知の功罪――「月とライカと吸血姫」3話レビュー&感想

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© 牧野圭祐小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
未知の世界を目指す「月とライカと吸血姫」。3話ではイリナの高所恐怖症克服が一つの課題となる。そして、課題を抱えるのは彼女だけではない。
 
 

月とライカと吸血姫 第3話「夜間飛行」

訓練を始めて10日。全てにおいて優秀な成績のイリナだが、高所恐怖症のため、宇宙飛行士に必須なパラシュート降下だけうまくいかない。空の良さを知れば、恐怖を克服できるのではないか。イリナのため、レフは一計を案じる。
 
 

1.恐怖を克服する方法

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© 牧野圭祐小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
レフとイリナを乗せた飛行機が宇宙そらを飛ぶ映像が印象的な3話だが、セリフで見た時印象的なのはアーニャの一言だろう。吸血鬼の恐ろしい話がほとんど誤解とは言え怖くないのかと尋ねるイリナに、アーニャはこう答える。
 

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アーニャ「恐怖を克服する唯一の方法は、相手を知ることです」
 
至言と言っていいだろう。得体の知れないものほど、可能性を秘めたものほど怖いものはない。宇宙飛行士候補生の一部がイリナを疎んじるのは彼女をよく知らないからだし、弾道ミサイルの爆発事故は証拠がまともに残らぬからこそ陰謀の噂を呼ぶ。
 

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アーニャと話したわけではないが、レフがイリナの高所恐怖症を治すため取った方法も考え方としては一致する。イリナは彼の操縦する飛行機に乗って飛んだことで空を知った。それが宇宙への道なのだと、自由への道なのだと知った。だから彼女はもう、空を恐れない。
 
知れば恐怖は克服できる。アーニャがイリナと互いの呼び名に親しみを込めようとしたように、距離を縮めることにも繋がる。だが、知ることは必ずしも幸福ばかりを連れてこない。
 
 

2.知の功罪

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ユスティン「礼を言うぜレフ?馬鹿な短気を起こしてくれて」
 
イリナ同様、レフは宇宙飛行士候補生からあまりいい目で見られていない。その一人ユスティンに至ってははっきり軽んじているが、それはレフを彼が「知っている」からだ。かつてレフは宇宙飛行士候補生の中でも指折り優秀な存在であり、他の候補生の夢を奪う"可能性"があった。しかし事件を起こした結果、レフは補欠に落第し宇宙飛行士に選ばれる目はなくなってしまった。可能性がなくなったと知っているのだから、ユスティンにすればレフを恐れる必要はない*1
 

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また、訓練生活を共にしていきレフはイリナのことを様々に「知る」ことになった。吸血鬼のイメージのほとんどが誤解であること、レモン入りの炭酸水が好きなこと……そして彼女を知って芽生えたのは「なぜイリナはこんなにも懸命に訓練に取り組むのか」という疑問であった。知ったことによって、レフは更に得体の知れないものに触れることになったのだ。
 

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© 牧野圭祐小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
知ることは時に、更に深い未知や恐怖の入口にもなる。ロケットが純粋に宇宙開発のためのものではないと知ったイリナが、それを皮切りに共和国の実情に触れるように。イリナのことを知っていく内にレフが彼女に入れ込み(高所恐怖症の克服は、完全に彼女の処刑を防ぐのが目的になっている)、友人のフランツから後で辛くなると釘を刺されるように。
高温耐久訓練の中でイリナが回想する過去にいったいどんな意味があるのか、それを知った時レフはどうするのか。知ることへの扉は、レフにも私達にもまだ恐怖の向こうにある。
 
 

感想

というわけで月とライカと吸血姫の3話レビューでした。うーん、今回は手こずった。視聴自体は月曜にしてたのですがあまりしっくり来ず、後回しになっていました。今回の話も「混同と峻別」あるいはそこから続く文脈で捉えられそうですが、ちょっと僕の実力不足ですね。上手いこと糧にしたいものですが……
 
 

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*1:逆に言えば、ローザの頑なな態度はむしろ復帰の可能性を恐れている?