水口レイピアに見る、差異と相似の共鳴――OVA版「刀使ノ巫女」とじとも前編レビュー&感想

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©伍箇伝計画/とじともOVA製作委員会

OVA刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火」には同名ゲームの主人公である美炎達に加えて、新多弘名というひときわ目を引く刀使が新たに登場する。美炎の加州清光をはじめ刀使はみな御刀を持っているが、弘名の御刀は「水口レイピア」……そう、洋剣だ。そしてこの御刀こそは、本作の性質を象徴するアイテムとなっている。

 

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1.差異と相似は必ずしも対立しない

 
水口レイピアは近年になって初めて価値を発見された剣だ。これまではあくまで伝来品と認識され、日本刀とは全く違うものとしてのみ扱われてきた。
しかし分析の結果、伝来品ではなく日本刀の技術を利用して作られた模造品と判明したことで評価は一変する。日本刀と全く違うものではなく、「半分は日本刀と同じだが、半分は日本刀と違うもの」であることが価値を生んだのだ。
これまでのように「日本刀と全く違うもの」、あるいは「日本刀と全く同じもの(日本刀そのもの)」であればこれほどの注目を浴びることは無かっただろう。差異と相似は対立するものと考えられがちだが、水口レイピアはむしろ差異と相似が共鳴して価値を高め合っている刀剣だと言える。
 
刀使ノ巫女の世界では日本刀(御刀)は希少金属である珠鋼が使われ荒魂に対抗できる稀有な武器となっているから、洋剣の形状で「同じ」力を持ちかつ日本刀とは「違った」戦い方になる水口レイピアの価値は一層高まっている。
そして、象徴であると最初に書いたように、差異と相似の共鳴はこの前編全体に見ることができるのだ。
 
 

2.差異あればこそ、相似あればこそ

本作では弘名に加えて、コヒメという人型の荒魂が登場する。ノロによって組成されながら人間同様の体構造を持つ彼女は、存在そのものが差異と相似を抱え込んでいる。
また美炎達が荒魂であるコヒメを討伐できないのは、単に彼女が怯えた童女だからという理由だけではない。荒魂として御刀を向けられたからこそコヒメは怯えて涙し、童女としての哀れさを美炎達に感じさせたのだ。
彼女が人間の無垢な童女と同じなのはどこまでいっても半分だけで、半分は違うからこそ全く同じ扱いはできない。そして半分は違うからこそ、美炎達はコヒメの自分達と同じ半分にいっそう強く愛着を抱かずにいられないのである。
 
しかしそれはコヒメの方から、そして逆から見ても同じことで、彼女は人間と同じ高い知性によって美炎達に懐いている一方、その知性故に自分と美炎達の違いを感じ取ってしまう。攻撃目標としての荒魂の画面上の処理にも無残な死を読み取るし、荒魂がそう扱われる人間との関係にもショックを受けてしまう。半分は同じだからこそ、半分の違いが辛くてたまらないのだ。
 
 
半分の差異と半分の相似は、互いをいっそう強く映し出す。可奈美の剣術好きと呼吹の荒魂バトル好きが確かに似通い、しかし確かに違うように。由依にとってはコヒメも愛すべきかわいい女の子であることは変わらず、しかし相手が荒魂であればその変態的な女の子好きも器の大きさすら伴ってくるように。半分は間違いなく味方の弘名が、それ故にどこか怪しさを感じさせるように。
 
少女達の”半分”の共鳴はおそらく、後編でますます強さを増すことだろう。それが明かされる日を待ちたい。
 
 
 

感想

というわけでOVAとじとも前編のレビューでした。スタッフの皆様、再びアニメで刀使達に会わせてくれてありがとうございます。
 
TVシリーズとはまた少しテイストの違いがありますが、OVAもまた同じなのは「半分」なのでしょう。初見時は何を書いたものかと戸惑いましたが、水口レイピアをきっかけにたどりつけた「半分」はとても興味深いものでした。やはり本作の剣は口ほどにものを言う。
後編、楽しみにしてます。動画サービスに先駆けてゲームアプリ内で配信されていますので、興味のある方はぜひ。
 

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