ケーキに打ち勝て! たい焼き師弟――「メダリスト」3話レビュー&感想

©つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

おかしなお菓子な「メダリスト」。3話では大会に挑むいのりの前に強敵が立ちふさがる。優勝するため彼女と司が選ぶ「たい焼き」は、作戦のことだけではない。

 

 

メダリスト 第3話「たい焼きとケーキ」

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1.ケーキとしてのミケと鞠緒

「中学生までは続けさせてあげる」という母の言葉を覆すため、司の指導で「名港杯」の初級枠での優勝を目指すことにしたいのり。練習中に出会った三家田涼佳(ミケ)という子と仲良くなるのだが……?

 

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積み重ねと飛躍の「メダリスト」。3話は新たな舞台、そして新たなライバルの登場する回だ。スケートを続けることを母に認めさせるべくいのりが出場を決めた大会「名港杯」、そしてその最大の障害となる強敵・三家田涼佳(ミケ)の登場……実にスポーツものらしい展開である。そして優勝のための作戦をいのりのコーチである司はショートケーキといちごたい焼きに例えるが、実のところこの例えは作戦に留まっていない。今回のレビューでは、ミケといのりの対比を通してケーキとたい焼きの意味を考えてみようと思う。

 

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鞠緒「いーい? 正しいのはこう! ミケ太郎のはこう!」
ミケ「そんな顔してない!」

 

3話で初登場となるミケは、いのりと司を見てきた我々視聴者にとってずいぶん変わった印象を受ける子である。猫を連想させる容姿に加えて気性が荒っぽく、コーチを務める那智鞠緒にも反抗することしきり。鞠緒の方は那智の方でミケを挑発してみせたりするから2人の間には喧嘩が絶えず、初めて2人を見たいのりと司は「生徒にor先生にそんな失礼なこと言って大丈夫なの……?」と困惑してしまったほど。だが、もちろんこれは彼女たちの関係が悪いことを意味しない。ミケは反抗的ながらも鞠緒の指導になんだかんだ従い練習にも熱心だし、鞠緒はミケが高難度の技の習得に成功した時は涙ぐんで喜びをあらわにしており、2人の間にはむしろ強い信頼関係がうかがえる。「信じているから喧嘩する」というのは、信頼を積み重ねている段階のいのりと司にはとうてい無理な芸当であろう。例えるならそう、ミケと鞠緒が見せる信頼は「初級枠で2回転を飛ぶ選手」――つまり名港杯におけるミケと同じ――に等しい。

 

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いのりにとってミケは、単純な技量に留まらず自分の先を行く存在だ。5歳の時にはフィギュアスケートでオリンピックを目指すと決め、コーチの言う事にただ従う段階はとっくに通過……鞠緒との荒々しくコミカルなやりとりと裏腹に、その実体は極めて正統派。彼女と知り合ったいのりは母親から誕生日でもないのにケーキを出されて驚くが、「昔から正しく積み重ねてきた子」であるミケは存在そのものがケーキに等しいと言えるだろう。いのりがそんな彼女に勝ち、優勝するためにはどうすればいいか? 劇中での司が例える作戦が象徴しているように、それにはもう1つの道を選べばいい。そう、たい焼きである。

 

2.たい焼きとしてのいのり、司

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優勝のため、あえて進級せずに初級枠に出てきたある意味規格外の少女、ミケ。そんな彼女に勝つための方法として、司は2つの練習プランを提示する。1つは2回転という「いちご」を目指して練習するショートケーキ作戦、もう1つはまず基礎の完成度を上げ余裕があったら2回転(いちご)に挑戦するいちごたい焼き作戦。前者は成功すれば華やかだが間に合わなければみすぼらしいプログラムになってしまうし、後者では普通のたい焼きにはできるが決め手に欠ける恐れがあるとどちらも一長一短だ。前節に基づけば選ぶべきは当然いちごたい焼き作戦になるわけだが――しかし、そういう正しさで選ぶことは本当に「たい焼き的」なのだろうか? 優勝できるかどうかだけで選ぶことは、それ自体が既に「ケーキ的」ではあるまいか?

 

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司「俺にももちろん意見はある。でも、自分で選択することに慣れてほしいんだ。大会のジャンプ構成だけじゃない、これから何度も選択の瞬間はやってくる。そこで何を取り入れ何を捨てるか……それが世界に1人だけのあなたという選手を作るんだ」

 

司はどちらの作戦がいいか意見は持っていたが、それをいのりには伝えなかった。彼女が自分の意思を読もうとした時はそれを否定さえした。なぜか? そうまでいのり自身に選ばせようとしたのは、彼女に自分で選択することに慣れてほしかったためだ。司はもちろんいのりを優勝させるつもりだが、それ以上にまず意思決定の基礎を固めて・・・・・・ほしかった。つまり彼の提示した選択はもともとが「たい焼き的」であり、絶対に取らせるつもりであっても優勝=いちごは後から入れる付加価値に過ぎないのだ。優勝という正しさを基準に選んでしまったその瞬間、どちらの作戦を選ぼうとそれはもうたい焼きではなくケーキになってしまう。だから司はあえて自分の意見は提示しなかった。

 

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いのりと司はケーキにはなれない。それは正しく積み重ねてきたケーキであるミケが更に成長を遂げ、いのりがまだできない2回転どころか連続ジャンプまでものにしてしまったことからも言える。けれど一方で、たい焼きとしての自分たちを貫けばそこにはいちごも自然とついてくるものだ。練習を重ねた末に司が見つけた優勝のための技は2回転ではなくフライングシットスピンであったが、狙って練習していたわけでもない高難度の技が実現したのはあくまでいのりが基礎固めに集中したからこそだろう。軸のブレない、トラベリング(回転中の移動)のないその鮮やかなスピンは、2人がたい焼きを貫いたからこそ入れることのできた付加価値=いちごに他ならない。

 

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司(選択は……間違ってなかった……!)

 

今回の副題は「たい焼きとケーキ」である。けれどこれは単なる練習プランの例えではない。ケーキのようなミケと鞠緒に挑む、いのりと司のあり方そのものがたい焼きなのだ。

 

感想

以上、メダリストのアニメ3話レビューでした。たい焼きとケーキの例えが入れ子になっているのが難しく、最後のいちごにたどり着くまでだいぶ悩むことになりました。ミケの声が木野日菜さんなの最初気づけませんでしたが、分かってみるとそういえば木野さんの声だ。迷い犬の演技もコミカルでしたがどなたが演じてたんでしょう。さてさて次回、勝負の行方は?

 

 

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