嘘と本気がじゃれ合う場所――「吸血鬼すぐ死ぬ2」1話レビュー&感想

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
蘇りの「吸血鬼すぐ死ぬ2」。1話ではロナルドとドラルクの変わらぬ馬鹿騒ぎが描かれる。本作がどんな世界なのかは、この馬鹿馬鹿しさを見ればよく分かる。
 
 

吸血鬼すぐ死ぬ2 第1話「ドラルク・ともだち・ひとりだち未遂/それ行けゴーストハンターズ/ドラルク・ザ・サイレントジャマー」

ロナルドの不注意でゲーム機のコンセントを抜かれてしまい、拗ねたドラルクは事務所を出ていった。
帰ってこないドラルクにイライラするロナルドと心配するジョン。
一方ドラルクは泊めてくれる人を探して退治人ギルドを訪れていた。

公式サイトあらすじより)

 

1.冗談に必要なもの

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
盆ノ木至が週刊少年チャンピオンで連載中のギャグ漫画のアニメ化である「吸血鬼すぐ死ぬ2」。2021年秋に放送された1期は大好評、最終回と同時にこの2期が発表されていた。さほど間が空いていないこともあってこの2期1話は名前以外はことさら説明せず、できるだけたくさんのキャラが登場する話がチョイスされている。ただ、そうは言っても30分の中に詰め込まれる話には自然と必然性が生じるものだ。今回の話では「嘘」あるいは「冗談」が一つのキーワードになっている。
 

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カメ谷「はいメンバーが揃ったところで! 週バン特別企画、『ロナルド対幽霊! 怪奇の正体を探れハンター!』の取材を開始します」
ロナルド「うわーん騙されたーーっ! ふざけんなよめっちゃ俺楽しい飲み会期待してたのに!」

 

例えば1本目「ドラルク・ともだち・ひとりだち未遂」では同居する吸血鬼退治人ロナルドと喧嘩した吸血鬼ドラルクが彼の事務所を飛び出すが、二人はどちらも本気で出ていくと思っていたり出ていこうとするわけではない。この家出は1期からおなじみのじゃれ合い、「嘘」に過ぎない。また2本目「それ行けゴーストハンターズ」ではロナルドが旧友の記者・カメ谷に飲み会と嘘をつかれて廃病院探索に付き合わされ、3本目「ドラルク・ザ・サイレントジャマー」では自伝的小説の執筆に集中したいロナルドの気分をドラルクが妨害しようと(嘘にしようと)する。この3本にはいずれも嘘が絡んでいる。が、これらは嘘をつく者つかれる者の仲の悪さを意味しない。どれもがあくまで「冗談」だからだ。
 

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ロナルド「お前がいるのはとっくに分かってたんだよ」
半田「クリオネの他にも気配がしたからな。一芝居打たせたのだ」

 

「冗談」は誰に対しても言えるわけではない。こいつは嘘をついてるんだなと分かってもらえなければ意味がなく、本気で受け取られてはむしろ困ってしまう。そこに必要なのは肝胆相照らすような気心の知れた関係であり、つまり冗談は仲良しの証だ。2本目でもロナルドはカメ谷に騙されて本気で涙する一方で怒って帰ったりはせず、廃病院に潜んでいた吸血鬼・下半身透明に対しては一緒に一芝居打っていたりする。ロナルドにしてみればこんな目に遭うのはカメ谷と同じ高校に通っていた頃から慣れっこで、今更関係を考え直すようなものではないのだろう(それはそれでひどい)。ただ、世の中は全てが冗談で済むわけではない。
 
 

2.嘘と本気がじゃれ合う場所

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ラルク「あれのおかげで自由に入れていたのに……! これでは事務所に戻れないではないか」
 
世の中には冗談があふれているが、時には冗談で済まない場合がある。これは1本目の冒頭、ドラルクの家出で端的に示されている。先に触れたようにドラルクとロナルドは本気で家出(させること)を考えていたわけではないが、コンビニでチャンピオンを立ち読みして戻ってきたドラルクはロナルドの事務所に入れなくなっていた。家出の際に事務所前の「どなたでもお気軽にお入りください」の貼り紙が剥がれてしまい、古の吸血鬼であるドラルクにとって事務所は招かれざる部屋=入ることを許されない部屋になってしまっていたのだ。二人にとってこの家出は嘘や冗談に過ぎない筈が、偶然の結果それでは済まなくなってしまったのだった。
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
あっちゃん「遊ぼうよ」
 
仲の良さや気心といったあいまいなもので成立する以上、嘘や冗談はいつだって本物に変わるし、あるいは本物なのにそう誤認されることもあるものだ。2本目ではロナルドは廃病院で起きる怪奇現象が全て吸血鬼・下半身透明のイタズラだと思っていたが実は本物の幽霊の仕業だったし、3本目ではロナルドはドラルクのイタズラを無視しているようでむしろどっぷり術中にハマっていたりする。ただ、これは危うさであると同時に優しさとも言えるものだ。
 

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下半身透明「はーい皆様、マジで出るお化け屋敷にようこそ! あっちゃーん! お客さんだよ!」
あっちゃん「わーい! 遊ぼーっ」

 

1本目、部屋に入れなくなったドラルクはロナルドが本気で自分を追い出そうとしていると思いあちこちを回ったが、結局それらは長続きしなかったしロナルドは彼を追い出すつもりなどなかった。2本目では冗談と思っていた幽霊が実在したことが明かされるが、舞台である新横浜の人々はむしろ廃病院を観光スポットにして幽霊と友達になってしまう。ロナルドが結局原稿を仕上げられず編集のフクマさんからのお仕置き確定の状況下、このオチは想定していたと真面目に挿入歌を歌って終わってしまう3本目に至ってはもうどこからどこまでが嘘か本気か分からない。皆真顔なほど嘘っぱちであり、嘘っぱちなほど本気だ。
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
あっちゃん「よろしくーっ」
 
ありていに言えば、この1話はロナルドとドラルクのコンビと同じくらいに嘘と本気がじゃれ合って・・・・・・・・・・・いる。だがそれは混乱や混沌を呼んで終わりになっているわけではない。むしろ、劇中の人々を滑稽ながらも温かく包み込んでいるのがこの嘘と本気のじゃれ合いなのだろう。
ギャグ漫画やアニメの面白さは、どこまで本気でどこまで嘘か分からないところにある。そして、その分からなさ不条理さ故に本作は懐の広い作品なのだ。
 
 

感想

というわけでアニメ吸死2期1話レビューでした。昨日レビューを書いた虚構推理も2期ですが、2期としてのありようが全然違うのが面白いなと思います。島崎信長さん演じる吸血鬼下半身透明、特性があまりにピンポイントで馬鹿馬鹿しすぎる……! 幽霊のフリしてるだけだったのに本当に幽霊と友達になっちゃうし!
今期もたくさん笑わせてもらえそうだと思えた1話でした。次回も楽しみです。
 
 

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