ドラルクの街――「吸血鬼すぐ死ぬ2」12話レビュー&感想

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
宴は続く「吸血鬼すぐ死ぬ2」。最終回12話はノースディンとの対決……だけでは終わらない。だが、彼との戦いはこの2期の何たるかを体現している。
 
 

吸血鬼すぐ死ぬ2 第12話(最終回)「続・常世の町は氷笑卿とワルツを踊る/新横浜の楽しいバカ野郎たち スペシャルver./新春コタツ十二問答」

商店街のくじ引きで温泉旅行を当てたドラルクとジョン。
だがそこには吸血鬼対策課、退治人ギルドの面々、そしてなぜか吸血鬼たちも。
奇跡的にスケジュールが重なり、新横浜の新しい名所・百和温泉に全員勢ぞろいしてしまう。

公式サイトあらすじより)

 

1.似て非なるノースディン

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ノースディン「おーいドラルク、聞いてるか? 新横は素敵な女性ばかりですっかり気に入ってしまったよ。おや失礼、ここはお前の街『だった』かな?」
 
主人公ドラルクの師・吸血鬼ノースディンがその能力で新横浜を制圧。まさかの次回へ続くとなっていた「吸血鬼すぐ死ぬ2」。これまで数々の吸血鬼を撃退してきたドラルクやもう一人の主人公ロナルドがこうも容易く制圧を許してしまったのは、ひとえにノースディンの巧みさにあった。本作は皆が大真面目にバカをやるコミカルな作品であるが、彼は道行く女性を片端からナンパする大真面目なバカぶりに女性達にチャーム(魅了)をかける真意を秘しており、彼女達を手駒兼人質に変えてしまったのである。およそナンパに引っかからなそうな女性陣を彼が転がしていく様を笑って見ていたはずが、いつの間にかのっぴきならない事態になっているのに驚かされた視聴者も多いことだろう。ノースディンの手際は実に鮮やかで、本作のあり方を逆手に取っている。……だが、これが本作の流儀に合っているか?と言えばノーだ。彼のやり方は一つ、ドラルク達と決定的な違いを抱えている。
 

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ノースディン「意思が強いね君達は。チャームをかけ直さないと不安定だ」
 
ノースディンのやり方の唯一にして決定的な問題点。それは「魂胆が分かると笑えない」ことにある。前回の彼のナンパは毒舌を浴びせられたり頭をひとのみされても意に介さない肝の座り方が笑えたわけだが、女性陣をすっかり手駒に変えてしまった今回のナンパはもはや笑えるところがない。力が強まり対面しなくてもチャームできる状況になった今回の序盤は口説き文句が出てこないし、ヒナイチ達名有りの女性陣は今回も歯の浮くような口説き文句を聞かされているが、チャーム維持のためのそれは彼女たちが人形にされ続ける意味しか持たないから哀れにこそ思えど笑えたりはしない。魂胆が分かると笑えない彼の口説き文句は、計算ずく故に笑いからシリアスへの一方通行の移動しかできない。
 

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ラルク「エンジェルズのお出ましよ!」
ジョン「ヌー!」
ノースディン「何ぃ!?」

 

本作の笑いというのは、一方通行しかできないような不自由なものではなかったはずだ。逆に言えば、それを示せばノースディンのペースに乗せられた現状も覆すことができる。ドラルク達が採った対抗策とはなんと、新横浜の変態吸血鬼達の力を借りてマイクロビキニゼラニウム姿になってノースディンのチャームに抗うことであった。
 
 

2.ドラルクの街

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ラルク「舐めるなよノースディン! 言ったはずだ、私はあんたを倒すためならどんなことでもするってな!」
ジョン「ヌー!」
ノースディン「何ーー!?」

 

ラルク達の対抗策の魂胆は分かりやすい。先に他の吸血鬼の催眠の影響下にあればチャームにはかかりにくいし、吸血鬼ゼンラニウムの種はショック療法か万能薬か不明だがやはりノースディンの支配をはねのける効果がある。筋は通っている。……が、だからといってそれによるドラルク達の珍妙な姿の面白みはなんら減じることはない。むしろ魂胆が分かっている方が笑えすらする。劇中では女性なら誰でもOKなノースディンの基準を逆手にとったコント番組じみた女装であるとか、衝撃でドラルク股間ゼラニウムが散るのを目にしたヒナイチがかつて受けたY談催眠術を再発させて正気に戻る様などが描かれるが、これらはよく考えられている分だけ私達を笑いの渦に巻き込まずにはいられない。
ノースディンが展開をシリアスに戻そうとしてはドラルク達の抵抗に遭って笑い話に戻されてしまう様からも見えるように、この12話1本目の反攻の真価は笑いをシリアスへの一方通行から解放している点にある。絵面はほとんど見苦しいほどだが、新横浜はこれによってノースディンの制圧下から「ドラルクの街」に戻ったと言えるだろう。
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ

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ノースディン「本当に……本当に強くなった。街の奴らと仲良くな」
ラルク「……ふん」

 

「ドラルクの街」、本作における新横浜は笑いとシリアスが一方通行ではなく循環する街だ。言い換えれば、ここを訪れた者は自分を頑なな状態から解放することができる。真面目なハンター・ミカヅキや辻斬りの異名をとった吸血鬼ナギリはこの街を訪れて随分変わったし、逆に天才外道研究者のヨモツザカや小5のスーパーマンに例えられるご真祖様のようにギャグ担当としか思えない者が意外な過去を覗かせる場面もこの2期では見られた。嫌味なばかりの師匠と思われたノースディンはドラルクに撃退されて引き上げる際に弟子の成長を喜ぶ素振りを見せたりもしているが、これもきっとドラルク達の魔法の仕業なのだろう。温泉旅行に行く2本目「新横浜の楽しいバカ野郎たち スペシャルver.」やロナルド、ドラルク、ジョンが部屋から出ることなく駄弁るだけの3本目「新春コタツ十二問答」が風変わりなようで普段の本作そのものであるように、本作が見せてくれる時間はいつもありふれたものであると同時に特別だ。
 

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この街では全てがすぐ死に、しかしそれによって新たな生を得る。ラルクの街とは、新横浜とは、当たり前と特別が融け合う場所なのである。
 
 

感想

というわけで吸死のアニメ2期最終話レビューでした。1本目がどんな話かは昨日の内に書けたのですが、どうもテーマとしては弱くて。そこまでたどり着く体力が残っていなかったため1日遅れになりました。
 
ラルクの街というのがけして単なる大言壮語ではない、というのは確かに締めに相応しいのではないでしょうか。広がる世界がよく表現された2期だったと思います。スタッフの皆様、お疲れ様でした。
 

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ピザを注文すると聞いて喜んだり、届いたピザにそわそわするジョンかわいい。おごりたい!
 

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