荒れる心の都――「平家物語」6話レビュー&感想

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©️「平家物語」製作委員会
全てが変わりゆく「平家物語」。6話は福原への遷都から始まる。京の都もけして不変ではない。荒廃するのは町並みだけではない。
 
 

平家物語 第6話「都遷り」

平家への風当たりが強まるなか、京からの遷都が決まり、慌ただしく引っ越しの準備をする資盛・清経・びわ
たどり着いた福原の海岸で、兄弟たちはいとこ違いの敦盛と出会う。
月を見ながら笛を吹き、束の間の交流を楽しむびわたちだったが、清盛の邸では物の怪による変事が相次いでいた。

公式サイトあらすじより)

 

1.失った視点

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©️「平家物語」製作委員会

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©️「平家物語」製作委員会
これまで乱暴な手ではあっても常に勝利を収めてきた清盛だったが、今回の彼はそうはいかない。急なあまり屋敷を立てるのも間に合わない福原への遷都にはみな不満たらたらで、清盛自身も夢現の定かでないもののけに眠りを妨げられる。演奏でもののけを鎮めてほしいとびわに頼む彼は、一人の無力な老人に過ぎない。
 

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©️「平家物語」製作委員会
清盛「何もできぬ貴族と偉そうにするばかりの坊主が支配する、身分と権威が全ての世を我らは変えた。息苦しい世界に風穴を開けたのだ。富と武力でな!」
 
貴族や坊主がのさばる世界への反逆の理想、平家を悪し様に言う声を抵抗勢力と断ずる不屈さ。琵琶の音を聞きながら己の業績を語る清盛の姿は、強い意志に満ちていると同時に余裕がない。いつもの「面白かろう?」がそこにはない。万事上手く行っている時なら口にする必要のなかった正当性を力説せねばならぬほど、彼は追い詰められている。
 

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©️「平家物語」製作委員会
清盛「面白うもない男であったが、あやつだけはワシにも臆さず物を申しておった。まだまだこれからという時に……」
 
また清盛はびわの音に亡き重盛を懐かしむが、それは息子に先立たれた寂しさだけに起因してはいない。それはおそらく、常に常識的で「面白うもない」男だった彼が、しかし同時に自分にはないものの見方を提供してくれる存在だったのを今の清盛は痛感しているからだ。自分が行き詰まったこの時に重盛がいれば、面白くもないが有効な手立てを提案してくれたことだろう。いや、そもそも行き詰まる前に自分を止めていたかもしれない。
 
優秀さと強権を兼ね備えた清盛はしかし、それ故に重盛亡き後自分の考えた物語を改めてくれる者を持たない。「語り直して」くれる者を持たない――喉から手が出るほど欲しかったであろうその役割を果たしてくれる者は、平家の外にあった。
 
 

2.欲しい物を持った敵

この6話では源頼朝がようやく本格的に登場する。平治の乱で伊豆へ流罪となっていた男だが、武家の名門・源氏の生き残りである彼に平家打倒の期待が寄せられていたのは3話でも描かれた通り。
 

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©️「平家物語」製作委員会

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頼朝「……本当にこれが?」
 
本作の頼朝は慎重な男だ。僧の文覚が亡き父義朝の髑髏を持ってくれば本物か疑い、平家を滅ぼせとの後白河法皇院宣を渡されてもすぐには信じない。ユーモラスに描かれてはいるが、後の彼の行動を思えばこの慎重さは猜疑心の現れと見ることもできるだろう。彼は目の前の物事を鵜呑みにせず疑ってみる人間であり、すなわちその時対象は「語り直されて」いる。
 

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文覚「頼朝様ならばどのように変えましょうか?」
頼朝「清盛公とは違い一門以外の武士も取り立て、朝廷は立てつつ新たな世を……!」

 

清盛は自分は身分と権威が全ての世に風穴を開けたのだと清盛は吠えたが、文覚に言わせればそれは平家が朝廷に取って代わったに過ぎない。そして、自分なら清盛と違い一門以外も取り立て朝廷も蔑ろにしない新たな政治の形を作るという頼朝の答えはすなわち清盛の理想の「語り直し」だ。重盛亡き後に清盛の理想を語り直す者は平家の外にあった。しかし、新しき世と平家の世を等しく見る清盛がそれを受け入れられるはずもない。
 
 

3.荒れる心の都

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清盛「亡き重盛は維盛の歳の頃には見事な働きをしておったぞ。維盛にもできる、平家の力を見せつけるのだ!」
 
清盛は1話で、「面白かろう?」の一言で異なるものをひとまとめにしていた。父の銀箔竹光の逸話と海上の社殿、報復としての髻落とし。これら全ては面白いという点で清盛にとって同じであり、別な見方を引き出すのが重盛なら同じ見方を引き出す方に清盛の本領があったとも言えよう。しかし重盛亡き今、清盛のその力は暴走を始めている。
 

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実盛「暮らしぶりが良くなったせいで、平家の武家は昔の猛々しさを失っております」
 
頼朝挙兵の報に激怒した清盛は、討手の総大将に維盛を指名する。父重盛も同じくらいの齢で立派な働きをしたのだから維盛も「同じ」はずだ、と。しかし蓋を開けてみれば維盛は父同様に敵を平らげるどころか、その軍勢は水鳥の羽音を夜襲と勘違いし逃げ出す始末。合戦の前に源氏の武士の手強さを説いた斎藤実盛は平家からかつての猛々しさが失われていると感じていたが、清盛は重盛と維盛どころかかつてと現在の平家の同一性すら見誤るようになっていたのである。
 

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知盛「憎きは頼朝、平家一門を合わせ必ずや頼朝を討ち取りましょう!」
 
重盛は既に亡く、清盛は衰えを見せ始め、危機を迎え始めた平家の世を守ろうと清盛や知盛はこう言う。「一門の力を合わせて」と。それは異なるものを同じもののようにする点で実に清盛らしいやり方でもある。三本の矢のことわざもあるように、結集した力が強くなるのも確かだ。しかしこの時、本来一人ひとりが持っているはずの異なる部分は潰されてしまう。それは維盛に重盛同様の働きができると勘違いしたのと同じ……いや、安徳天皇の即位を自分同様に徳子も喜ばないのか訝ったのと同じ轍ではなかったか。
 

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維盛「都は変わった、私も変わらねば。戦うのだ、戦わねばならぬのだ!平家の武士として!」
 
面目を失う失態を味わった維盛は、かつてその美しさを讃えられた舞を舞わず浜沿いの木々に刀を振るう。平家の武士として戦わねばならぬのだと自らを奮い立たせる。軟弱者が戦士の自覚に目覚めた称賛すべき姿として描かれてもおかしくないはずのその姿はしかし、心優しき一人の人間が解体されていく悲劇でしかない。
 

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資盛は強引な遷都で京の町が廃墟のようになると語ったが、それは都が変わったように自分も変わらねばと言い聞かせる維盛の心も同様だろう。平家らしくあるために、それに歯向かわぬためには己を殺さなければならない。
親を斬り殺されたびわの胸の傷を埋めてくれた心の都は、遷都と時を同じくして荒廃しつつあるのだ。
 
 

感想

というわけでアニメ平家物語の6話レビューでした。ファ美肉おじさんのレビューが遅れた関係で順延です、すみません。
 
3話だと頼朝の顔が映らなかったのがなんとなく納得できたように感じた回でした。レビューでも書いたけど、この頼朝は後にあんな場面でもこんな場面でも「本当に?」とやるであろうところを想像すると笑ってばかりいられない気持ちになります。頼りないようで食えない人だ。あと高倉上皇が徳子にどう思っているか伝える場面であるとか、熱盛の中では重盛の活躍と重衡の悔いの残る活動が同じに見える残酷さなども胸に来るものがありました。世界の移り変わりがますます激しくなっていく次回、ますますもって目が離せません。
 
 

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