唯一無二の弾丸――「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」8話レビュー&感想

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
たった一つが終わりを告げる「バーディーウィング」。8話ではローズの過去と勝負のてん末、そしてイヴの出立が描かれる。どんなに無様であっても、生き様に代わりなどない。
 
 

BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第8話「ファイナル・バレット」

渾身のショットの衝撃で、満身創痍のローズ。勝負の続行は不可能かと思われたが、それでもローズの闘志は消えない。レオは後継者として、ローズではなくイヴを選んだ。イヴの覚悟を確かめるため、ローズはイヴに、自分を越えてみせろと言う。ローズの執念とイヴの覚悟がぶつかり合い、勝負は苛烈を極める。ついに2人は肉体の限界を迎え、ラストショットにお互いのすべてを懸ける。自分を信じて待つ仲間のため――、イヴはローズから勝利をつかみ取ることができるのか!?
 

1.代わりたくても代われない

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
レオ「お前は、俺が磨き上げてやったその才能を自分自身の手で握り潰した」
 
アンダーグラウンドの世界に生き奇妙にイヴに目をかける女、ローズ・アレオン。その正体は謎の男レオにゴルフの教えを受けたイヴの兄弟子という驚きのものだったが、彼女にはまだ隠された秘密があった。なんと彼女の右腕は過去に賭けゴルフで敗れ切断されており、イヴを上回る長打の正体は義手によって手首の負担を無視したフルショットにあったのだ。
 

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
ローズ(超えてみせろよこの俺を。俺の炎はまだ消えちゃいねえ!)
 
イヴに負けまいとクラブを振ったため義手が砕け、一転窮地に陥ったローズはしかし勝負を投げない。片腕でもイヴに食い下がる姿に、思わずローズを応援してしまった視聴者も少なくないだろう。この8話、ローズはまるでイヴに"代わって"主人公になったと錯覚すらするように作られている。
 

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
ローズ(右腕を失ってから……いや。イヴ、お前と出会ってから何度も考える。もし表の世界に行っていたら俺はどうなっていたのか、と)
 
世の中というのは案外代えが効くものだ。カップヌードルの「謎肉」の正体は主に大豆を使用したミンチだし、本作の劇中でも唯一無二の存在を保証するはずの身分証明書が偽造されている。がんもどきなど代替品・代用品に端を発し市民権を得ているものも少なくない。イヴに執着するローズの立ち位置、証明しようとしているものは正にそれ・・だ。
 

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
ローズ(表の世界に行こうとしているお前に勝てば、俺は今までの人生を後悔できる)
 
目先の金欲しさの賭けゴルフで右腕を奪われ、レオにも見放されたローズはイヴに自分が失った可能性を見ていた。レオが自分の代わりとばかりに育てたイヴが陽の当たる場所に出ようというなら、そんな彼女を上回れば自分は本当はもっと成功できたと信じられる。可能性はあったのだと後悔できる。ローズが喉から手が出るほど欲していたのは、まがい物とされた自分が本物が変わらない証を立てることであった。
 

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
イヴ「それから先は皆のお好み次第。なんでもできるし、何にでもなれる……!」
 
右腕がないなら義手を、義手がないなら空の腕を。ローズは代わりを繰り出すことで己の喪失を否定しようとする。しかし人生最後の一打はカップに収まることなく、そして決着はイヴの勝利で幕を閉じた。ローズはイヴに代わることはできなかったのだ。
 
 

2.唯一無二の弾丸

世の中のことはたいてい代えが効く。余人を持って代え難いとされた検事長がいなくなって本邦の検察が大混乱に陥ったという話は寡聞にして聞かないし、旧日本軍やブラック企業にとって兵士や社員の人命などいくらでも代えの効くものでしかない。しかし一方で、代替品や代用品とされるものが元のものと全く同じではないのも確かだ。バターとマーガリンの味は同じではないし、名誉や金で人命が戻るわけでもない。そういうかけがえのなさは時に、良くも悪くも切実な問題となる。
 

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
アンリ「なんで……なんで、なんでテメエなんだよ!」
 
試合の後、ローズの舎弟であるアンリはイヴのところへ押しかけ彼女にナイフを突きつけた。ローズを姐さんと慕う彼女にとって、自分よりも目をかけられしかもそれを歯牙にもかけないイヴの存在はずっと妬ましいものだった。アンリにとってイヴは、代わりたくて代われない存在であった。
 

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
ヴィペール「ティーショットの時みたいなスライスボール、3番ウッドで打てる?」
イヴ「ドライバーでしか打ったことがない……」

 

またイヴは前回葵に教わったスライスボールを披露したが、彼女がそれを打てるのはまだドライバーに限られている。同じゴルフクラブでも3番ウッドでは途端に信頼性が落ち、故にスライスさせた方が良い場面でも彼女はまっすぐ打つ他なかった。3番ウッドはドライバーに代われなかった。
 

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
勝負の最後の一打、ローズのショットはこれで決まってもおかしくない熱量とシチュエーションを注ぎ込まれながらカップへは吸い込まれない。一方イヴの最後の一打は前回ローズが繰り出したのと同様に相手のボールにぶつかって跳ね、そして彼女と違いカップへと降り立つ。同じ師を持ち、同じような技を使い、同じように全てをかけて放たれた一打が見せたのは結局、イヴとローズが決定的に――いや、根本的に違うという残酷な事実だった。
 

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
レオ「分かってるだろう、志だ」
 
ローズに呼び出されたレオは問いに答え、彼女とイヴの違いを語る。イヴには弱いものを倒して悦に入るのではなく、自分より強いものと戦いたいと飢える志があったと。
ローズは悟る。この先イヴが進む道はけして、自分が歩み得たものと同じではないのだと。自分のこの人生は必然であり、後悔する余地などなかったのだと。
 

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
ローズ「なるほど、後悔することもできねえか……」
 
かくて全てに納得し、敗北でカジノの利権を失ったマフィア、マダム・カトリーヌの放った刺客に抵抗することもなくローズはその人生を終える。陽の当たる場所でゴルフをする未来が夢の中にしかなかったと知り、故にそのありえなかったものを夢想しながら凶弾に命を落とす。だがこの結末は、ローズがローズなりにまっすぐに生きた証だ。イヴの人生もまた、ローズの代わりになるようなものではなかった。本作の主役がイヴだとしても、この8話の主役の座は間違いなく彼女のものだった。
 

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
ローズ「行けよイヴ、陽の当たる場所へ。俺が目を背けた世界へ……」
 
「後悔はしない、する必要もない」……勝負の始まりにイヴとローズが共に口にした言葉は、知らずして人生の本質を言い当てていた。今回冒頭口にしたように、ローズは命すら落とそうが何も失ってはいない。唯一無二のバラ色の弾丸は、紅蓮の夕焼けと共に自らを燃やし尽くしたのである。
 
 

感想

というわけでバディゴルの8話レビューでした。おおお……やっぱりこうなってしまうのか……ろくでなしの人生もやはりかけがえはなく、そこには善悪や正解不正解とは次元を異にする意義がある。一人の人間を変にいい人にしたり救いもせず、故に誇り高く描いた回だったと思います。それとヴィペールさんも良い余生を。
 
さて、次回から舞台はいよいよ日本へ。高校生キャラの多くがダブルスでのペアに言及されているのを見ると、葵と組むことになるのかな? まだ顔見せしかしていない亜室の存在も含め、今後が楽しみです。
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>