毒を以て毒を制せない――「吸血鬼すぐ死ぬ」4話レビュー&感想

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
変態まみれの「吸血鬼すぐ死ぬ」。4話は3本立てで数多くの(半)吸血鬼が登場し大暴れする。コメディであるからこそ熾烈なバトル回でもある今回、鍵となるのは毒のような劇薬だ。
 
 

吸血鬼すぐ死ぬ 第4話「愛ゆえに変態」「台所リベラルフォース」「その男の名は半田」

吸血鬼対策課の半田が、ロナルドの事務所を訪ねてくる。視察のためと言いつつ、真の目的はロナルドの弱みを掴むことにあった。何かを隠したがっている様子のロナルド。好奇心をくすぐられたドラルクは半田を手伝うことにする。
 

1.コメディであるからこそ熾烈なバトル回

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ラルク「うわーっ、台所が選挙された!?」
ロナルド「クソが、いったん退却だ退却!」

 

4話は全く独立した3本立ての非常に賑やかな回だ。変身能力が暴走する吸血鬼へんな動物、吸血野菜、ダンピールの半田……それぞれの話に関連性は全く無く、気楽に笑える内容に仕上がっている。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ラルク「離せロナルドくん、アイツの顔面ビンタしてやる」
ロナルド「やめとけ、お前が反作用で死ぬだけだ」

 

ただ見逃せないのは、彼らはみな吸血鬼の類でありロナルドやドラルクに牙を剥いている点だろう。へんな動物は何をしてもロナルド達を苛立たせるし、吸血野菜は家を占拠せんばかりに繁殖。半田に至ってははっきりロナルドに敵意を抱き、彼の秘密を暴いて破滅させようとする。銃の出番がなくとも、これはれっきとした3本勝負のバトル仕立てなのである。
 
 

2.劣勢を覆す劇薬

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
バトル回として見た時、今回のロナルド達は基本劣勢だ。へんな動物は箸が転んでもエッチな妄想に走る手のつけられなさだし、吸血野菜は煮ても焼いても(焼いてないけど)食えない上に増殖して台所を我が物顔で歩き回る。ロナルドが一応は相談された身ながらへんな動物の暴走の制御にさじを投げたり、苦手なセロリの吸血野菜化に錯乱する様子はいかに彼が追い詰められているかの証明だ。追い詰められたロナルド達が閃く、戦況をひっくり返す一手――それは劇薬、ある種の"毒"の使用であった。
 

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ロナルド「オラァ!見さらせショック療法だ!」
 
へんな動物にはエッチな想像を萎えさせるのではなくむしろ過剰摂取を。増殖しまくった吸血野菜どもには同じく吸血鬼化したにんにくを。前者に対してロナルドが言うように、これは逆転の発想だ。事態を悪化させるものを用いて問題を解決しようというのだから、「毒を以て毒を制す」と言っても良い。へんな動物は能力の制御に成功しかけ、吸血にんにくは他の吸血野菜を駆逐すると狙い自体は確かに上手く行った。
……ただし、それで全てが解決するほど世の中は甘くはない。
 
 

3.毒を以て毒を制せない

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
半田「奴の恥辱を世間に晒し、社会的に抹殺し、お母さんの目を覚まさせるんだ!」
 
「毒を以て毒を制す」試みのてん末を考えるにあたって、重要なのが3本目に登場する半田の存在だ。吸血鬼対策課に所属するダンピール(吸血鬼と人間のハーフ)の彼は元同級生のロナルドを異常に敵視しており、今回もドラルクの視察を名目に事務所へやってきた。買収したドラルクと共に家探しをしてロナルドの弱点を掴み、彼のファンになってしまった母の目を覚まさせようとする……というのが3本目のあらすじである。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ロナルド「ジョンだけは俺を裏切らない……!」
ジョン「ヌー……」

 

ここで面白いのは、半田の存在やこの3本目には様々な反転が見られる点であろう。半田はロナルドを憎んでいるがそれ故に彼に異常に詳しくストーカーになっているし、仕事のはずの視察が名目で家探しが目的というのは公私の別が反転している。ゲームや好奇心に釣られてドラルクが寝返ったり、ロナルドの足止めをしようとしたジョンが逆に感激されて困ってしまう様子なども反転だし、そもそも1,2本目では立ち向かう側だったはずのロナルドはこの3本目では見つかってはいけない脅威へと反転してしまっている。過剰な毒が、反転してかえって使用者を苦しめているのだ。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ヒナイチ「いかがわしーー!!!」
 
思い返せばこの4話の毒は、もう一つの毒を制しても必ず使用者の方にも毒となって返ってきた。へんな動物の暴走を止めるエロ本はかわいいかわいいヒナイチに性癖をさらすような結果になったし、吸血野菜駆除のためににんにくまで吸血鬼化させればハンターとして一層の恥さらしに陥る。1本目でも2本目でもロナルドは、毒を以て毒を制するようで破滅してしまったのだ。
 
だから3本目も、主体こそ半田に変わるが先の2本同様に毒は己が身に返ってくる。ロナルドのファンになってしまった母の目を覚まさせるためにロナルドの秘密を掴んで破滅させようとした彼は、逆にロナルドが気を使って隠してくれていた母からのファンレターを見つけて血涙を流す羽目になってしまった。コミカルで悲惨だが、自分で辛い結果を呼び込んでしまったのだからこれは自業自得というものだろう(大変な時ほど冷静な判断ができないのが人間というものではあるが)。
 

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©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会すぐ死ぬ
ロナルド「いや……その、お前がおふくろさんからの手紙を見たらショックを受けるだろうと思って……」
 
「毒をもって毒を制す」などと言えば聞こえはいいが、使った毒は必ず反転して己の身に返ってくる。相手にだけ有害で自分には得しか残らない……などと都合良くできてはいないのだ。
 
 

感想

というわけで吸死の4話レビューでした。遅くなってすみません。「毒をもって毒を制す」的な話なのかなという思いつきはあったのですが、それだと3本目でロナルドが脅威の側に回ったりするのが説明できないし結論にたどりつけてないよね……ということで止まっておりました。
 
あれこれ考えるのも楽しいですが、3本が3本とも独立して甲乙つけがたい面白さなのがいっそう楽しい。基本ロナルドやドラルクが叫びっぱなしなのに単調にならないのがすごいなあ。
贅沢な味わい方をさせてもらってるなと思います。次回も期待してます。

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