究極の自由、至高の運命――「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」27話レビュー&感想

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
解放と束縛の「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」。27話ではDIOの息子の一人、リキエルが徐倫達の前に立ちふさがる。成長する敵とも言える彼との戦いからは、自由と運命の循環が見えてくる。
 
 

元恋人のロメオと再会した徐倫は、許しを請う彼からヘリコプターのキーを受け取り、プッチ神父が目指すケープ・カナベラルへと向かっていた。その道中、プッチ神父の存在を西の方角に感じ取る徐倫。進路を変更しようとしたその時、自分の意思とは無関係にまぶたがおりてくる奇妙な症状に襲われる。それはDIOの息子、リキエルのスタンド能力スカイ・ハイ」の攻撃であった。

公式サイトあらすじより)

 

1.裏返る強さと格好良さ

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リキエル「俺には能力なんて無い! 俺にはなんにもできないッ!」
 
ケープ・カナベラルへ向かうプッチ神父を追う徐倫達の戦いが続く本作。今回はスタンド「スカイ・ハイ」を操るリキエルが相手だが、シリーズの宿敵DIOの息子という設定に反し、彼は一見して強敵というイメージを与える男ではない。なにせストレスで勝手にまぶたが降りてきてしまうのを止めてくれるよう神父に懇願するのが初めてのまともな出番であり、この状態では戦闘できるかどうかすら危ぶまれるほどだ。数年前に突如としてこの症状に襲われて以来、彼は学業をドロップアウトし車の運転もままならない生活を送ってきた。リキエルはこれまで、多くの人間が当たり前のように満喫する自由を味わえない運命に翻弄されてきたのだった。
 

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エルメェス「こいつパニクって、自分の能力を操りきれないでいるんだ!」
 
惨めな半生を送ってきた過去もあり、リキエルは戦いでも当初簡単に動揺を見せる。徐倫達に目論見を読まれて焦り、湿地に沈む自分のバイクのキーがどこか思い出せず、徐倫の仲間であるエルメェスの攻撃を受けてパニックに陥りスタンド能力をまともに操ることすらできなくなってしまう有様だ。こうした様子は強敵としての格好良さからは程遠い。
 

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リキエル「人間はあの時地球を超えて成長したんだ! 価値のあるものは精神の成長なんだ!」
 
しかし一方で、リキエルはこの戦いで大きく成長する人間でもある。アポロ11号の月面着陸に人間の精神の成長という真価を見出し、プッチ神父の目的を叶えるため二度に渡って捨て身の攻撃を仕掛けすらする。「俺の心はアポロ11号だ!」と言い放つ彼には視聴者の応援を誘うほどの一本気さがあり、人格的に完成した敵とはまた違った格好良さが彼の魅力なのだと言える。
 
強さや格好良さは単なる優劣ではなく、しばしば正反対に裏返る。これはリキエルのスタンド「スカイ・ハイ」がもたらす出来事からも見ることができる。
 
 

2.広がる裏返り

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登場は27話のみながら徐倫達を苦しめるリキエルのスタンド「スカイ・ハイ」。その性質はかなり特殊だ。スタンドは通常はパワーあるビジョンが直接打撃や何らかの現象を引き起こすものだが、これはロッズあるいはスカイフィッシュと呼ばれる未確認生物を自在に操るというもの。ビデオカメラでなければ捉えられないほどの高速で飛行するこの生き物はエサも何も分かっておらず、徐倫達はスタンド能力ではなくロッズの生態を解く必要に迫られることとなった。そう、今回謎なのはスタンド能力ではなく、これは普段とは「正反対」だ。
 

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エンポリオ「近づくけどけして触れない! 体温を奪われたことは病気になるまで分からない!」
 
まぶたが勝手に降りる、関節が曲がる、血尿が出る……ロッズが引き起こす病症の数々に徐倫達は苦しめられるが、エルメェスと同じく仲間である少年エンポリオが見抜いたその生態は意外なものだった。ロッズは他の動物の体温を自分の生体エネルギーにする生物であり、上記の症状は体温を奪われた結果起きていたのだ。
体温を奪われるとなぜ病気になるのか? エンポリオは解説する。人体の病気になった部分は他の健康な部分より体温が低くなっている。だからまぶたの体温を奪えば目が閉じ、関節の体温を奪えば勝手に曲がり、腎臓の体温を奪えば血尿が出るのだ……と。ここでも見えるのは「正反対」だ。体温の低下は本来病症の結果なのだが、ロッズの攻撃では体温の低下の方が原因に裏返っているのである。
 

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エルメェス「これほどまでの決意とは……神父のところへ行こうとする決意! 父親・空条承太郎から受け継ぎ目覚めた意志! これがかつてメソメソしていた徐倫か!」

 

正反対に裏返るのは強さや格好良さだけではない。この観点に立った時見えてくるのは、徐倫とリキエルの戦いにおける裏返しの応酬だ。ロッズが体温を奪うと知った徐倫はスタンド「ストーン・フリー」で糸状にした自分の体に火を放ち、それを纏うことで攻撃を防ごうとするし、リキエルは自分の体を燃やして徐倫と同じ状態になることで体温を奪える場所を探そうとする。またこの経験から徐倫の口内なら体温を奪い視覚を妨げられると判断したリキエルに対し、徐倫が採ったのはいっそ目も口も閉じて「星型のアザ」を持つ者同士の感覚のみで狙いを付けるという荒技だった。これらはつまり、自分を傷つけたりわざわざ感覚を捨てるといった愚かしい行動が最善の打開策になるという正反対の裏返しだ。そして、この裏返しの応酬が及ぶのはけして勝敗に留まらなかった。
 
 

3.究極の自由、至高の運命

徐倫とリキエルは裏返しの応酬を繰り広げ、最後に勝利したのは徐倫の方であった。だが、リキエルはそこに勝敗以上の裏返しを見る。
 

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リキエル「俺の手が……! 畜生、手が麻痺しているからこの指が、体温を吸い取る邪魔を……!」
 
リキエルの敗因は、直接的には不運であった。彼は病気によって痛覚を麻痺させた体で徐倫の首を掴んで炎を消し、そこをロッズに襲わせ脳幹の体温を奪って相打ちしようと試みたのだが、麻痺は体の動きに及び掴んだ腕は逆に徐倫の首を守ってしまっていたのだ。腕を振りほどこうとしなかったのは計算ではなく偶然だという徐倫にリキエルが見出したのは、彼女が自分より強い運命を持っており、それはプッチ神父にとって災いどころか幸いになるという結論であった。
 

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リキエル「俺か? それともお前か? 神父は強い運命を持っている方に来てほしいんだ」
 
計算でなされたことを、人は運命とは呼ばない。どれだけ壮大でもそれはしょせん人為に過ぎず、故に些細な手違いで狂うしどれだけ緻密でも完璧にはならない。人が運命を見るのはむしろ、作為からもっとも遠い場所に因果を見た時だ。全くの偶然に過ぎず、しかしそうとしかなりようがないものに人は大いなるさだめを感じ取る。運命は人や世界を束縛するものだが、それはむしろ完全な自由の裏返りによってこそ生まれるのである。
 

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リキエル「あの男がもし脱獄してくるなら、それはお前を追ってじゃあない。神父のために強い運命を持ってくるんだ」
 
リキエルは言う。徐倫達はプッチ神父を討つためにケープ・カナベラルに向かっているが、それは彼を目的地である「天国」へ押し上げる運命をお前達が背負っているからなのだと。徐倫同様に刑務所に収監されていた仲間であるウェザー・リポートプッチ神父の弟であり、彼も脱獄してくるならそれは徐倫を追ってではなくやはりプッチ神父を天国へ押し上げる運命のためなのだと。お前達がプッチ神父を止めようとすればするほどそれは彼を助けることになると、リキエルは運命の意味をひっくり返してみせたのだ。
 

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エルメェス「こんなヤツと話なんかしてんじゃあねえ!」
 
リキエルの言葉に激昂したエルメェスは彼を殴打し、その言葉を拒絶する。彼女は姉をプッチ神父の部下スポーツ・マックスに殺害されており、リキエルの言葉はそれすらも運命だと言っているも同然なのだから当然の反応だろう。だが、エルメェスはあくまで拒絶しているのであって否定できてはいない。拳でしか返せなかったことはむしろ、リキエルの言葉を肯定しているとすら言える。そう、拒絶は正反対に裏返っている。この戦いで勝利したのは間違いなく徐倫達だが、そこに待っていたのは勝利したからこそ反論できない敗北への裏返りであった。
 

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かくてロッズはリキエルの使役を逃れ、再び未確認生物へと戻る。最後を飾るナレーションは、ヘルメットをかぶらずバイクに乗っても罰せられない(それで死んでも個人の自由)法律をわざわざ定めていることを引き合いに、彼らが太古の昔も今後もあくまで自由であると語る爽やかなものだ。だがそれが彼らが体温を奪ったバイク乗りの事故の様子と共に描かれているように、この爽やかさにはどこか肌寒いような感覚も伴われている。それはこの自由が単に縛られないというものではなく、自由を運命づけられているとも言えるものだからだろう。先の法律にしても自由をあえて定めて・・・おり、自由は束縛と無縁のものではない。束縛の最たるものである運命との関係ともなれば尚更だ。
 

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ナレーション「彼らもまた、あくまで自由だ。太古の昔より、そしてこれからも」
 
自由と運命は対極的に思えるが、両者はあまりに離れているが故にむしろ何よりも近い関係にある。究極の自由とはすなわち、至高の運命と同じものなのである。
 
 

感想

というわけでアニメ版ジョジョ6部の27話レビューでした。うわー今回も書くの大変だった。未確認生物であるロッズはすなわち人には見えない運命なんじゃないかなーと目星をつけるもそこから他の展開が全く結びつかず、自由と運命の循環という結論にたどりつくまで堂々巡りを続けることに。前回同様に運命に対するストーリー解釈の面もあり、それを今回の解釈に引きずりすぎないようにするのにも手間取った次第。
リキエルの最後の語りが徐倫や私達に敗北感を与えるものだというのがアニメを見てよく分かりました。リキエルの台詞、字面では正確な文章にしてなかったりするのを古川慎さんの演技が上手く押し切ってたなと思います。
 
さて、次回は6部に登場すDIOの息子3人の中で個人的に一番印象深い彼の登場。キャステイングがなかなか意外だったのですが、どんな具合に仕上がってるんでしょうか。
 

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
ストーン(オーシャン)……すいませんオヤジギャグから逃げられなかった。
 
 

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