見えない手錠――「吸血鬼すぐ死ぬ2」10話レビュー&感想

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
逃れられない「吸血鬼すぐ死ぬ2」。10話はロナルド達が子供になる異常事態が発生する。だが、それで本作がイレギュラーな内容に変化するわけではない。
 
 

吸血鬼すぐ死ぬ2 第10話「リトル・リトル・協奏曲/リトル・リトル・協奏曲〜鴨潰し編〜/ミラクル・マナクル・どうしていつも俺はこうなる」

新横浜を覆う怪しい霧。その夜、ドラルクは誰かに叩き起こされる。
棺桶から出るとそこにいたのは子供になったロナルドだった。
ヒナイチに助けを求めるが、こちらも赤ちゃんに。慌てて退治人ギルドへ駆け込むがそこも子供だらけで……?

公式サイトあらすじより)

 

1.復元力の強さ

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ゴウセツ「ドラルクさんちょうどよかった、2,3人面倒見てください」
ラルク「すなー……」

 

毎回思いもかけない出来事が起きる「吸血鬼すぐ死ぬ2」だが、今回の1本目「リトル・リトル・協奏曲」および2本目「リトル・リトル・協奏曲〜鴨潰し編〜」の異常事態はかなり広範だ。なにせ霧に包まれた新横浜で皆がなぜか若返り、主人公ロナルドを始めとしたハンター(吸血鬼退治人)も大半が子供になってしまう。進行役としての役割が彼らにほとんど期待できなくなってしまうわけで、これは戦力のみならず物語においても危機なのだと言える。だが、彼らは本当にそこまで変わってしまったのだろうか?
 

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ラルク「こ、このバカさ加減! 隠し子じゃない、ロナルドくん本人だ!」
 
5歳に若返ったロナルドを初めて見た際、もう一人の主人公である吸血鬼ドラルクは彼か彼の兄の隠し子の可能性を考えた。しかし自分からズボンやパンツを脱いだりセロリに猛烈な拒絶反応を示す様はドラルクの知るロナルドそのものであり、故にこれは隠し子ではなく若返りだと理解する。「5歳児が5歳児に」なったというドラルクの例えは言い得て妙である。
 

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ラルク「歴戦のハンター諸君も、子供の頃はさすがにあどけないな」
マリア「こいつ捌いて食っていい?」
ラルク「前言撤回、なにも変わらん!」

 

またワンオペ育児じみた状況に音を上げてドラルクが駆け込んだ新横浜のハンターズギルドではこれまたハンター達が若返っており託児所のような状態になっていたが、彼らも姿こそあどけないがその性質は現在に通じるものを色濃く持っている。お人好しのサテツは少年時代からどこか鈍くさかったり人に流されやすかったりするし、マタギの家系であるマリアはドラルクの眷属アルマジロ・ジョンに目を輝かせたかと思えば捌いて食べていいか聞いたりする。姿も思考も幼くなってはいるが、本質的な部分は変わっていないのだ。こうした「変わらなさ」は彼らハンターだけでなく、この10話自体も実は同様だ。
 

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先に述べたように街中の人が若返るというのは本作でもなかなかない異常事態であり、吸血鬼が姿を見せないこともあってなかなかに不気味だ。ドラルクや年長でこの事態でも青年に戻る程度で済んでいるハンターは子供達をVRC(新横吸血鬼研究センター)のヨモツザカに任せて犯人の捜索に出ていたが、子供達は突如操られるようにしてどこかへ消えてしまう。ここで1本目が終わる引きは「ハーメルンの笛吹き男」を連想させるところもある。だが、本作はけしてホラーや怪奇物語にジャンル変更したわけではない。
 

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アンチエイジング「ガキ大人が図に乗りおって!」
ラルク「黙れ変なおじさんめ、ガキどもの頂点は渡さん!」
 
霧に包んで街の人を若返らせ、子供達を操った者の正体は「吸血鬼アンチエイジング」……この名前を見て「ああ、いつもの吸死だ」と安心した人は多いのではないだろうか? 実際、彼が姿を現した後の2本目は事件でこそあるが展開はあくまでもコミカルになっている。アンチエイジングの目的は子供の吸血であったがそのためには子供のご機嫌取りをする必要があり、彼はぬいぐるみ扱いされて子供達と一緒にやって来ていたドラルクとどっちが子供の関心を引けるか争いを繰り広げたりするがこれは実にバカバカしいものだ。更にGPSで居場所を調べて追いかけてきたハンターに追い込まれ、無理をして彼らを若返らせようとして自分が老けたりハンターが子供と青年を行き来する有様に至ってはもはや不気味さは全くかき消えている。物語は完全にいつもの本作に戻っている。
 

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世の中には元に戻ろうとする力、復元力というものがある。因果がまっすぐ繋がるわけでも復元が必ずしも善というわけでもないが、変化には反発がつきものだしそれは物体に限らない。こうした力は1,2本目から独立した話である3本目「ミラクル・マナクル・どうしていつも俺はこうなる」でも見ることができる。
 
 

2.見えない手錠

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ナギリ「この街に来てから何もかもろくなことがない。辻斬りナギリの名は忘れ去られ、力は衰える一方だ」
 
3本目「ミラクル・マナクル・どうしていつも俺はこうなる」は辻斬りナギリを主役とした回だ。辻斬りのあざなが示すように彼は血液の刃で人を襲う凶悪な吸血鬼だったのだが、分霊体を事故で破壊されて以降は不死身の力を失い隠れ潜むような生活を余儀なくされている。そしてもう一つ彼を怯えさせているのが、最近吸血鬼対策課(吸対)に新たに配属されたケイ・カンタロウの存在である。
 

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カンタロウ「辻田さん、奇遇であります! お会いできて嬉しいであります!」

 
カンタロウは元は平凡な警察官であったが、ナギリに襲われて以降別人のように彼に執着するようになり吸対にやってきた男だ。ナギリを実体以上に強大な存在と認識し常にパイルバンカーを携帯する彼に弱体化したナギリは怯えており、顔が割れていないのを必至で隠して彼と縁を持たないようにしている。にも関わらず今回はカンタロウが持っていた新型特殊拘束手錠で偶然彼と片手を繋がれ、どうにかそれを解くべく奔走する羽目になるのだからたまったものではない。……が、ぶっちゃけてしまえばこれは、いつもと何が違うのだろうか?
 
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ

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カンタロウと遭遇した際にナギリは言う。「うるさい! なんでこうバッタリ会うんだストーカーか貴様は!」 また、彼に手錠を見せられた時はこうも思う。「猛烈に嫌な予感がする。そして俺はその嫌な予感を避けられたことが一度もない!」と。実際、鍵がなければ絶対に解けない手錠などと言われてナギリとカンタロウが片腕ずつ拘束される展開を予想しなかった人はいないだろう。完全にお約束であり、避けようと抗おうと物語はそこへ戻ってくる。復元・・する。
 

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ナギリ「ゆっくり降りろ! 引っ張るなよ、せ、背骨が折れる……!」
 
手錠で拘束されるのは視覚的には初めてだが、二人はこんなものがなくともある種の運命で結ばれている。鍵を巻き込んだチスイミノムシを捜索する時の彼らは漫才コンビそのものだし、羽化した成体から逃げる時もその息はぴったりだ。今回ナギリは血の刃でチスイミノムシやカンタロウを切ろうとするもいずれも果たせず、刃はむしろビルから落下した際に自分とカンタロウを繋ぎ止めるために活用されているが、これは彼の力がもはや切断ではなく結びつきのためのものとなっている証拠なのだろう。かつてナギリがカンタロウを襲った血の刃は実のところ、二人を結びつける点で手錠と全く同じ存在なのだ。
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
ナギリ「しゅ、趣味で……」
カンタロウ「よくお似合いであります!」

 

全てのものには元に戻ろうとする力、離れまいとする力がある。それは物体には限らず人の心にも物語にも、あるいは人と人との関係性にすら働き、私達は自由意志で考え動いているつもりでそこから逃れられない。それはいわば見えない手錠だ。見えない手錠こそ、切ることも解くこともできない絶対の手錠なのである。
 

感想

というわけで吸死のアニメ2期10話レビューでした。遅れてしまってすみません、スマホがトラブルに見舞われたり寝不足がまだ解消に遠かったりとちょっと昨晩は余力がなく。最初は復元力を結論に書こうとしたのですが、途中でちょっとしたものを目にしてしまったこともあって最終的には運命論のようなところにたどり着きました。
 

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ロナルド「俺に……俺たちに何が起こったんだ……?」
ジョン「オヌンヌン」

 

2本目の終りのこの場面、直前のカットでは普通に見えるヒヨシのヒゲが実は片方落ちてるのが最高ですね。何が起こったんだってある意味いつも通りだよ!
 

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