ダンジョンに入る方法――「ダンジョン飯」1話レビュー&感想

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

異色のファンタジーグルメ漫画ダンジョン飯」。アニメ版1話はライオス達の新生活から始まる。見えてくるのは本当の意味で人がダンジョンに入る方法である。

 

 

ダンジョン飯 第1話「水炊き/タルト」

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1.冒険者は異物

冒険者ライオスは、狂乱の魔術師の作り出した地下迷宮を探索していたものの空腹からレッドドラゴンに敗北。パーティはライオスの妹ファリンに助けられるも彼女はレッドドラゴンに食われてしまった。消化される前にファリンを助ける最短ルートは……魔物食!?

 

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

ライオス「みんな頑張れ! このドラゴンを倒せばあと一息だ、行くぞ!」

 

ハルタ」にて九井諒子が連載した漫画をTRIGGERが映像化した「ダンジョン飯」。端的と言えばこれ以上ないほど端的でずっこけそうなタイトルだが、物語の始まりは本格的だ。千年前に滅んだ黄金の国が「狂乱の魔術師」なる者に地下迷宮として今も縛り付けられており、魔術師を倒した者は黄金の国の全てを得られる……いかにもファンタジーといった前書きであり、主人公ライオス達のパーティがレッドドラゴンに挑む導入は最初からクライマックスの感すらある。だが続いて描かれるのはモンスターと戦う人間の知恵と勇気などではない。待っていたのは空腹のため全滅の危機に陥り、ライオスの妹ファリンの魔法でからくも脱出するもファリン自身はレッドドラゴンに食べられてしまうという散々な失敗であった。レッドドラゴンに消化される前にファリンを助け蘇生させるため、ライオス達は魔物を食べながらダンジョンに潜っていく……というのが本作のあらすじとなる。

 

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

ライオス(迷宮探索には金がいる。仲間の雇用費、装備品代、そして食費……)

 

ライオスの失敗から見えてくるもの。それは彼ら冒険者はダンジョンにとって「異物」である事実だ。地図を書き間違えて迷ったり罠にかかればあっという間に食料はなくなってしまうし、仲間の雇用費もただではない。山に登ったり海に潜るのと同様ダンジョンに臨むには準備が必要で、物資補充のためには面倒でも引き返さなければならない……ライオス達はファリンの魔法でダンジョンの外へ帰されたが、経緯を鑑みれば異物たる彼らはダンジョンに拒絶されたのだと言ってもいいだろう。

 

ダンジョンは冒険者を拒み、彼らが入り込もうとしてもあらゆる手段でそれを排除しようとする。ではダンジョンに「入る」にはどうすればいいのか? そこに本作が「ダンジョン飯」たる所以がある。

 

 

2.ダンジョンに入る方法

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

ライオス「おえ~……」
チルチャック「あーあ」
マルシル「言わんこっちゃない」

 

物理的に侵入するだけでは、冒険者はダンジョンに「入る」ことはできない。良くて退散、悪ければ蘇生の術で救ってもらうこともできず塵芥……その最悪な例に陥ろうとしているファリンを助け出すべく、再度ダンジョンに挑むライオスが考えた方法。それはなんと、魔物を食料として迷宮内で自給自足することであった。
脱出でほぼ無一文になってしまった金銭的事情、そしてファリンを蘇生するためには彼女が消化される前にレッドドラゴンを倒さなければならない時間的事情の両方に寄与する魔物食のアイディアだが、言うは易し行うは難しでそのハードルはなかなか高い。形状や食性などで心理的に嫌悪感を抱かせる魔物は多いし、食中毒を起こす危険もある。前々から魔物の味に興味を抱いていたライオスさえ煮ただけの大サソリの尻尾にはギブアップしてしまったように、ただ口にするだけでは魔物は食べられないのである。それは侵入するだけではダンジョンに「入る」ことにならないのと同様だ。

 

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

 

魔物を「食べる」にはどうすればいいか? ライオス達にそれを教えてくれたのはダンジョンで出会ったセンシというドワーフであった。10年以上魔物食の研究をしている彼にかかれば、大サソリはおろか歩き茸やスライムの内臓ですら風味豊かな水炊きに早変わり……魔物食に強い拒否反応を示していた仲間の一人マルシルも絶賛、架空の食事に過ぎないと知っている筈の我々視聴者の食欲すらそそってしまうのだから見事なものだ。現実には存在しない魔物を食うだけでなく、ダンジョンという環境下も考慮された彼の料理はまさしく「ダンジョン飯」。

 

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

センシ「こいつを食べる時はハサミ、頭、脚、尾を必ず落とす! 尾は腹を下す」
ライオス「本には平気と書いてあったのに……」
センシ「というか単純に不味い。身にも切れ込みを入れておく。熱も通りやすく出汁も出て鍋全体が美味くなる。食べやすいしな」

 

ただ口にするのでなく調理すれば、「飯」にすれば魔物は食べられる。そしてセンシの作った食事が美味しそうに見えるのは、それが魔物の生態を感じさせるものだからだろう。不定形に見えるスライムにも内臓があること、魔物一つとっても食に適した部位とそうでない部位があること等など。経験値や金をくれるオブジェクトではなく劇中の世界に存在する生物としての存在感がセンシの調理(あるいはその後の食材採集)にはあり、その質感がライオス達にも私達にも魔物を「食べる」感覚を与えてくれるのである。そして魔物を「食べる」ことができたのなら、ライオス達とダンジョンの関係は変わってくる。マルシルが木の実まで吹き飛ばしかねない魔法を使おうとしてセンシに叱られる劇中の場面などはその典型だ。倒すのでなく食べるのが目的なら、そこには持続性がなければならない。あくまで食べる分だけいただくに留める、継続的な関係が今のライオス達と魔物の間には生じている。

 

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

ライオス「迷宮内には魔物があふれている。つまり生態系が存在しているということだ。肉食の魔物がいればその糧となる草食の魔物が、草食の魔物が食う植物にはその栄養となる水や光や土が。すなわち、人間も迷宮内で食っていけるということだ!」

 

冒険者がダンジョンにとって異物たる理由。それは彼らがあくまでダンジョンにとって一時の存在に過ぎないためだ。魔物に敗れ食われるとしても、それは排除の一形態であって冒険者がダンジョンに受け入れられたわけではない。だがダンジョンの魔物達と"食う"か"食われる"かのやりとりをするなら、ダンジョンは冒険者にとって生活の場にもなってくる。すなわちそこに生態が生まれてくる。1話では調理や食事に留まらず掃除や後片付けの様子も描かれているが、それは食が生活の一環であると意識されているからこその描写なのだろう。

 

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

ナレーション「ダンジョン飯。それは、"食う"か"食われる"か―――そこには上も下もなく、ただひたすらに食は生の特権であった。ダンジョン飯、ああダンジョン飯

 

冒険者はダンジョンにとって異物であり、物理的に侵入するだけではいかな強者も排除される他ない。けれど生態の一部となれたなら、その時冒険者達は本当の意味でダンジョンに「入る」ことができるのである。

 

感想

というわけでダンジョン飯のアニメ1話レビューでした。かなり淡々とした1話なのもあって初見時は何をどうまとめたらいいのやらと首を傾げましたが、視聴を繰り返す内にナレーションの「上も下もなく」が生態という形でまとまってこんなレビューに。

 

千本木彩花さん演じるマルシルのリアクションや泊明日菜さん演じるチルチャックの(見た目の)少年ぽさ、センシ役で中博史さんの声をたっぷり聞ける嬉しさはもちろんのこと、熊谷健太郎さんのライオスの人の良さとズレたところが同居している感じが本当にいい。「ゴッド・オブ・ハイスクール」で演じた友情に厚いハン・デイなんかも格好良かったっけ。

 

goh-anime.com

 

独特の空気感を味わえるこれからの半年間が楽しみです。さてさて、次回の飯やいかに。

 

 

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