錯覚の一致不一致――「異世界美少女受肉おじさんと」8話レビュー&感想

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© 池澤真・津留崎優・Cygames / ファ美肉製作委員会
視界で世界が変わる「異世界美少女受肉おじさんと」。8話冒頭、橘はウサギを屠殺するよう神宮寺に強いられ自分の見えないところでやってほしいと抵抗する。今回は「見える」「見えない」から始まるお話だ。
 
 

異世界美少女受肉おじさんと 第8話「ファ美肉おじさんと選択」

イカを崇拝する村を後にした橘と神宮寺は、そこで出会った怪しげな商人シェンと共に王都へ向かう。
 
その道中、神宮寺につきまとうシェンの目的が明かされる。シェンの案内で王都イシュルナに到着した一行は、魔王についての情報を集めるため愛の女神の神殿に向かうが、そこにはまさかの光景が広がっていた……。

公式サイトあらすじより)

 

1.当てにならない眼力

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© 池澤真・津留崎優・Cygames / ファ美肉製作委員会
シェン「……ってまあ入れたんですけどね、シチューに少しだけ」
 
道中と王都での騒動が描かれる8話だが、道中が舞台の前半は商人のシェンとの騒動だ。商人にも関わらず暗殺技術のスキルを備える彼を神宮寺は問い質すが、食事に仕込まれていた薬物によって思考力を奪われピンチに陥ってしまう。シェンの真の目的は自分の動きが鈍った間に橘をさらって奴隷として売ることなのではないかと神宮寺は推測するが、多くの視聴者は別の目的を想像したことだろう。すなわち「シェンはマッチョ好きの同性愛者であり神宮寺をこそ襲おうとしている」と。
 

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© 池澤真・津留崎優・Cygames / ファ美肉製作委員会
シェン「実は私の一族は秘伝の押しツボを持ってまして……ちょっとこの疲労は見て見ぬ振りができなかったと言いますか。神宮寺さん、このくらい無理やりじゃないと施術させてくれなそうじゃないですか」
 
実際、前回も今回もシェンの行動は神宮寺への性愛を疑わせるものに満ちていた。前回はルーをエサに巨大イカ釣りをする時間を「二人っきり」と称してさきイカを「あーん」させたり、今回も自分を奮い立たせるために服を脱いだ神宮寺の肉体美に涙すら流したり……薄着の橘とどちらが神宮寺の目に魅力的に映るか争ったり橘が男と聞いて一瞬考えを改めそうになったりする姿もあり、シェンがいよいよ神宮寺に覆いかぶさる時、私達の多くは二人のボーイズ・ラブを想像してしまったのではないだろうか。しかし蓋を開けてみれば、シェンが行ったのはなんと神宮寺の整体だった。彼は一族に伝わる秘伝の施術を学んでおり、見抜いてしまった神宮寺の疲労を黙視できなかったというのである。考えてみればこうなるのは当然だろう、なにせこの作品は全年齢向けなのだ。
 

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橘「神宮寺……お前疲れてたの?」
神宮寺「俺が疲れてる?」
橘「もう若くねえんだから無理すんなよ」
 
知性を持つ生物である人間はしばしば、ありもしないものを見たり逆に存在するものを見落としてしまう。私達がシェンの目的を見誤ったのもそうだし、神宮寺が自分の体の疲労に気付いていなかったり橘が屠殺経験をするまで神宮寺のすごさや手のサイズの違いを認識しなかったのも同様の例に挙げられる。そもそも、結局なぜシェンが暗殺技術を習得しているのかは不明のままなのだ。
シェンの手管にひっかかったり自分の疲れを見抜けなかったり、ハイスペックサラリーマンの神宮寺もけして完璧とは行かない。こうした眼力の当てにならなさは後半、王都でいっそうクローズアップされることになる。
 
 

2.錯覚の一致不一致

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神宮寺「あのクソ女神を崇める神殿だ、どうせナイトプールみたいな感じだろうとイメージしていたのに……!」
橘「おまえ結構想像力豊かよな」

 

シェンの手引で検問を通過し王都に入ることに成功した橘と神宮寺は、自分達をこの世界に召喚した愛と美の女神の「神託」について調べようとその神殿へ足を運ぶ。そして神宮寺にとって意外だったのは、その神殿が極めてまっとうなもののように「見えた」ことだった。橘達からは半裸LED女とすら見えた女神の神殿はナイトプールのようにでもなっているのではないかと勝手に想像して――「見て」おり、故にギャップに驚きを隠せない。
 

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神官「ここが礼拝施設です。どうです、素晴らしく神聖な光景だと思いませんか?まるで神々が水浴びを楽しんでいるかのような……」
 
しかし事態が進行するに連れ分かるのは、愛と美の女神の神殿はやはりまっとうな神殿などではなかったことだった。礼拝施設に入るための正装(修道服)はマイクロビキニ、しかも礼拝施設の中身は本当にナイトプール……神宮寺の想像はあくまで「それくらい酷いもの」という程度のつもりだったのに、現実はむしろ彼が脳内で見たものそのままだったのだ。
 

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神宮寺「俺の思考が女神と同レベルだと言われているようで心底腹立たしい。無かったことにしたい、しよう!」
橘「俺の記憶からは消せねえよ?」

 

人はありもしないものを見たり逆に存在するものを見落とす。しかしこれが本当にややこしいのは、互いに同じものを見ているつもりでそうでなかったり、逆に違うものを見ているはずが一致する事態を誘発することだ。
神宮寺が橘の魅了よけでシェンの肉体を見れば同性愛疑惑をかけられたり、騒動は整体で終わってもシェンが何かの組織に秘密裏に所属しているのは確からしかったり、神宮寺と橘の間で修道服を身にまとう覚悟の意味が違っていたり、こうした錯覚の一致不一致はトラブルに事欠かない。勇者の証のはずの女神の紋章がむしろ偽証罪として騒動の元になっているのも同様の例として挙げられるだろう。
 

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ムリア「それはここにおわす方がかの女神様に召喚されし勇者様だからだ。聞け神官達よ、彼らに手出しすることは許されない!これは王命である!」
 
今回の物語は、会ったこともないはずの謎の少女が橘達を女神に召喚された勇者として保証しに現れるところで幕を閉じる。果たしてこれは全くの一致を生む原動力となるのか、それとも更に事態を混沌としたものにするのか。橘と神宮寺の進む道が一般的なものとはまた違った難儀さを抱えていることだけは確かそうだ。
 
 

感想

というわけでファ美肉おじさんのアニメ8話レビューでした。今回も手こずった……見える/見えないの図式に落とし込むのにまず時間がかかり、書き始めてみるとそれでは問題提起に終わって結論がなく一致/不一致を組み込むのに更に時間がかかり……今期見てる作品で一番苦労してるの案外これでは。ナイトプールで礼拝ってなんぞ。まあ書き上がってみれば「あんまり物事が見えてないと逆に見えてると錯覚するし、その逆もまた然り」ということでこれも高度に発達したうんたらかんたら。
 

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年取ると整骨院大事。一時期首横から背中にかけて棒でも通ってるかのような痛みに襲われたことがあり覚悟して行ってみたのですが、施術してもらってすっかり楽になりました。
 

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「恥ずかしがって手で目を隠してるようでしっかり見てる女の子」というのは一つの定番シチュですがこれは元おっさんです。
 
 

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