探せ! 押せる×推せる尊さ――「真夜中ぱんチ」7話レビュー&感想

©2024 KADOKAWA/P.A.WORKS/MAYOPAN PROJECT

そのひと押しが欲しい「真夜中ぱんチ」。7話では登録者数を伸ばすための手探りが行われる。「尊さ」とはどこに隠れているものなのだろう?

 

真夜中ぱんチ 第7話「推しは尊し押せよ登録」

mayopan.jp

1.真咲の空回り

晩杯荘の取り壊しを防ぐため、半年以内にチャンネル登録者数100万人を達成しなければならなくなった真夜中ぱんチ。尋常な方法では到底不可能なこの目標を達成すべく、真咲はひとり奮闘するのだが……

 

©2024 KADOKAWA/P.A.WORKS/MAYOPAN PROJECT

七転び八起きの「真夜中ぱんチ」。7話は真咲が空回りしてしまう回だ。彼女とりぶ達”真夜中ぱんチ”は晩杯荘の取り壊しまでに半年の猶予をもらえた一方、正式な阻止のためには期間内に動画チャンネルの登録者数を100万人に増やさなければならなくなってしまった。7話開始時点での登録者数が4.8万、有名配信者ですら100万人達成に3年かかったと劇中で語られているのを見るとほとんど非現実的にすら思えてくるが、晩杯荘を守るには何が何でもそれを実現しなければならない。真咲は3段階の作戦を考え、ショート動画を毎日投稿して人目を引く第1段階は見事成功したものの第2段階でつまづいてしまった。過去の動画を分析して「変人のマヨぱん×最先端トレンド」のギャップ萌えでファン層の定着を狙ったものの、登録者数が思ったようには伸びてくれないのだ。焦った真咲は大量のエナジードリンクを支えにショート動画の投稿数を増やすなど無茶を重ねるが、状況はまるで改善しない。編集を手伝おうとしてくれるもまだ拙いりぶの助力もはねのけてしまい、人間関係にも影響が出て……絵に描いたような悪循環である。

 

©2024 KADOKAWA/P.A.WORKS/MAYOPAN PROJECT

真咲「なんで……なんで増えてくれないの……!? こんなにやってもだめ……?」

 

再生回数はサムネを盛れば稼げるが、登録者数はチャンネルそのものを好きと思ってもらわなければ=価値を感じてもらわなければ伸びない。マヨぱん×トレンドを筆頭に、今回の真咲は真夜中ぱんチの価値ある部分を探し抽出しようとしていると言えるだろう。故に彼女は、純度を下げるような部分はばっさりと捨てて価値を高めようとする。動画の余白を、いまだ編集技術の拙い「りぶ」の手伝いを真咲はカットし、あるいは拒絶して自分一人で動画を編集していく。しかしそれで状況が改善しないのは先に触れた通りで、真咲はすっかり参ってしまった。


純度を上げ価値を高めたはずの動画が、にも関わらず成果に繋がらないとなれば頭を抱えてしまうのも無理はない。なぜマヨぱんにチャンネル登録の価値を感じてもらえないのか? 価値がないのか? その理由を真咲は、思わぬ形で知ることとなる。

 

2.探せ! 押せる×推せる尊さ

すっかり行き詰まってしまった真咲は風呂場でマヨぱんのメンバーの一人、譜風が異端児(いたんきっず)なるコンビの動画にこっそり熱を上げているのを目撃する。初のチャンネル登録を「初めてを捧げる」などと形容しているように、真咲が悩んだところの価値を譜風が感じているのは確かだろう。ただ、それは的確に編集されたネタや高度なネタにあったわけではなかった。譜風はむしろ動画から時折覗く素の部分、そして二人の関係性が「尊い」からだというのだ。


編集された価値ではなく素の姿に、そして関係性に価値ではなく尊さがあるから推しのチャンネル登録ボタンを推す。真咲の悩みに対する答えとしてこれはこの上なく明瞭で、今回の話のテーマは関係性なのだと言ってしまっても間違いではないだろう。ただ、劇中で明言されているものをそのまま答えにしてしまうのは私としてはレビューの書き甲斐が無い。疑いないものだとしても、もう少しだけひねってみたい。

 

©2024 KADOKAWA/P.A.WORKS/MAYOPAN PROJECT

譜風の話に気付きを得た真咲は、かつて一緒に活動した「はりきりシスターズ」がバズった際の動画やりぶが編集した動画を見て「やっぱしょうもない」とつぶやく。ただ、微笑みながらそう言う彼女はもちろんこれらの動画を馬鹿にしているわけではない。それが譜風の好きな動画同様いかに「尊い」か気付いたからこそ、真咲は兜を脱ぐようにそんなことを言っているのだ。すなわちこの時彼女は、価値を高めるというなら一番に切り捨てるべきは誰だったのか気付いてしまった。尊さに触れながら、今までそれに目もくれなかったボンクラの存在に気付いてしまった。

 

©2024 KADOKAWA/P.A.WORKS/MAYOPAN PROJECT

真咲「分かってたつもりだったんだけどな……でも、早く登録者増やさないとって一人で焦って、それでよく分からなくなって……」

 

動画を見終えてりぶ達のところに戻った真咲は、自分がいかに愚かだったか語る。マヨぱんのいいところが見えなくなって編集で消してしまっていた、以前のグループの時も一人で突っ走って人間関係を壊してしまった……言い換えるならこれは、自分がいかに無価値な存在かの告白だ。価値のない、切り捨てるべき存在だという懺悔だ。それも先の動画のような微笑ましさのない、いわば尊さの対極としての無価値さ。「そういうことだから明日から……」と言いかけた彼女は、本当は動画配信から身を引こうとしていたのではないだろうか。だが、その先は口にされることはなかった。りぶが遮ったからだ。

 

©2024 KADOKAWA/P.A.WORKS/MAYOPAN PROJECT

りぶは言う。「またそうやって一人で突っ走って」と。何度も言うが今の真咲にはりぶがいる、と。そう、りぶ達だって1人1人は腐ったミカンの皮以下のゴミクズとまで言われる問題児達だし、彼女達が笑えるしょうもない存在で済むのはそれこそ真夜中ぱんチとしての活動あってこそだ。1人をしか見ないのなら無価値なのは真咲もりぶも変わりはなく、けれどその無価値な連中が一緒にいればそこには「しょうもなさ」が生まれる。価値が高まるのではなく無価値なままで、くだらなくてどうしようもないが観る者が愛おしくなってしまうそのしょうもなさこそは譜風も口にした「尊い」ものであろう。それを証明するように、直後に真咲が発案したお風呂トーク動画は異端児について意見が割れて激怒した譜風が暴れる「しょうもない」内容にも関わらず登録者数を大きく増やすこととなった。

 

©2024 KADOKAWA/P.A.WORKS/MAYOPAN PROJECT

いつものように「枠」でまとめるなら、今回真咲達が飛び出したのは価値の枠である。素晴らしさとしょうもなさは表裏一体だからこそ、それを飛び越えるところに私達は尊さを感じるものなのだ。

 

感想

以上、マヨぱん7話レビューでした。遅れる見込みを前もって書いた先週遅れないでその翌週遅れるという……疲労やら忙しさやらもありますが、劇中で明言されているものをそのままテーマとして書いてしまうとこのブログは存在意義がないのでどう書いたものか大変悩みました。「初めてを捧げる」やシリアスな場面で鼻唐辛子のしょうもなさとか、本文中でも触れた真咲の言いかけた台詞の続きなどから少しずつ私なりにひねれるものを探していった感じです。


真咲自身も第2段階をクリアする。そんなお話だったように思います。さてさて、次回の動画配信者のフェスってどんな感じなんでしょうね。

 

8/27追記

 

 

 

<いいねやコメント等、反応いただけると励みになります>