別なる面は境界線から覗く――「境界戦機」20話レビュー&感想

©2021 SUNRISE BEYOND INC.
新たな一面を見せる「境界戦機」。20話では敵味方を始め多くの関係に変化が訪れる。新たな境界線とは、新たな一面を見せるものだ。
 
 

境界戦機 第20話「新日本協力機構」

 

1.多面をもたらす切り口

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宇堂「見返りは現在アジア協商が飛び地的に支配している北陸地方の領土解放と譲渡。ここを日本の土地として3勢力が独立自治を認めると言う」
 
レジスタンス組織八咫烏の代表・宇堂がユーラシア、アジア、オセアニアの3勢力と会合する場面で終わった「境界戦機」19話だが、続く20話では会合の内容が明かされる。それは3勢力が日本地区に限定した協力体制を敷き、八咫烏にも参加を求めているというものだった。見返りとしては北陸地方の解放が提案されており、参加すれば八咫烏は一部だが国土を取り戻すことができる。……ただもちろんこれは、ものの見方の一面に過ぎない。
 
 

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劇中指摘されるように、この協力体制への参加には疑問も問題も山積みだ。北陸地方に樹立される新政府が傀儡政権にならない保証はないし、中国地方を中心としたレジスタンスである八咫烏がこの活動で主導権を握るのは現地のレジスタンスにとってあまり面白い話ではない。またこの活動は最大勢力である北米同盟を大いに刺激する危険も抱えている。故に宇堂も自分の一存では決めきれず、3勢力の興味の中心となっているアモウ達オリジナルアメインのパイロットの意見も聞こうとしている。
 
対照は一つであっても、どの切り口から見るかで様相は大きく変わってくる。それはけして協力体制の案に限った話ではなく、悩んだ末に八咫烏が参加を決めた後半でも多く見られるものだ。
 
 

2.別なる面は境界線から覗く

協力体制を敷こうとするこの20話では、これまでバラバラに描かれてきた人達が初めて、あるいは久しぶりに顔を合わせる状況を多く含んでいる。当然と言えば当然だが、そこに見えてくるのは各人のこれまでとは少し違った表情だ。
 

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アレクセイ「君とは酒を酌み交わしたいな。早く大人になりたまえ」
 
例えばこの協力体制を主導しているのはユーラシア連邦のアレクセイ・ゼレノイ中佐だが、これまでの彼と言えば有能だがキザでうぬぼれの強い男として描かれてきた。しかしああした態度は幼なじみのダリアの前だから見せる稚気でもあったのか、宇堂達に接する際の彼は理性的かつ紳士的な態度を崩さない。アモウ相手に至っては年長者らしい風格すら見せており、味方としては実に頼れる男なのだと新たな切り口で印象付けられている。
 

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ホウ・グアン「私は今回の話を聞いて安心した。お前達に銃口を向けたくなかったからな……」
熊井「……そうだな」

 

またアジア協商のホウ・グアン特任大尉はかつて救われ共闘した熊井との再会を喜び、銃口を向け合わずに済んだことを喜ぶ気持ちを素直に吐露する。軍務に忠実かつ人間性を失わないある種の理想的軍人である彼のこと、もし戦いの場で再会すれば殺し合うことを躊躇いはしなかったろうが、それは殺したくない気持ちの不在までもは意味しない。どちらの態度も、一人の人間の異なる切り口というだけの話でしかない。
 
人は状況、立場、相手等によってどんな自分を表出させるかを変える。言ってみればそれは、自分に切り口という名の境界線・・・・・・・・・・・を都度都度引き直しているようなものだ。宇堂がアモウ達を信頼しつつも大人と子供という観点でははっきりと分けていたり、計画段階では同じ八咫烏の仲間相手でもおいそれと新体制の話を聞かせられないことなどにはこうした切り口の性質がよく現れている。逆に言えば、別人のように思える誰かの姿というのも実際は切り口程度の違いに過ぎないのかもしれない。
 

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ブラッド「離隊届けを出せソフィア・ルイス少尉。私の邪魔になる前に」
 
20話では新体制を巡るやりとりに限らず、北米同盟のブラッド・ワット大尉の暗躍もまた描かれている。序盤は陽気で快活だった彼はすっかり陰謀に手を染め、いまや公安部からもマークされる危険な存在だ。ゴーストを手に入れてから変わってしまったと部下のソフィアが懸念するのも無理はない。しかし彼は登場当初から抜け目のない男だったし、その幼少期は初めてぐっすり眠れたのがアメインの中という奇妙な過去に彩られている。ならば尾行してきたルイスに自分の邪魔にならないよう離隊を促す今のブラッドもまた、どこまでが本心なのであれ本当はそう大きく変わったわけではないのだろう。
 

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協力体制と北米同盟の正式な話し合いの前段階に当たる会議に出席を求められ、アモウはアレクセイと共に北米同盟の支配地域に赴く。彼を指名したブラッドの思惑は。そして勢力図の大きな変化にともなう物語の行く末は。どんな形であれ、次回本作が新たな"切り口"を見せることだけは確かなようだ。
 
 

感想

というわけで境界戦機の20話レビューでした。本分でも書いたように、組み合わせでキャラクターの新たな一面が見えてくるのがいいですね。アレクセイ、本格的に愛されキャラになっていくのでは……人間関係がいろいろ加速していきそうで楽しみです。
 
 

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