成長することははみ出すこと――OVA版「刀使ノ巫女」とじとも後編レビュー&感想

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©伍箇伝計画/とじともOVA製作委員会
新たな刀使・新多弘名、そして人型荒魂のコヒメを加えて描かれるOVA刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火」。後編冒頭、コヒメはタブレットを自分で使いこなし人間と荒魂の関係を調べるほどになっていて、美炎に驚かれる。美炎にとってコヒメの成長ぶりは予想を超えて――つまり「はみ出して」いた。この「はみ出す」ことは、後編では大きな意味を持っている。
 
 

刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火 OVA後編

 

1.壁は成長の前に突き当たるもの

前編においてコヒメが突き当たったのは、半分は自分達と同じような人間の美炎達がしかし、もう半分は自分達荒魂と違うという半分の壁であった。美炎達は思い悩む彼女を元気づけようとはするが、人間と荒魂の関係について一緒に考える、というようなことはしなかった。美炎はコヒメを「妹ができたみたい」とかわいがっていたが、逆に言えば愛でることはしてもその悩みを尊重できてはいなかったと言える。思い悩むあまりコヒメが施設を「抜け出す」のは、これも「はみ出す」に区分される行動だ。守られるが何もできないという状況を脱し、コヒメは童女からの成長を遂げている。
 
はみ出るにはまず、そこにあるものがいっぱいにならなければならない。これ以上は収めきれないという壁にぶつからなければならない。はみ出すという成長はまず、壁にぶつかることによってこそ生まれるのである。
 
 

2.はみ出すことで越えられる壁

保護対象だったコヒメが自らの意思で離れたことは美炎達に大きなショックを与え、調査隊は意見においても編成においても分かれてしまう。おまけに弘名の策略により同士討ちの危機にまで陥るわけだが、見方を変えればそれは、美炎達もまた壁にぶつかっているということだ。ならば彼女達がそこで得る成長もまた、それまでの自分から「はみ出す」形を取ることになる。
 
美炎と清香は待機命令を破ってまでコヒメを自ら探そうとする。
ミルヤは「美炎を捜索隊から外せ」という命令に、「探させるなと命令されてはいない」と屁理屈を繰り出す。
智慧は美炎にコヒメの意思を尊重するよう伝えることで、自らもまた妹のようにかわいがっている美炎の意思を尊重する。
呼吹は荒魂との戦いという遊びだけでなく、美炎との戦いにも楽しさを見出す。
由依はかわいい女の子好きの変態の枠を越え、自らの経験とも照らし合わせてコヒメを導く。
 
そしてそうした美炎達の成長を前に、コヒメもまた更に一段の成長を遂げる。彼女は自らの意思を持ったからこそ人間と荒魂が共にある難しさという壁にぶつかったが、友達という概念はその壁から彼女をはみ出させてくれた。というより、他者を自らの一部のように大切にし、他者によって自らの寂しさを埋め合わせる「友達」という概念はそれそのものが自他の境界線(壁)をはみ出すものなのだろう。
 
 
どこまで行っても人は他者を全て理解することも理解してもらうこともできない。できてせいぜい半分で、その半分の差異と相似に人は苦しむ。けれど半分の壁があっても、そこからはみ出すことができたなら。壁の向こうに手を伸ばすことができたなら。人はその時、他者と手をつなげられる。
 
人を理解するという役目を少し外れて、コヒメは美炎と友達になれたことを純粋に喜ぶ。笑顔を寄せ合う2人の姿はきっと、人と荒魂にありえる幸せが未来から「はみ出した」ものなのだ。
 
 

感想

というわけでもとじともOVA後編のレビューでした。当初は「半分を持ち寄る」というテーマでどうだろうと思ったのですが、コヒメが施設を抜け出すシーンが妙に印象に残っておりそこからこういう読み解きに。あと、この内容だと前編の智慧の曇り顔や後編での役割なども説明できるので。内容でもテーマでも、TVシリーズを「はみ出る」OVAになっていたように思います。作画はだいぶ苦しそうでしたが……ブルーレイで修正入るのかしらん。
 
TVシリーズとも小説とも、また少し違った「刀使ノ巫女」を見ることができました。スタッフの皆様、ありがとうございました。更なる展開を期待して、円盤買います!