水入らずの雨――「片田舎のおっさん、剣聖になる」11話レビュー&感想

©佐賀崎しげる鍋島テツヒロSQUARE ENIX・「片田舎のおっさん、剣聖になる」製作委員会

雲からこぼれる「片田舎のおっさん、剣聖になる」。第11話では襲撃事件の黒幕が見えてくる。水入らずの時にしかし、雨が降る。

 

 

片田舎のおっさん、剣聖になる 第11話「片田舎のおっさん、死闘に身を投じる」

ossan-kensei.com

1.ロゼがベリルの弟子たる所以

グレン王子を襲った刺客たちはいったい何者だったのか? ベリルはルーシーから、魔法師団が今回の護衛に参加できない理由と共にその正体についての推測を聞かされる。スフェンドヤードバニアでは教皇派と王権派の対立があり、おそらく教皇派が実権も狙っているというのだ。一方、アリューシアはロゼとベリルの昔話をして打ち解け……

 

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対峙する「片田舎のおっさん、剣聖になる」。第11話はロゼの裏切りが明らかになる回だ。アニメの範囲とはいえ弟子の1人が「ラスボス」とはなんとも辛い話だが、彼女がベリルと戦う相手としての相応しさは確かに描かれていたように思う。今回は剣を持って向かい合う2人と雨の場面をゴールとして、その必然を考えてみたい。

 

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なぜロゼが一種のラスボスなのか? それはおそらく、彼女がベリルに似ているからだろう。もちろん性別や年齢の話ではない。2人が似ているのは年少者への眼差しである。

この11話、ロゼは迷子の子供を見つけるが、その対処の仕方は手慣れたものだ。子供がなるだけ驚かずに済むよう腰を落として話しかけ、母親とはぐれて間もないと推察し、必要な情報を聞き出す……一緒にいたアリューシアも感心するほど手際がいい。子どもの相手をするのが好きな彼女は、子どもに何かを教えるのもきっと上手なことだろう。そう、ベリルが道場で子どもへの指導に慣れているのと同じように。迷子探しの直前、アリューシアが子供時代にベリルから受けた指導を回想するのは必然のオーバーラップなのだ。

 

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ロゼがベリルに師事したのは1年半だけ、アリューシアやスレナのように人格形成に関わるほど幼かったわけでもない。けれど年長者としての優しさにあふれた彼女は確かにベリルの「愛弟子」であり、ある意味ではもっとも近い存在だ。国に関わる仕事を望んで引き受けたわけではない点でも似通っている。ベリルの鏡としての性質を鑑みれば、本アニメで最後に対峙する相手がロゼなのは必然のキャスティングと言えるだろう。

 

2.水入らずの雨

ロゼにはベリルと対峙する必然がある。だが、それには彼女たちが2人きりの状態を――水入らずの状況を作らねばならない。

 

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振り返ってみれば、この第11話は水入らずの状況が物語を動かしていく回であった。アリューシアがロゼに心を開けたのは2人きりで話して人となりを知れたためだし、ベリルは魔法師団長のルーシーからスフェンドヤードバニアの政権争いについて聞くことで暗闘のあらましを把握できている。そして込み入った話だと察した同居人のミュイが席を外したように、水入らずの状況は時に親しい者であっても立ち入りが許されない。例えばそう、ベリルにとって大切な弟子たちであっても。

 

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2日目、続行される遊覧で襲いかかった刺客の数はあまりに多かった。キリのない多勢を前にベリルは弓兵の排除や要人の護衛を訴え単身残るが、注目すべきは判断の妥当性以上に自分が単独行動できる状況を作った=ロゼの裏切りにアリューシアや教会騎士団長のガドガが動揺する事態を避けたことだろう。裏切りが皆の前で露見すれば護衛にも支障が出たはずで、ベリルがどこまで計算したかは不明だがこれは最善の選択だったと言える。正体を現したロゼを前に彼は「数が多くて難儀した」と語るが、彼がさばいたのは敵に限った話ではなかった。

 

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自分なりに満足していた境遇から「異世界」に転生させられたロゼはベリルの鏡である。そんな彼女と2人きりで話ができる状況は、かくてようやく舞台を整えられた。だが、計算通りだとしてもこれがベリルにとって嬉しい事態のはずはない。場合によっては「愛弟子」の命を奪わねばならない状況のどこが嬉しいものか。だから、この話の最後は2人とも笑顔でありながら雨が降る。

 

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第11話、ベリルがたどり着いたのは「水入らずの雨」である。2人だけの時間にしかし、悲しく重い雨が降るのだ。

 

感想

以上、おっさん剣聖のアニメ11話レビューでした。ヘンブリッツに向かって矢が飛んでくる場面で思わずのけぞってしまったり。なぜここまででアニメが区切りになるのかが示された回だったのだなと思います。ベリルはいったいどうするんでしょうね。
さて、次回はいよいよ最終回!……なのですが、所要のため更新は火曜以降となります。申し訳ありません。

 

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ミュイの気遣いに微笑むベリルとルーシーに更に微笑んでしまいます。いい関係だなあ、この3人。

 

 

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