刀使ノ巫女ドラマCD「湖底楽園」レビュー~異界への細道~

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刀使ノ巫女ドラマCD「湖底楽園」

 刀使ノ巫女ドラマCD第二弾「湖底楽園」を聞きました。今回の舞台となるのは岩手県湯田ダム人造湖である錦秋湖の堰堤。通常なら湖底にあるはずのそれは渇水によってたまたま姿を現した「異界」――それは見ようによっては隠世のようなものであるとも言えます。そして今回のお話は総じて、異界への道を模索することで成立していました。

 

 タギツヒメとの戦いは終わりましたが荒魂の出現頻度は下がらず、一方で刀使の人数はまるで足りません。全てに十全な対処はできない中で模索やりくりの道を模索するのは、見ようによっては本来ないはずの異界への道を探すようなもの。そしてエレンが消息を絶ったことで、その異界への道は更に細く険しくなってしまいました。
 エレンは死んでしまったのか?否。たやすくやられるような彼女ではないから心配は無用か?否。荒魂の脅威が迫っているから見捨てなければならないか?否。眼前のもっともありそうな結果を否定し続け、薫達は細い細い道を進んでいきます。それはエレンの行方や荒魂の推理にしても、刃の通らぬ荒魂にどう対処するかの思案にしても変わりません。真庭学長が1機だけでもストームアーマーを送ってくれたこともあって、細道はどうにか兜割りから甲羅割りの異界へ繋がることができました。

 異界とは、隠世とは現世に無いはずの世界であり、それは必ずしも良いものとは限りません。可奈美の剣術道楽だって一歩間違えば危険な人間になりかねない。沙耶香の成長も一歩間違えばおかしな方向に進みかねない。そもそも今回の事件にしても、エレンなら問題ないという予想から外れたという意味では異界に迷い込んだようなものなのですから。そして隠世の浅瀬に生まれた人に敵意の無い荒魂にとっては、現世こそが彼らを凶暴な存在に戻してしまう異界になってしまいます。未だ、彼らと共に暮らせる異界への道は見つかっていない。
 それでも、刀使達はその異界への細道を探し続けていくのでしょう。最後の一歩を踏み外さないよう、歩んでゆくのでしょう。その先にはきっと、今は想像もつかない異界が広がっているのです。


 今後への期待と「泣き」を前面に出した第一弾に対して、薫と真庭学長のやりとりを始めとしてユーモラスな場面も多いまた一味違ったドラマCDでした。またラストシーンは「刀使ノ巫女でキスシーン」という異界にたどりつく見事な細道だったと思います。まきすずは実際にやったら色んな意味で終わるので。もし薫がおるおる呼びを許していたら、今ほど親密ではなかったかも……などと想像するのも含めて、期待以上の極上のかおエレでした。とじともOVAを始め、本作がまだまだまだまだ止まらずにいてくれることを嬉しく思います。もっともっと、可奈美達と会っていたい。


 そうそう、錦秋湖で検索してみましたが、西和賀町観光協会 西和賀FAN事務所が2014年に点検で水位を下げた際の写真を公開してくださっています。次に点検するのは2024年だそうなので実地に見ることは今はできませんが、写真や湖を通して「異界」に思いを馳せるのもまた面白いかも知れません。

*観光情報としては観光協会の「にしわが旅」の方が最新になるよう。

西和賀FAN

錦秋湖湖底アーカイブ①

錦秋湖湖底アーカイブ②