境界を精査せよ――「境界戦機」11話レビュー&感想

f:id:yhaniwa:20211214211030j:plain

©2021 SUNRISE BEYOND INC.
求めるものを定める「境界戦機」。11話冒頭、野営地へ到着したアモウ達は汚れた自らの乗機を洗おうとする。そして、洗われるのは彼らの機体だけではない。
 
 

境界戦機 第11話「包囲網」

 

1.洗うことは見つめ直すこと

「洗う」という行為は発見に満ちた行為だ。付着した汚れは対象の本当の姿を隠しもするから、それを洗い落とせば意外な実像が見えてくることがある。
 

f:id:yhaniwa:20211214211146j:plain

©2021 SUNRISE BEYOND INC.
アモウ「結構細かい傷が残ってるな……」
 
さっと見た限りでは無傷に思えるケンブも汚れを落としてみれば無数の細かい傷がついており、それを見つけたアモウはこれまでの旅を振り返らずにはいられない。海を渡り水車を作り、東北まで赴き……目に見える進展に富んでいるとは言い難いこの作品だが、それでも確かに小さな変化は積み重ねられている。アモウ達はそれぞれの機体を洗う中でで己の目的や互いが仲間であることを再認識するが、つまり洗うという行為は「見つめ直す」ことだと換言してもいいだろう。
 
対象を洗い見つめ直すことで、人は分かったつもりのものから新たな発見をする。そう考えるなら実は、「洗っている」のは北米同盟のブラッドも同様だ。
 
 

2.境界を精査せよ

f:id:yhaniwa:20211214211159j:plain

©2021 SUNRISE BEYOND INC.
ブラッド「使える情報なら使う、それだけだ。そのために情報局に精査させている」
 
今回ブラッドは、ブレンゾン社のジェルマンから取引を持ちかけられる。喉から手が出るほど欲しいゴーストの居場所の情報を無料で提供するというジェルマンは怪しさの塊だが、ブラッドはそのデータを情報局に精査――洗わせることで情報の利用価値を確保しようとする。AIの勢力変化予想を鵜呑みにするのでなく要因を推測したり、以前のようには部隊を動かせない状況でも手段を考案できるのも彼が「洗う」ことに長けている証明だろう*1
 

f:id:yhaniwa:20211214211213j:plain

©2021 SUNRISE BEYOND INC.
ブラッド「先日とある敵と戦ってね。倒す寸前まで行ったのだが逃げられてしまった」
 
膠着した状況も、洗い直せば意外な変化や活路が見えてくることは珍しくない。ブラッドはレジスタンスであるアモウ達の正体を見抜きながら捕縛せずゴーストの情報を流すという行動に出るが、これはもちろん彼らが何かしらの行動を起こすことで自分達に有利な状況が発生すると見越しての行動だろう。ブラッドはレジスタンスとの敵味方の関係を、その境界を「洗う」ことで手詰まりに思える現状、果ての想像のつかない現状を変えようとしているのだ。
 
 

f:id:yhaniwa:20211214211230j:plain

©2021 SUNRISE BEYOND INC.
将棋や囲碁で何度シオンに負けてもガシンが食い下がるように、首を落とそうが胴体に風穴を空けられようが動きを止めないゴーストとの戦いには終わりが見えない。そして、終わりが見えないのは4つの勢力相手にレジスタンスが文字通りの抵抗を続ける状況でしかない本作もまた同様だろう。どうなれば終わりと言えるのか、本作はその境界線を示すことなく走り続けてきた。
 

f:id:yhaniwa:20211214212450j:plain

©2021 SUNRISE BEYOND INC.

ブラッド「既にカードは揃っている」

 
意図したものなのかどうなのか、アモウやブラッド達がぶつかっている壁は作品そのものの壁と奇妙に符合するものだ。ならば、既にカードは揃っているというブラッドの言葉もまたこの11話自体の状況と同じなのかもしれない。
終わりの見えない状況を「洗う」ことで発見される本作の結末とは、いったい何なのか。ゴーストとの決戦はおそらく、それを示すためにこそ果たされるのである。
 
 

感想

というわけで境界戦機の11話レビューでした。レビューでこう書いたように、本作の終わりの見えない状況は狙って作ってるのかどうなのか。よく分からんという気分の強い作品ですが、1クールの終わりに何か掴めたらと思います。
 

f:id:yhaniwa:20211214211404j:plain

©2021 SUNRISE BEYOND INC.
温泉シーンも悪くないが、縛った髮を軽やかに流す姿がたまらない。
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>

*1:これは遊撃部隊への再編を提案したり、アモウ達のアメインを破壊ではなく奪って乗ってみたいと考えるアレクセイも同様だ