人形は歌を知らない――「BanG Dream! Ave Mujica」4話レビュー&感想

©BanG Dream! Project

沈黙の「BanG Dream! Ave Mujica」。4話で「モーティス」はMujicaの曲を知らないとおどけて言う。それは単に曲が弾けないという意味ではない。

 

 

BanG Dream! Ave Mujica 第4話「Acta est fabula.」

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1.消えた「不協和音」?

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抜群の演技力と社交性を持つ、「人が変わった」よう振る舞いを見せるようになった睦。彼女のおかげでAve Mujicaメンバーの亀裂は修復され、解散の危機は去ったように思われた。しかし福岡ライブのリハの際、彼女はなんとギターを弾けないと言い出し……!?

 

落とし穴の「BanG Dream! Ave Mujica」。4話はAve Mujicaが解散を宣言する回だ。ただ、1話の時点で不穏さがあったとはいえ、その引き金は意外な形で引かれることとなった。今回はその理由を冒頭の睦(モーティス)の言葉から考えてみたいと思う。

 

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前回3話はAve Mujicaのギター担当の若葉睦が心を苛まれた挙句、もう一つの人格「モーティス」に食われてしまう話であった。そしてこの4話は睦になり変わったモーティスが「Mujicaの曲知らなくて」と冗談としか思えないことをにこやかに話す場面から始まり、後に事実彼女は睦と違ってギターを弾けないことが明らかになる。言葉の意味を知ると改めてぞっとする場面であるが――この「歌」とはなんだろう?
もちろん、歌とは一般的には節回しのついた言葉を指すものだ。抑揚のある言葉を発する者がいればそれは歌になり、演奏する者が加わってバンドになる……ただ、前回睦が自分の演奏を「ギターを歌わせられない」と評したように、本作における歌はそんな単純なものではない。Ave Mujicaは特に、だ。

 

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Ave Mujicaの歌とはボーカルと楽器で完成するものではない。設定上はメンバーは全員人形、ライブでも演奏するだけでなく寸劇まで演じる作り込まれた世界……それが彼女たちの歌である。だから3話で演奏を間違えた睦が呆然とした時も(彼女の一種の異能あってこそではあるが)周囲の誰もがそれをパフォーマンスと信じる余地があった。歌唱や演奏以外まで含めた全てがAve Mujicaの「歌」なのだ。であれば当然、Mujicaの歌を知らないというモーティスの発言は演奏技術以外にまで広めて受け止めるべきだろう。

 

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4話序盤、モーティスが見せる「歌」は一見すると見事だ。駅のホームで言い争うほど険悪だったメンバーの仲は社交的に変ぼうした彼女のおかげで一掃され和気あいあい、写真撮影でも(祥子を除いて)自然と笑顔が生まれる。メンバーの1人である海鈴は祥子とは違うアプローチでMujicaの世界観を表現しているとまで言うほどだ。だが、睦がモーティスになってしまったのを知る我々視聴者にはこの仲の良さは気持ち悪くて仕方がない。前回までのギスギスした雰囲気の方が何倍もマシと感じた人も多いはずだ。みなで仲良く成長していく少女たち、という定番のドラマはむしろAve Mujicaらしくない。いや、Ave Mujicaの「歌」らしくない。

 

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睦(モーティス)「バンドは共に音楽を奏でる運命共同体なんだよ!? 私たちの使命はゲストの皆様に夢を見てもらうことでしょう?」

 

物真似をしてみせる振る舞いの通り、モーティスは祥子の真似をしている。Ave Mujicaの歌を彼女以上に上手に歌えているつもりでいる。けれど実際はその音色はどこか軋んでいて、前回までの不協和音にすら遠く及んでいないのだ。……いや、そもそもそれは本当に不協和音だったのだろうか?

 

2.人形は歌を知らない

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前回までAve Mujicaの間で鳴っていたのは本当に不協和音だったのか。何を言っているんだと思われた方もいるだろうが、ここで1つ思い出してほしいことがある。モーティスはメンバーの仲を修復するにあたって皆と話をしたというが、それはどんな内容だっただろうか? 彼女はこう語ったはずだ。「祥子ちゃんのことよろしくねって言ったら(初華は)楽しそうに笑ってたじゃない」「(にゃむちも)皆のいいとこを出し合ってMujicaを盛り上げようねって」「(海鈴も)Mujicaが自分の居場所になるといいって言ってたのに」「みんなAve Mujicaが大好きだよ」……と。

 

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画面上に映されたのが祥子を大好きな初華の時だけなので印象が弱いが、モーティスがにゃむちや海鈴と話をしたのはメンバーの仲が修復される前だったはずだ。つまり彼女たちはバンドの雰囲気が良くなったからそんな現金なことを言い出したのではなく、険悪な状況下でも相当な愛着を持っていたことになる。これは矛盾なのか? 否。にゃむちがなぜMujicaに愛着を持っていたかは、彼女が今回脱退を言い出したタイミングを見れば分かる。

 

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にゃむち「最初、あんたの服見てショボって思ってたけど、お嬢様かなぐり捨ててやってく覚悟なんだって思ったから絶対一緒に成り上がってやろうと思ってたのに。何が一生くれよ、あたしはお嬢様のごっこ遊びに付き合ってる暇なんてないの!」

 

にゃむちが脱退を言い出したタイミング。それは自分が睦を追い込んだ事実に打ちのめされた祥子が「睦に戻ってきてほしい」と言った時だった。「モーティス」になった睦が演奏できないことが分かり、バンドをどうするか決めなければならないのに弱音を吐いた時だった。バンドよりも睦を、いや自分の苦しさが勝ってしまった時だった。そう、にゃむちは祥子が「方向性の違うバンドメンバー」ではなく「バンドという運命共同体を担う覚悟のないお嬢様」だと感じたから脱退を決めたのだ。

 

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振り返ってみれば、これまでの祥子とにゃむちの対立は険悪だがあくまで方向性の違いに過ぎなかった。見ている方が胃が痛くなるような口論ではあったが、そこには間違いなく本気のやりとりがあった。にゃむちは祥子のやり方にまるで賛成できない一方、その思いが本物であることだけは認めていたのだろう。だが「モーティス」は祥子のそんな頑なさをへし折ってしまった。表面的な仲の良さしか理解できなかったが故に、仲良しこよしに加わらない最後の”不協和音”であった祥子を打ち倒してしまった。……それが良くも悪くもぶつかり合いながら高みへ昇ってゆくAve Mujicaをかろうじて成立させていたことも知らずに。Ave Mujicaの「歌」に必要なピースであったことも知らずに。だから彼女たちの終わりは喧々諤々とした喧嘩別れではなく、歌なき絶望の沈黙の中で決まってしまうのである。

 

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人形には対立や衝突は不協和音にしか聞こえない。時にそれが回り回って美しい調べを奏でていることに気付けない。どれだけ演技に長けていてもモーティスはしょせん、人間を演じる人形に過ぎなかった。人形は――「歌」を知らなかったのだ。

 

 

感想

以上、アニメムジカの4話レビューでした。今回は比較的すんなり考えがまとまってくれてホッとしました。睦よりバンドを優先してしまった祥子が今度はバンドを優先できなくて(要するにどちらも自分のことで手一杯なのだが)更に窮地に追い込まれるのがキツい。どうしろと。どうなっちゃうんでしょう……

 

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