朝にたどり着くために――「よふかしのうた」4話レビュー&感想

Ⓒ2022コトヤマ小学館/「よふかしのうた」製作委員会
ぐるりと巡る「よふかしのうた」。4話ではコウの幼馴染、アキラまで含めた夜更かしが描かれる。不健全なその姿にしかし、健全さへの道がある。
 
 

よふかしのうた 第4話「せまくない?」

ナズナからキスされた!キスは好きな人同士がする行為…ということは僕はもう、ナズナちゃんのことが好きなのでは!?つまり“吸血鬼を好きになる”という目標は達成された? コウは意気揚々とした気持ちでナズナに会いに行く。
 

1.健全な生活サイクルとは?

Ⓒ2022コトヤマ小学館/「よふかしのうた」製作委員会
この4話は主人公であるコウの幼馴染、朝井アキラの一日の様子から始まる。彼女はコウと違ってしっかり学校に通っており、また授業中に居眠りするなどということもない。まっすぐ家に帰って、少なくとも不在らしい両親の目がなくともちゃんと歯を磨いて布団に入る。彼女の生活サイクルは一見極めて健全なものだが――故にこそ、そこには欠落が見え隠れする。養育者にしつこく言われて渋々床に就くくらいが中学生の元気の盛りであって、そんなわけでもないのに早寝するのは逆に不健全・・・だ。事実彼女は最近ずっと眠りが浅いことを独白しており、Bパートでは24時前に目が覚めてしまっていた。
 

Ⓒ2022コトヤマ小学館/「よふかしのうた」製作委員会

Ⓒ2022コトヤマ小学館/「よふかしのうた」製作委員会
アキラ(最近、ずっと眠りが浅い)
 
早起きは三文の得(徳)とは言うが、日が変わる前に目が覚めるのはもはや早起きではない。アキラは学校の教師から聞いた「健全な生活サイクルを若い内に身に着けろ」という言葉を夜更かしするコウに投げかけるが、「そっくり返す」という言葉が繰り返されるように、彼女自身もその習得に失敗していると言える。
 

Ⓒ2022コトヤマ小学館/「よふかしのうた」製作委員会
アキラ「起きたとこだよ」
コウ「ええ……12時だよ? こんな時間に起きてて大丈夫なの?」

 

夜に眠れば基本、目が覚めるのは朝だ。十全な睡眠のもとでは時計の針はぐるりと回り、昼夜も回る。眠ることは昼夜を循環させること……「サイクル」を作ることだと言ってもいいだろう。前回ナズナに口づけされたコウは今回、珍しく「分かりやすい」ところで自分を待つナズナの心が「分からない」ため悩んでいるが、サイクルとはそんな風に対極のものがグルグルと回るところに生まれるものなのである。
 
 

2.朝にたどり着くために

Ⓒ2022コトヤマ小学館/「よふかしのうた」製作委員会
コウ「くそ1回も勝てねえ! ナズナちゃん絶対やりこんでるでしょこれ!」
ナズナ「ふふ、吸血鬼っつうのはなかなか暇でねえ」

 

サイクルの習得に失敗して眠りの浅くなってしまったアキラは、すっかり夜更かしが習い性になったコウと再び出会いナズナのところへ遊びに行く。他の作品なら二人して変な遊びを覚えてしまったりするところだが、本作ではそうはならない。彼らがナズナの家でするのは単なるテレビゲーム――つまり昼に子供が友達とする遊びとなんら変わらないものだった。
 

Ⓒ2022コトヤマ小学館/「よふかしのうた」製作委員会

Ⓒ2022コトヤマ小学館/「よふかしのうた」製作委員会
アキラ「いやなんでだよ!」
コウ「ええ、びっくりした」
アキラ「学校行きなよ」
コウ「だって面倒くさい」
アキラ「なんでゲーム内ですらそんななの……」

 

三人の遊びは夜更かしの時点で不健全で、しかし夜更かし(夜遊び)らしくもなく健全だ。3人いるのになぜかギャルゲーを始めたり、ギャルゲーでヒロインに学校に行こうと誘われているのに現実と同じテンションで断ったり……ヒロインの攻略を考えるならどう考えても間違っているが、ナズナが言うようにとても真剣なギャルゲーの遊び方ではあったりする。それは不登校のコウや、傍目にはあまりにも健全な生活を送るアキラが日中手にすることのできなかったものだ。
 

Ⓒ2022コトヤマ小学館/「よふかしのうた」製作委員会
ナズナの指示に困惑しながらも三人川の字で横になったアキラは、コウがこの生活を楽しいと感じていることを実感する。彼が自分の知っている頃と本質的には変わっていないことに、自分が「友達」だと感じられる相手であることに安心する。そうして安堵の中、外で降りしきる雨をやり過ごすために閉じたまぶたが次に開いた時、時間は想定をとっくに過ぎていた。ずっと浅かったはずの眠りは時を忘れるほど深く、時は深夜と呼べるほどの未明ではなく明白な朝を迎えていた。
 

Ⓒ2022コトヤマ小学館/「よふかしのうた」製作委員会
ナズナ「人は一日に満足するとよく眠れるのさ。満足できたかい?」
 
ナズナは一日に対する満足感は眠りと密接な関係にあり、だから満足できなければ夜更かしすべきだと言う。アキラは先生の言葉から、健全な生活サイクルを若い内に身につけるべきだと言う。両者は対極的だが、実際は必ずしも矛盾していない。嫌なことが頭に残ったままでは人は心安らかに眠ることはできず、悪夢を見たり目が覚めてもむしろ疲れを感じたりする。そういう状態は精神的には「健全な生活サイクル」とは言えない。
 
その日に満足して心地よく眠って初めて、人は翌日に引きずるものなく目覚めることができる。朝を迎えることができる。子供はただ早く寝て早く起きるよりも、満足して眠れることの価値と方法をこそ知っておくべきなのだ。大人になれば1日で解決できないことばかりが増えて、いやでも夜更かしして自分を満足させなければならなくなっていくのだから。
 

Ⓒ2022コトヤマ小学館/「よふかしのうた」製作委員会
「健全な生活サイクル」とは、社会に合わせて寝起きする習慣を身につけることとは限らない。自分の心に眠るべき「夜」を迎え、再び歩いて行く「朝」にたどり着くこともまた私達に欠かせぬサイクルなのである。
 
 

感想

というわけでアニメ版よふかしのうたの4話レビューでした。「一周回ってうんぬん」みたいな方向でまとめるとこんな感じかしらん。本当はAパートをもっと詳細に馴染ませてレビューを書いた方がいいのでしょうが、どうもとっちらかってしまうのでアキラを中心にまとめました。裏ピクと言いかげじょと言い、花守ゆみりのこういうキャラは味があって好きです。ナズナの部屋でもっぱら正座してたりコウの反応聞いて姿勢を崩したりするのもいい。
寝起きや出立の挨拶にこういう「家族」の形もあるのかなと感じた回でした。次回も楽しみです。
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>