混沌に秩序を見る――「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」30話レビュー&感想

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
選別の「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」。30話ではウェザー・リポートの封印されていた能力が大混乱を起こす。混乱の中で抜きん出るものにこそ真実がある。
 
 

ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン 第30話「ヘビー・ウェザー その①」

ヴェルサスにより記憶がよみがえったウェザー・リポートは、本来の荒々しい性格も取り戻していた。そして、無意識下で発動する彼の恐ろしい能力、悪魔の虹「ヘビー・ウェザー」が現れ、巻き込まれた人間はカタツムリへと姿を変えていく。一方、徐倫たちから逃げ切ったヴェルサスは、プッチ神父の求める「天国へ行く方法」を自分のものとするため、エンポリオを探し出し、承太郎のDISCを奪うことを目論む。
 

1.混沌の30話

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
徐倫「こいっつら、重なるように床までびっしりになって増えていく!」
 
この30話はあらすじとしての要約の難しい回だ。これまでは「主人公・徐倫達がプッチ神父の部下であるDIOの息子3人と戦う話」とまとめることができたが、3人の子の1人ヴェルサスは前回ラストでプッチ神父に反旗を翻して徐倫の仲間ウェザー・リポートの封印された記憶DISCを奪取。更には記憶の蘇ったウェザーの能力「ヘビー・ウェザー」は徐倫達にすら牙をむいてくる。展開としてもこれまた徐倫の仲間である少年エンポリオ←ヴェルサス←徐倫の二重の追いかけっこになっており、誰かを倒せば事態が決着するような単純なものではない。ただ、要約は難しくとも様相を一言で表現することは可能だ。徐倫達が遭遇しているのは詰まるところ「混沌」である。
 

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
徐倫「みんな虹に触るなよ!」
エルメェス「虹に近づくんじゃあねえぞ!」

 

「ヘビー・ウェザー」が発動した状況下、起きているのは様々な区別の消失だ。ウェザーのこの封印されていた能力は一見するとただ虹をあちこちに作っているだけに思えるが、虹に触れた者は敵味方の区別なく体がカタツムリになっていく。またプッチ神父徐倫達にヴェルサスを逃さない方がいいと助言するが、本来彼は徐倫達にとって倒すべき相手なのだからここでも敵味方の区別は失われている。徐倫の仲間の一人エルメェスはどんどんカタツムリが増えていく一因がカタツムリに雌雄の「区別」がなく交尾した個体がそれぞれ卵を生む点にあると指摘しているが、こうした区別や秩序の無さは混沌と呼ぶに相応しいものだろう。ただ、今回の話が全くの無秩序かと言えばそれも誤りだ。
 
 

2.混沌に秩序を見る

混沌を体現するかのようなこの30話にしかし、秩序がある。それは今回の始まり、記憶を取り戻したウェザーの行動の時点で既に描写されている。
 

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
アナスイ「ウェザー、なにやってる!? そいつは敵じゃあねえ、病院の看護師だぞ!」
 
ヴェルサスによって記憶を取り戻したウェザーだが、アバンにおける彼の行動は粗暴そのものだ。座っていた男性患者を押しのけてベンチに座り、それを看護師に咎められればスタンド能力で攻撃して相手を椅子に作り変えてしまったりする。同行していた仲間のアナスイが言うように患者や看護師が敵のわけはなく、ウェザーの行動は敵味方の「区別」がついていない。ここにも混沌はある。
だが一方で、ウェザーのこの行動から見えてくるのは以前の彼との決定的な区別だ。これまで徐倫と共に行動していた時の彼は、知的で物静かな人間だった。数話前は雨で古傷が痛むという老人のためスタンド能力で局所的に天候を操作してやるような優しさもあった。かつての彼なら今回のような行動はとるはずがなく、故にアナスイや私達は今のウェザーはまるで別人になったように感じてしまう。区別がないからこそ、以前と今に区別を感じてしまう。
 

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
アナスイ(まるで……まるで別人!)
 
世の中というのは不思議なもので、とにかくなくせば区別が消えるというほど単純にはできていない。区別をなくすことでむしろ区別が温存されたり、逆に区別をなくすために別の区別が必要になる場合がある。格闘技における階級がなくなれば体重の軽い者の技量が日の目を見る可能性は低くなるし、海外では放っておくと経済的・歴史的に白人が選ばれやすい役者事情を解消するためマイノリティの役にはマイノリティを選ぶといった試みがされている。裕福でない人間に学費や生活費を給付する公助の仕組みなどは、区別をなくすための区別として特に分かりやすい例に挙げられるだろう。本当の意味で全く区別のない状態などというのは天然自然に生まれることは稀で、多くの場合混沌にも秩序や秩序の芽とでも呼ばれるものは内包されている。
 

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
ヴェルサス「手に入れてえなあ! 俺だって手に入れてえなあ! 神父のヤツより先に、天国に行くという力を! 幸せになりてえなあ!」
 
例えばヴェルサスはプッチ神父を裏切り敵味方の区別があやふやな状況を作ったが、彼にとって現状はむしろ以前よりクリアだ。前回までの彼は味方の筈のプッチ神父の超越的な言動にイライラさせられていたのだから、自分以外は利用可能な敵と割り切った今の方がヴェルサスにとっては気楽なものであろう。もちろんこれは諸刃の剣でもあって、彼はウェザー・リポートを止める可能性がある人間として徐倫達からプッチ神父より優先すべき相手として今回ロックオンされてしまってもいる。
 

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
ヴェルサス「あったぞ! この病院にヤツらが到着した時の地面の記憶!」
 
またプッチ神父同様「天国へ行く力」を得るためヴェルサスがエンポリオから徐倫の父・承太郎の記憶DISCを奪おうとする今回は彼との延長線の要素があるが、ヴェルサスはこの戦いで自分のスタンド、過去を掘り起こす力を持つ「アンダー・ワールド」に様々な使い方があることに気付いていく。徐倫エンポリオに電話をかけた過去の記憶からプッチ神父すら知らなかった彼の存在を特定したり、塩の記録を掘り出して半カタツムリ化した徐倫への攻撃に使用したり、エンポリオの行動記録を掘り出してビデオのように再生することでその能力を突き止めたり……過去を掘り起こす特性(秩序)に則れば、こんなにも様々な活用ができるのがこのスタンドなのだ。徐倫vsプッチ神父という秩序だった戦いにはめ込まれた前回まででは、彼は自分のスタンドの真価を知ることはできなかっただろう。
 

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
混沌には混沌なりの秩序があり、故にそれを見つければ混沌はむしろ力にもなる。人間をカタツムリに変える混沌製造機「ヘビー・ウェザー」もまた例外ではない。虹には触れないように注意していた徐倫達はそれでもカタツムリに触ったことで結局半カタツムリ化してしまうが、ヴェルサス戦ではむしろカタツムリになったことを活用している。グニャグニャになった体でへし折れた街灯のパイプ内に入り込んだり、エンポリオに触れたことで彼に触れたヴェルサスまで半カタツムリ化させてその逃走を止めたり……「ヘビー・ウェザー」によるカタツムリの特性(秩序)の把握にこそ、この30話の活路はあったのだった。
 

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
エルメェス「ウェザーが何をすればカタツムリ化するのはさっぱり分からない。けど、どうやら現象の終焉は見えてきた! (中略)ゆっくりしか動けないカタツムリは、たいていこうやって命が終わる!」
 
前節で述べたように、今回は実に混沌とした話だ。ヴェルサスの裏切りや「ヘビー・ウェザー」によって敵味方の区別があやふやになり、誰か一人を倒せば全てが解決するような状況にはない。けれどそんな中にも秩序はあり、エルメェスはこの現象がカタツムリを食うマイマイカブリによって終わることを見抜き、またウェザー・リポートは記憶を取り戻して別人のようになりながらもやはりターゲットをプッチ神父に定める。混沌の中にも変わらないものはあった。
 

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
ウェザー「俺の唯一の生きる希望は、ヤツとの決着をつけることだ!」
 
どれほど世界が無軌道で無法則に思えたとしても、そこにはきっと根本原則のような何かが通底している。無軌道で無法則に思える混沌の中でこそ、私達はその根本原則――おそらく本作が「運命」と呼ぶもの――を垣間見ることができるのだ。
 
 

感想

というわけでアニメ版ジョジョ6部の30話レビューでした。ちょっと私の方がエネルギー不足で手間取ってしまいました。寝ないとだめ。
人間は気象の異常の予想はできず、結果やデータから巡り巡った気象の原因を解説するだけ……というのがこれまた運命チック。レビューを書き終えてみると、極限の戦いだったラング・ラングラー戦を思い出す部分があります。ヴェルサスが半カタツムリ化した後で徐倫が自分のシールを剥がしているの、これは「パイプに入る前に自分を2つに増やしており、1つに戻ることで塩のダメージを帳消しにした」と解釈したらいいのかな。
 

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
ヴェルサスとの戦いは今回で完全決着。登場当初からは想像できない表情を何度も見せていますが、彼、こんなに主体的に動けたのはきっと今回が初めてなんだろうなあ。「幸せになりたい」と願って動いているこの時こそ、ヴェルサスにとって至福の時間だったのだと思います。要するに今回の彼、とてもいきいきしてた。
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>