退治人もすぐ死ぬ――「吸血鬼すぐ死ぬ」1話レビュー&感想

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
原作・盆ノ木至の漫画をアニメ化した「吸血鬼すぐ死ぬ」。タイトル通り、吸血鬼のドラルクはこの1話でも死にまくるが――すぐ死ぬのは彼だけだろうか?
 
 

吸血鬼すぐ死ぬ 第1話「退治人(ハンター)来たりて空を飛ぶ」「バカとコンビニと無常」

行方不明となった子どもを助けるため、吸血鬼退治人ロナルドはドラルク城へ向かう。そこに住むのは、
真祖にして無敵と恐れられる高等吸血鬼ドラルク。しかしその実態はドアに挟まれただけで塵と化す史上最弱の吸血鬼だった。

公式サイトあらすじより)

 
 

1.吸血鬼退治の価値

タイトル通り吸血鬼の登場する本作だが、OPやこの1話を見ても分かるようにもう一人重要人物がいる。ドラルクにさらわれた(との勘違いから依頼を受け)少年を助けに来た吸血鬼退治人バンパイアハンター・ロナルドである。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ロナルド「真祖にして無敵ね。それをハントしたとなりゃあ、悪くねえ肩書だ!」
 
名前から分かるように、吸血鬼退治人というのは危険を伴う職業だ。高い知性と能力を持つ吸血鬼に人間が戦いを挑むのは本来無謀な行為であり、それを生業とするなど相当な強者でなければできはしない。吸血鬼退治は困難であり、故に退治人は人々から尊敬される。希少価値がある、と言ってもいいだろう。
……だが、吸血鬼退治が簡単であったらどうなるか?
 
 

2.退治人もすぐ死ぬ

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ロナルド「リセットボタンみてえに死んでんじゃねーぞ!」
 
ロナルドが相手取ったドラルクは、真祖にして無敵との触れ込みに反しその実態は最弱の吸血鬼であった。ドアに挟まれて死ぬ、殺虫剤をかけられて死ぬ、若い男の血に胃がびっくりして死ぬ……とにかく何かに付けて死ぬ。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ロナルド(話せるか!あんな雑魚とガキの話!)
 
虚弱主人公で知られるアクションゲーム「スペランカー」に比肩できそうなドラルクの死にっぷりはコミカルだが、吸血鬼退治人にとってこれは実はピンチだ。倒すのが困難だからこそ吸血鬼退治人は尊敬されるのであり、耳元で大きな音を立てられても死ぬような吸血鬼を倒しても誰も敬意など払わない。ロナルドが彼との騒動をマスコミに話せないのも当然だろう。最弱の吸血鬼ドラルクは実は、自らが死ぬ度に吸血鬼退治人の価値も殺す最強の吸血鬼退治人殺しバンパイアハンター・スレイヤーなのである。
 
向こう脛を子供に蹴られても死ぬようなドラルクの存在は疫病神そのものであり、彼と共にいるだけでロナルドは災難に巻き込まれてしまう。ただ、彼の身に起きるのはけして災難だけではない。
 
 

3.高級品から日用品へ

消臭剤をかけられても死ぬようなドラルクは吸血鬼退治人の価値を暴落させる。だがそもそも、吸血鬼退治人の地位はそんなに高いものだろうか?
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ロナルド「私は豚です。そういうの勘弁してくださいぼっちゃん!」
ラルク「卑屈!」

 

単に屋敷で遊んでいるだけだった依頼人の息子を追いかけるに際して、ロナルドは自分の身の不安定さをドラルクに語る。依頼をもらうには強さだけでなく知名度や人気も必要で、イメージアップのため地域の清掃活動に参加したり子供が悪評をネットに流そうとしたら自分を豚呼ばわりしてまでやめるよう懇願する彼の立場は確かに不安定だ。砂上の楼閣とまではいかずとも、炎上一つで無職になりかねないのだからその身分は危ういことこの上ない。
 
先に挙げた職業的な理由からも、後半見られるようにおだてに乗りやすい人柄からも「吸血鬼退治人ロナルド」は非常に不安定だ。常にビシッと決めていられるような人間ではとてもない。だが、先ほどと矛盾するようだが、ドラルクといれば彼は一応は吸血鬼退治人でいられる。彼と一緒なら、ロナルドの日々はともかく全て吸血鬼絡みにはなるからだ。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ラルク「わ、若い男の血くどい!ここんとこ三食牛乳で済ましてたからこってりした血に胃がびっくりして……」
ロナルド「吸血鬼やめちまえ!」

 

ラルクは本当に簡単に死ぬ。軽々しく死ぬ。企みが失敗しては死ぬし、暴言を吐かれても死ぬ。時には失敗をやり直すために自ら死を望みすらする。彼にとって死はネットのマンボウ都市伝説ばりにありふれた出来事で、故にロナルドも一緒にいるだけで吸血鬼退治の大安売りをすることになる。この時もはや、吸血鬼退治は非日常の出来事ではない。しかし死ぬ死ぬ詐欺的に価値が暴落しているわけでもない。どちらかと言えば、毎日の食事のように欠かすべからざるものと言った方がいい。本作において、ドラルクとロナルドの関係において、吸血鬼退治は高級品から日用品へ変化を遂げているのである。……それがロナルドの願う退治人の姿かどうかはさておき。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ

ラルク「私の力があってこその解決だと言えますな」

ロナルド「テメーはなにほざいてんだコラァ!」

 
吸血鬼はすぐ死ぬ。退治人もすぐ死ぬ。だが、それを別物として再生させるのがこの作品なのだ。
 
 

感想

 
というわけで「吸血鬼すぐ死ぬ」1話レビューでした。うーん期待通りのバカバカしさだ、感動がないのが特にいい。ドラルクの死因が結構な割合で自爆なのもいい。見ててプレッシャーがかからない、これぞ心のオアシス。……と言いつつ結論出すのにちょっと悩みましたが。
流れるように死んでいくドラルク、彼とロナルドのキレキレの漫才。ギャグ漫画は生物なのでこの構図がずっと続くわけでもないでしょうが、楽しく見られそうです。
 
 

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