――意外なことに、アリューシアはそこでグイグイと迫らない。買い物や食事を事実上のデートとほくそ笑みはするが、ハプニングを装って彼との距離を縮めたりはしないのだ。振り返ってみれば、これまでも彼女はベリルに女性が近づくとうろたえる一方、妨害や自己主張には走らなかった。この第8話で分かるのは、それがただの奥手さではなかったことだ。

 

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副団長のヘンブリッツにベリルへの思いを問われた際、アリューシアはこう答えている。「私は先生を幸せにしたい。ただそれだけです」と。翌日、勝てば好意を伝えるつもりで挑んだ勝負に敗れた後は「私が幸せにできればよいのですが、必ずしも私である必要はありません」……とも。おそらく、この「幸せ」とは伴侶に限った話ではないのだろう。社会的な栄達も、間違いではないが全てではない。

 

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アリューシア「嬉しいです。先生のもとを離れてから積み重ねてきたものを、こうして見ていただけるのは」
ベリル「うん。すごいものを見せてもらってる」

 

今回ベリルが一番幸せを味わっている時。それはアリューシアと手合わせしている時だ。一種の無拍子を使いこなす彼女の剣は彼の動体視力をしても簡単にかわせるものではなく、ベリルはアリューシアの踏み込みの隙をついてマントを掴む奇手に出ざるを得なかった。そんなことをできるのはベリルだけだとヘンブリッツは指摘しているが、逆に言えばベリルにそんな手を使わせるのもアリューシアくらいであろう。その証拠に、勝負の終わった後ベリルはいつもと違い謙遜しなかった。逆説的だが謙遜は彼にとって余裕の証であり、アリューシアはその神速の剣でベリルの余裕を吹き飛ばした。新たな扉を開かせ、「幸せにした」のだ。

 

2.あつらえる剣

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アリューシアの願うベリルの幸せとは、彼に新しい世界を味わってもらうこと。そう考えるなら、彼女は前半の買い物でも確かに願いを叶えている。式典用の上等な服も洒落たレストランもベリル1人なら縁がなく、彼が自分で服を選んだりきれいな料理に驚く=新しい経験をする姿はそれだけでアリューシアにとって嬉しいものだったはずだ。

 

今回の買い物だけではない。アリューシアに特別指南役として推薦されて以来、ベリルはたくさんの未知を経験している。道場以外での子供とのふれ合い、自分の家での生活、事実上の養子縁組、そして魔法やこれまでにない強敵との戦い。彼にとってはそれら全てが新鮮で、道場での完成された生活では味わえなかった代物だ。そしてアリューシアの剣がそうであったように、これら初めての体験は私たちにベリルの新たな一面を見せてくれてもいる。今回アリューシアの好意を察しながらも自制していると明かされた点も含め、彼の印象が少しずつ変わっている視聴者は多いのではないだろうか。もちろんそれは彼が大きく変化したわけではなく、どちらかと言えば装いが新たになっている=服を新調していると捉えた方が適切だろう。

 

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ベリルが新たな服を購入した理由、隣国スフェンドヤードバニアからの使節団の来訪。前フリの多さからも、今後はこの行事が重大事になると見て間違いなさそうだ。ベリルはきっと、ここでもまた未知の一面を私たちに見せてくれることだろう。

ただ斬るだけでない、新たな装いをあつらえる剣。それがベリルとアリューシアが今回交えた剣なのである。

 

感想

以上、おっさん剣聖のアニメ8話レビューでした。ベリルもアリューシアも服が新しくなるような話だったな、と思います。ベリルに襞襟はさすがに新世界過ぎるというか、ミュイの反応を見てみたかった気もしますね。
アリューシアをだいぶベタな目線で見ていた自分を反省しないといけません。さてさて、次回はベリルが使節団来訪に備えてモンスター狩りに行く話なのかな?

 

 

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