一瞬の天国――「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」12話レビュー&感想

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
空を仰ぎ見る「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」。12話ではサヴェジ・ガーデン作戦の結末が描かれる。本作の鍵となる"天国"は、今回一瞬だけその姿を見せている。
 
 

ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン 第12話「集中豪雨警報発令」

ラング・ラングラーを退けた徐倫ウェザー・リポート。しかし徐倫は目的地である中庭を目前にして、プッチ神父と遭遇してしまう。プッチ神父が黒幕だと知らない徐倫は、彼に中庭へ行かせてほしいと懇願する。仲間の存在を警戒したプッチ神父徐倫を見逃すが、すでに新たな追手を中庭に向かわせていた。残り時間はあとわずか。徐倫スピードワゴン財団にDISCを渡すことができるのか?
 

1.人間の限界

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
父・承太郎の蘇生に必要な彼のスタンドDISCをスピードワゴン財団に渡す「サヴェジ・ガーデン作戦」のため、中庭へ急いでいた徐倫無重力を操るラング・ラングラーを激闘の末に撃破した彼女だが、今回脅威となるのはそれ以上の超常的能力を持つ強敵プッチ神父…ではない。徐倫の前に最後に立ちふさがったのは名もなき看守であり、彼女を生命の危機に陥れたのは看守の銃や異常気象で降ってきたヤドクカエルの毒といった"現実的"な脅威であった*1
 

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
DIO「幸福とは、無敵の肉体や大金を持つことや人の頂点に立つことでは得られないというのは分かっている」
 
シリーズの宿敵・DIOは親友プッチ神父の回想の中で幸福は能力や地位では得られないと指摘しているが、徐倫はこれを身を以て証明している。銃弾を弾き返せるスタンドを持っていても体自体が銃を受け付けなくなったわけではないし、ヤドクカエルの毒が体内に入ればスタンド使いも普通の人間同様に心臓や呼吸器系が止まって死んでしまう。高い知能やスタンドの才能があれば人間の肉体は限界を超越できる、というわけではない。
 

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
徐倫(どうする?この人を殴り倒すの?……もちろんできるわ、父さんの命に比べたら殴るくらい……)
 
また肉体が限界を超越できないなら精神はどうかと言えばこれも怪しい。いやむしろ精神こそ怪しい。精神の力であるスタンド自体は能力数や射程と言った限界を抱えているし、徐倫は中庭に行くため看守を殴り倒す覚悟をしていたが神父相手ではためらってしまう。
 

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プッチ神父「人に対し何かをしてあげるということは、全て見返りを期待しての行為だ。人に親切にするのは自分も親切にしてもらうためであり、無償の愛というものはない。無償の愛とは天国に行くための見返りだからだ」
 
劇中、プッチ神父は誰かに親切にする行為は全て見返りを期待してのものから逃れられないと説くが、こちらはDIOと対照的に肉体ではなく精神の限界を指摘していると言える。
人間は肉体においても精神においても限界を抱えている。限界に収監され"脱獄"できずにいる。そしてそれは、本作最大の敵であるプッチ神父も変わらない。
 
 

2.プッチ神父の邪悪さとは

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
プッチ神父(落ち着くんだ、素数を数えて落ち着くんだ。素数は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字。私に勇気を与えてくれる)
 
承太郎のスタンドと記憶のDISCを奪い徐倫にとって宿敵となったプッチ神父だが、彼はこれまでのジョジョのボスのように圧倒的な強さを持っているわけではない。スタンドであるホワイトスネイクのDISC化能力はそれ自体に殺傷能力があるわけではないし、素数を数えて自分を鼓舞したり高額なズボンの汚れを気にする様には吸血鬼DIOのような超然とした態度や殺人鬼吉良吉影のような異常性はない。DISCを守るためウェザーが発生させた異常気象によるヤドクカエルの雨は敵味方を問わず皆を巻き込みプッチ神父も肝を冷やすが、これは彼がけして超越的な存在ではないのをよく示した事態と言えるだろう。ただ、それは彼が悪人でないことを意味しない。
 

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
看守「えっと……でも誰にだったっけなあ?命令されたのは……」
 
プッチ神父の邪悪さは、DISCを操る能力そのものにある。ホワイトスネイクによってDISCを抜き取られればそれだけで対象の肉体は生命活動を停止してしまうし、逆にDISCを挿入されれば対象は彼の走狗に成り下がってしまう。例えば徐倫を撃った看守は誰の指示だったのか疑問に思いながらもDISCによる命令に逆らえず、彼女を殺し承太郎のスタンドDISCを回収しようとした。看守はプッチ神父によってその精神と肉体(行動)に"限界"を設定されてしまったのだ。もともと限界を抱えている人間に更に恣意的に限界を設定する、この行為が邪悪でなくてなんであろう?
 
DISCによって他者に限界を設定するプッチ神父に対する勝利とは、戦いで彼を再起不能や死亡に追い込むことにはない。彼が象徴する限界を突破し、脱獄するところにこそ徐倫の勝利はあった。
 
 

3.一瞬の天国

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打ち破るところに勝利はなく、限界からの脱獄にこそ勝利はある。一見すると難解に見えるこの目標は、実は今回むしろ非常にシンプルだ。なにせ徐倫が今実行しているのは「サヴェジ・ガーデン作戦」――目的はスピードワゴン財団に父のスタンドDISCを渡すことであって、ホワイトスネイクの撃破ではないのだから。
 

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徐倫「ありがとう。待ってたわ、探してくれるのを」
 
カエルの雨が止んだ後で中庭へ向かったプッチ神父ホワイトスネイクはカエルに埋もれた徐倫の死体を尻目に承太郎のスタンドDISCを発見するが、直後に伸びてきた徐倫のスタンドの糸にDISCを奪われてしまう。潰れなければ毒液を出さないヤドクカエルの性質に目をつけた徐倫は、生きたカエルを結んで落下の衝撃をやわらげるネットを作ることで生き延びていたのである。
 

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
徐倫「カエルは落下の衝撃で潰れるから毒液が出る、潰れなければ無害な生き物。落下してくるカエルの衝撃をやわらげるように、生きてるカエルでネットを作った」
 
ウェザーが異常気象で持ち込んだヤドクカエルは、毒を持つ性質ゆえ皆から敵視された。銃を乱射した看守、ホワイトスネイクで弾いたプッチ神父、鉄格子を開けることから逃げたもう一人の看守……徐倫も当初は自分のスタンドの糸でカエルを防ごうとした。しかし毒液は糸の防御をすり抜け、徐倫に落ちる寸前まで至った。そんなカエルを敵視せず利用した徐倫の発想は、まさしく打破ではなく限界からの脱獄であった*2
 

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
ホワイトスネイク「なんも変わりはしない。スタープラチナが戻ってもお前の父親はただの木偶の坊だ、娘もお前のことさえ思い出すことはけして無いなぁッ!!」
 
既に述べたように「サヴェジ・ガーデン作戦」の目的はホワイトスネイクの撃破ではなく、承太郎のスタンドDISCの刑務所外への持ち出しにある。記憶DISCがあれば目的達成には支障ないというプッチ神父の言葉は負け惜しみもあろうが事実であり、徐倫は未だ彼がホワイトスネイクの本体であることすら掴めていない。しかし裏返せばそんな状況でも、あるいはそんな程度の重要性だからこそ得られたのが作戦の成功だったとも言える。
 
徐倫の戦いはまだ終わっていない。記憶DISCも奪い返さねば承太郎は本当の意味では復活せず、今も彼女には限界が立ちふさがっている。だがそれでも目的の一端は果たせたのも確かだ。
 

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
DIO「真の勝利者とは、天国を見た者のことだ」
 
DIOは言った。真の勝利者とは天国を見た者のことであると。ならばどれだけ負傷しようと敵の正体すら掴めずとも、それは真の勝利とは関係がない。
 

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
「サヴェジ・ガーデン作戦」における受取人は伝書鳩であり、鳩によって承太郎のスタンドDISC=精神は天高く脱獄していった。そこに一瞬の天国が垣間見えるゆえに、徐倫こそは今回の戦いの真の勝利者なのである。
 
 

感想

というわけでジョジョ6部のアニメ12話レビューでした。本シリーズの鍵として使える「脱獄」に「天国」「真の勝利者」なんかを組み合わせてこんな感じに。プッチ神父の歴代ボスとはまた違った悪役性に少しは近づけたかしらん。徐倫を撃った看守はデザイン的には結構かっこういいなと思ってたのですが(スカーフたなびかせてるのってアニメで見るといっそうヒロイックだ)、こうして今回レビューを書いて自分の中で弔えたような気もします。
 
触れたタイミングの関係で私はどうしても3~5部に親しみを強く感じる人間ですが、このアニメは6部の独自性が感じられるとても素敵なジョジョ再体験をさせてもらっているなと感じます。第2シーズンの放送、お待ちしてます!
 
 

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*1:もちろんヤドクカエルは徐倫の仲間であるウェザー・リポートのスタンドで持ち込まれたものだが、別にスタンドで毒性や凶暴性を強化されているわけではない

*2:でも顔にくっつけばキモくてオゲーッとはなる