一寸先は闇――「吸血鬼すぐ死ぬ2」11話レビュー&感想

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
落とし穴に落ちる「吸血鬼すぐ死ぬ2」。11話は雪山でのロナルド達の遭難から始まる。だが、遭難するのは彼らだけではない。
 
 

吸血鬼すぐ死ぬ2 第11話「温めてくれと言ってくれ/レジェンド オブ ロナリスト/常世の町は氷笑卿とワルツを踊る」

ロナルド、ヒヨシ、ミカヅキは吸血鬼退治に向かうも雪山で遭難してしまう。
山小屋に避難するがそこにはマイクロビキニたちもいる。
寒さが増すなか、残された手段は裸で温めあうことだが、各々の思いや意地が錯綜し誰も言い出せない。

公式サイトあらすじより)

 

1.雪山二重遭難

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「圏外で連絡も取れないし、これって遭難ですよね?」「……そうなんじゃ」 冒頭のやりとりが示すように、今回の1本目「温めてくれと言ってくれ」は遭難の話だ。主人公のロナルド達は雪山の小屋におり、台詞と合わせて遭難しているのは一目瞭然である。ただアバンの終わりで遭難者の一人・ロナルドの兄ヒヨシが言うように、多くの視聴者はこうも思ったことだろう。「いったい、なぜこんなことに?」
 

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ロナルド・ヒヨシ「「ていうかお前のせいじゃ!」」
 
本作の舞台は新横浜であり、海に近く気候も穏やかなこの場所は雪山からは縁遠い。にも関わらずロナルド達がこんな場所におり、しかもろくに上着も着ていないのは奇っ怪だ。私達にすれば、これまでの展開が「遭難」しているとも言える。CM明けにはこの雪が「吸血鬼雪にわくわく」の降らせたものであり、予想外の降雪ぶりに雪だるま状態になった雪にわくわくに巻き込まれてロナルド達の服が濡れてしまったといった納得の経緯が語られるが、私達は案外簡単に迷子になってしまうものなのである。
 

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ロナルド「いや、だめだ寒いわ……温め合おう」
ヒヨシ「そいや……」
ゼンラニウム「ううう、人の温もり……」

 

遭難は物理的にするものとは限らない。これは山小屋でのロナルド達の行動でも同様だ。遭難したロナルド、同じくハンターのミカヅキ、ロナルドの兄ヒヨシ、吸血鬼マイクロビキニ、元凶だが根は真面目な公務員の雪にわくわくは凍死を防ぐべく裸になって温め合えばいいと考えるもなかなかそれを言い出せない。どうにか他人に言わせたり他人を裸にさせようとするやりとりは笑いを誘うが、直接言えば終わることをなかなか言い出せないのは彼らの思考が遭難している証である。ロナルド達は裸で温め合おうと言い出せないばかりに裸踊りをし、結局寒さに耐えかねてそれを実行した結果、救援に来た仲間達に気付かない二重の遭難に陥ってしまうのだった。
 
 

2.強敵と書いて"とも"と読む遭難

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ナレーション「『ロナデュエルド』……それはロナリスト同士が己の知識と財をぶつけ合う決闘である」
ロナルド(なにそれ)

 

遭難は時に、会うはずのないものを引き合わせることがある。2本目「レジェンド オブ ロナリスト」は2人の遭難者が遭遇する話だ。オータム書店の編集者サンズちゃん(以下サンズ)と吸血鬼対策課の半田が「ロナデュエルド」なるゲームに興じる話だが、二人の目的は本来このゲームではない。サンズは担当編集のフクマに代わって「ロナルドウォー戦記」の原稿を引き取りに、半田はロナルド不在の間に嫌がらせをしようと彼の事務所にやってきたのに、彼らは当初の目的を完全に忘れて――つまり遭難して――いる。ついでに言えばこのロナデュエルドはロナルドに関する知識と財をぶつけ合うものだが、ロナルド自身はそんなゲームの存在を知らない。原稿が書けていない罪悪感から咄嗟に隠れてしまった彼はもはや出るに出られず、ロナルドもまた遭難していると言える。
 

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半田「やつを全力で馬鹿にするためだ!」
 

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サンズ「ロナルドさんが昔、ブログにアップしてたポエム!」
(中略)
ロナルド「うわーーー、ああ、ああーーーっ!」

 

「ロナリスト」としての属性を光と闇に例えられているように、サンズと半田のロナルドへの執着の仕方は正反対だ。サンズはファンが高じて担当編集になるべくオータム書店に就職したほどロナルドが大好きなのに対し、半田は隙あらばロナルドに嫌がらせをしようとするほど彼のことを嫌っている。しかし、ロナデュエルドを通じて私達が感じるのはむしろ互いの執着がよく似ている事実であろう。半田はロナルドを全力で馬鹿にするために「ロナルドウォー戦記」を暗唱できるほど読み込んでいるし、サンズはロナルドの全てが好きなばかりに彼にが忘れたい昔のポエムすら喜んで引っ張り出して戸棚の奥の本人を悶絶させていたりする。そもそもがロナデュエルドはゲーム用アイテムではないものをゲームのように扱う代物であるから、この成立にはむしろ対戦者の共通項が欠かせないものなのだ。
 

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サンズ「……ありがとう」
 
執着の感情は正反対であったはずのサンズと半田にはいつしか友情にも似た思いが芽生え、二人はメッセンジャーアプリの連絡先交換にまで至る。完全にバトル漫画の文法だが、雌雄を決する戦いが友誼に繋がるのはこれはこれで遭難と言えるかもしれない。
 
 

3.一寸先は闇

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ロナルド「いや何してんの?」
ノースディン「女の子を……口説いてる」
ロナルド「なんで今!? 運命!?」

 

遭難は思わぬ方向へ事を運ぶ。1,2本目で示唆されたことを結実させているのが3本目「常世の町は氷笑卿とワルツを踊る」だ。今回はもう一人の主人公ドラルクの元家庭教師、氷笑卿の異名を取る吸血鬼ノースディンが登場する回であるが、彼は劇中で「遭難」としか思えない行動をとる。教え子だが彼を嫌うドラルクの「新横浜は自分が支配している」という大言を試すと言っていたはずが、なぜか道行く女性全員にナンパを始めるのだからロナルド達が困惑するのも無理はない。
 

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ロナルド「あんたすごいな!?」
 
「紳士たるもの視界に入った女性は全て口説く」「全ての女性に貴賤上下の区別なし。受精卵から地縛霊まで誠意を込めてナンパする」……劇中の発言に嘘はなく、彼の遭難的ナンパぶりは徹底したものだ。毒舌なター・チャンや色恋に関心の薄いマリアはおろか、メスならニホンオッサンアシダチョウすら口説きにかかる様はもはやキザという言葉では言い表せない。だが、これは遭難であるが故に遭難ではなかった。
 

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ノースディン「制圧完了。……ちょっと椅子が硬いかな?」
 
ノースディンの口説きは文字通りの口説(くぜつ)だけではなく、チャームという特殊能力を伴うものだった。彼の言葉にほんの少しでもドキッとした者は魅了にかけられ、意のままに操られる人形と化してしまう。気がつけば新横浜の女性の多くはノースディンの部下にして人質となり、ハンター(吸血鬼退治人)のギルドすら制圧されてこの11話は幕を閉じることとなった。2本立ての話自体は今までもあったが基本的には1話内で終わっていたし、いつもの嘘予告ができなくなってしまったからこれは異例なことだ。
 

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ノースディン「ほう、お前の町か。面白い、お前の支配がいかほどか一つ試してみてやろう」
 
シリアスな設定を覗かせつつも主体はギャグにあり、皆が笑いの中で過ごす場所。「吸血鬼すぐ死ぬ」における新横浜はそういう場所だった。どんな強大な吸血鬼もそれには抗えなかったのがこれまでの本作だ。だがノースディンはこれを逆手に取り、ナンパギャグの果てにいつもの本作の形を失わせてしまった。実に本作らしい展開をしていたはずなのに、この23話はいつの間にか「遭難」してしまっていたのである。これまでの話は「吸血鬼すぐ死ぬ」の、つまりドラルク支配下にあったわけだから、それを覆したノースディンの行動は実際は一貫したものだったと言える。
 

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遭難とは難に遭うことだが、多くは山などで道に迷うことを言う。山登りや旅行なら地図を見ればその危険はかなり低減できる。けれど人生には地図はなく、まっすぐ進んでいるつもりが迷走していることもあれば、逆に迷ったおかげで一筋の道が見えてくることもある。どちらがどちらであるかは後になってみなければ分からないし、なんなら後になって見えたものすらかえって誤りであることも珍しくない。生きるとはつまり、遭難と直進の錯覚の絶え間ない更新である。
 

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「一寸先は闇」という言葉は、幸不幸の予測のつかなさだけを言うわけではない。本当のところ私達は、生まれてから死ぬまでずっと遭難し続けているようなものなのだ。
 
 

感想

というわけで吸死のアニメ2期11話レビューでした。遭難の話だな、と分かりつつなんだか筆が迷い、気がついたらこんなテーマにたどり着きました。遭難と言えば今回のレビュー自体が遭難……カメ谷がロナルドを褒める時にそっと目をそらす半田とか、ノースディンに手の甲に口づけされたヒナイチがかつてドラルクに同じことをされたのを思い出してドキッとしちゃうのとか芸が細かくて面白かったです。ラスボス的な位置づけに堀内賢雄さんとは納得のキャスティング。
 
さて、2度目のダンスオールナイトも次回でいよいよ最終回。1話で感じた「嘘と本気がじゃれ合う場所」というテーマにおおよそ則って毎回のレビューを書いてきましたが最後はどうなるのか。楽しみに待ちたいと思います。

 

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