戦いの形、遊びの形――「吸血鬼すぐ死ぬ」12話レビュー&感想

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
馬鹿騒ぎの終わらない「吸血鬼すぐ死ぬ」。最終回となる12話では様々な戦いや遊びが描かれる。そしてこの戦いや遊びは、目に見えるものばかりとは限らない。
 
 

吸血鬼すぐ死ぬ 第12話(最終回)「シルバーライズ・ブラインド・ユア・アイズ」「ドレスアップ・フォー・ユー!!」「バカ五番勝負」

愛用していたゲーム機が壊れてしまった。ドラルクとロナルドは「どちらが新型ゲーム機を買うか?」勝負をすることになる。公平を期すため、勝負方法を紙に書いたくじ引きで五番勝負を行うこととなった二人。果たして勝負の行方は?
 

1.見えない主戦場

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
戦いや遊びということで、最初に考えたいのはやはり1本目「シルバーライズ・ブラインド・ユア・アイズ」だ。いつもはふざけたことばかりして見えるロナルド達退治人や吸対のかっこいいバトルが見られる回だが、実際のところ戦いと言えるのは見栄えのする肉弾戦の部分ではなかったりする。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ショット「猿芝居しないでもサクッと退治できたんじゃね?」
 
今回戦った吸血鬼・脚高のアラネアは能力にギャグ要素が無いため強い印象を受けるが、実際のところ強さ自体はさほどのものではない。捕縛後、退治人の一人ショットはロナルドが色仕掛けにかかったふりをして誘い込む必要はなかったのではと疑問視するほどだ。倒しにくいという意味でなら、催眠術と結界を二重使用する吸血鬼・野球拳大好きの方が遥かに上だろう。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ロナルド「結果論だろ。一般人のいる所で暴れられたらヤバかったし」
 
ロナルドがわざわざ手の混んだ芝居をしたのは数的有利の確保ではなく、一般人の被害を避けるためだ。つまりこのアラネア戦の本当の戦いは切った張ったではなくいかに被害の少ない場所へ誘導できるか――誘惑するアラネア側も含め、いかに自分のフィールドに相手を誘い込むかにあったと言える。
 
 

2.本物以上に本物らしく

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先に触れたように、ロナルドとアラネアの戦いはいかに相手を自分のフィールドに誘い込むかにあった。そして、誘い込むためにもっとも有効なのはもちろん、誘っていると気づかせないことだ。
 

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アラネア「ごめんなさい、さっき新横に着いたばかりなの。案内してくれない、ハンターさん?」
 
先手を取ったアラネアは、その美貌と大胆に露出した服装を利用しロナルドに色仕掛けを仕掛けた。しかし名乗る前からハンターと呼んでいたこと、自分がモテることへの違和感からロナルドはこれに全く引っかからなかった。
 

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ロナルド「Hey,ケツ!新横、名所、いいムード……で、デートスポット」
ラルク「必死!」

 

アラネアがものの見事に失敗したのに対し、ロナルドの手並みは終わってみると鮮やかだ。しなを作る彼女に骨抜きにされた演技は日常を共にするドラルクからして本物としか思えないものだったし、アラネアもいかにも挙動不審のバカといったロナルドの様子に腹こそ立てても演技などとは考えもしなかった。本当は色仕掛けにひっかかっていなかったのに、いかにもひっかかっていそうな有様をロナルドは演じて見せたわけだが、こう書くと3本目「バカ五番勝負」の一幕「言ってないけどいいそうなモノマネ」を思い出す方もいるだろう。
 

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ラルク「字の通り、『言ってないけど言いそう!』っていうことを言うモノマネだ」
 
五番勝負の一つとなったこのモノマネ対決は、実在しないが実在するように思えるものを現出させることに勝負の肝がある。ドラルクが実演した「原稿に疲れた時に「おっぱい揉みたい」とか叫ぶロナルド」「道を聞いてきた人をファンと勘違いするロナルド」といったネタは、1本目でロナルドが披露した「吸血鬼の色仕掛けにチョロくもひっかかるロナルド」と軌を一にするものなのだ。
 

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ロナルド「何してんだ店長ォーー!」
 
こうしたモノマネからも見えるように、偽物というのは実際のところ本物以上に本物らしく見えなければならない。2本目「ドレスアップ・フォー・ユー!!」でドラルクに化けた御真祖様がドラルクよろしくスペランカー的よく死ぬゲームの主人公のモノマネをしたり、彼の発案で開かれた仮装パーティの中では吸血鬼・マイクロビキニのビキニが仮装に見えてしまう(本物と偽物の区別がつかない)のもこうした性質の現れなのである。
 
 

3.戦いの形、遊びの形

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ラルク「はーい主旨を理解してないバカ 言いそう感ゼローマイナス2億点」
 
偽物は本物以上に本物らしく見えなければならない。3本目「バカ五番勝負」で繰り広げられるロナルドとドラルクの勝負は、このテーマの極限とも言えるものだ。
 

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吸血デメキン「素直にじゃんけんすればいいのでは」
 
この話でドラルクとロナルドが五番勝負を繰り広げるのは人気ゲーム機の購入費用をどちらが出すか争ってのものだが、吸血デメキンがツッコむようにそんなのはじゃんけんで決めれば済む話だ。つまりゲーム機の購入費用争いは"偽物"に過ぎない。
 

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ラルク「もっと平等にゲームでかたをつけよう!」
ロナルド「平等じゃねーよ!」

 

また、この五番勝負にあたって最大の問題はいかに平等な勝負にするかだった。ゲーム好きですぐ死ぬ吸血鬼ドラルクとアホの退治人ロナルドでは性質が全く違うから、そのままぶつかり合ってもまともな勝負にはならない。じゃんけんのようにすぐ終わらずかつトータルで平等な勝負をする方法として、ランダムに選んだ方法で五番勝負するのは理にかなっている。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ

 

にらめっこ、柔軟、モノマネ、俳句、ダンスバトル……結局のところ、この3本目でロナルドとドラルクが何をしているかと言えば勝負の形で遊んでいるのだ。じゃれているのだ。
青筋を立てるほど互いに腹を立てながら、ロナルドは問答無用で暴力を振るったりしないしドラルクも寝首をかこうなどとは考えない。棚上げにしたダンスバトルを律儀に再開する二人の表情は楽しげだし、実際楽しいのだろう。こんなにムキになれる相手など、望んだってそうは手に入るものではないのだから。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
偽物は本物以上に本物らしく見えなければならないと書いたが、彼らの仲の良し悪しはもはやどちらが本物か分からないほど堂に入っている。二人はこれからも、互いに悪態をつきながら仲良くバカ騒ぎを続けていくのだ。
 
 

感想

というわけで吸死の最終回12話レビューでした。遅れに遅れてしまいました、すみません。ちょっと電池切れを起こしておりました。「偽物の方が本物っぽい」「対等の関係」の2つのワードが浮かんでどちらも片方だけでは最後まで書き切れず、こうやって統合する内容にできるまでウンウン悩んだ次第でもあります。
 
それにしても楽しい作品でした。当初は視聴する予定はなく、ふと「今僕に必要なのはこういう作品では?」と思いつきで入れてみた次第だったのですが大当たりでしたね。福山潤古川慎の喉が心配になるハイテンションぶり、個性的な登場人物の想像を軽く超えるバカバカしさ、それでいてキャラをほとんど使い捨てない作り込み。毎回どんどん愉快になっていく新横浜を見るのは本当に面白かったです。
事実上の分割2クールで作られる自信も納得の出来でした。スタッフの皆様、再開をお待ちしてます!
 
 

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