見せるべき空は――「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 NEXT SKY」レビュー&感想

活躍広がる「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」。OVA「NEXT SKY」では歩夢の短期留学を契機とした出会いが描かれる。「NEXT SKY」はけして、単なる新章のかけ声ではない。
 
 

 

1.空は繋がっている

アニメ2期を経て13人の大所帯となった虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会。TVアニメ2期では最後にメンバーの一人歩夢がロンドンへ短期留学しており、本OVAの始まりも彼女の帰国が一つの区切りだ。侑達同好会のメンバーはサプライズの出迎えで歩夢を驚かせようとしていたが、いざ空港へ向かって驚いたのは彼女達の方だった。歩夢の隣には彼女の短期留学のきっかけとなった人物、ロンドンでスクールアイドルに憧れる少女アイラがいたのである。もともと歩夢の短期留学はロンドンでスクールアイドルをやってみたいというアイラを応援したくて行われたものだし、本作は「空は繋がっている」のをよく感じさせる始まりだと言えるだろう。
 
アイラが日本に短期留学に来たのはもちろん、スクールアイドルをやってみたかったから。そんな人間を同好会が無下にするわけもなく、2週間の留学期間中彼女が受けるのは大歓待だ。スクールアイドル関連の名所を案内したり、メンバーの一人嵐珠の財力で屋形船などいささか過剰なもてなしをしたり……最後には一緒に練習し、歩夢とアイラは校内のミニライブで共演すら果たす。
部長のかすみを始めとして、アイラとのやり取りは非常に賑やかで微笑ましい。今までも見た、これからも見ていたい幸せな光景だと感じた人は多いだろう。しかし、ここには一つ落とし穴がある。
 
 

2.自由になれぬ空

アイラと同好会の微笑ましいやりとりには落とし穴が潜んでいる。それを考えるにあたって鍵になるのは本OVAの事実上の主役、同好会の一員である三船栞子だ。
 
栞子はTVアニメでは2期から登場したスクールアイドルだ。真面目な性格だがそれ故にスクールアイドルを難しく考え過ぎるきらいがあり、昔から憧れていたにも自分は適性に欠けると考え1年生の後半まで活動を始めようとしなかった。そんな彼女も生徒会長に立候補するなど成長を見せ、殻を破った……はずだったのだが、このOVAでは再び迷いを見せている。彼女は自分のMCに愛嬌がないと感じており、つまりそこでまた適性の問題にぶつかってしまっているのである。
 
歴史は繰り返すという言葉もあるように、人間は環境や時間が変わっても同じような行動を繰り返しがちなものだ。それは成長においても同様で、壁を越えた先に待っているの以前と大差ない悩みである場合が珍しくない。適性に対する悩みを乗り越えてスクールアイドルを始めたのに再び適性について悩む栞子の場合はまさにこれで、言ってみれば2期の栞子と本OVAの彼女の「空は繋がっている」。新天地へやってきたはずなのにいつも通りのことになってしまっている。そう、アイラへの歓待の落とし穴はここにある。同好会はせっかく新しい出会いを迎えたのに、やっていることはいつも通りに留まっているのだ。故に彼女達は、短期留学の最終日まで実はアイラが悩みを抱えていたことに気付けない。
 
アイラの抱えていた悩み。それはロンドンの学校でスクールアイドル活動の認可が下りない事実であった。学校制度もアイドルに対する認知度も異なる国では日本のスクールアイドルのようなことをやってみたいと言ってもなかなか理解されず、アイラの憧れは事実上頓挫していた。夢の終わりにせめてつかの間の夢を見られたら、というのがこの短期留学の真の動機であった。
 
アイラの置かれた状況は日本とは大きく違うものだから、同好会のメンバー達も直接的な解決策を提案することはできない。彼女の悩みは他人にはどうにもならない、孤独な悩みのようにも思える。だが、本当にそうだろうか? 否。「空は繋がっている」はずだ。
 
 

3.見せるべき空は

空は繋がっている。今回の話が歩夢とアイラの留学から始まったように、これは必ずしもマイナスの概念ではない。
 
短い期間ではあったが濃厚な短期留学の日々の中、同好会はアイラに対して感じていたことがあった。それは彼女が栞子と似ている、ということだ。栞子は愛嬌の有無が全然違うと否定していたが、かすみの冗談を真に受けてしまうアイラの真面目さは確かに似た部分がある。そして栞子自身、アイラの悩みを知って感じたのは自分達の類似点であった。自分には適性がない、ロンドンではスクールアイドルはできない……限界を勝手に決めて諦めてしまう点で自分達の「空は繋がっている」と栞子は気付いたのである。だが、それならば逆に似ているからこそできることも見えてくる。直接的な解決策は出せずとも、何かしらのエールなら送れるのが見えてくる。
 
栞子、そして彼女の連絡を受けて集まった同好会の面々がアイラに伝えたこと。それは自分達が最初から今のような状況にはなかった事実であった。確かに、振り返ってみればTVアニメ1期では同好会は廃部になっていたし、2期でも嵐珠やミア、栞子の入部までは相当な悶着があった。それらを乗り越えられたのは、彼女達がソロ・スクールアイドルだがけして孤独ではなかったからだ。ならば、ロンドンのソロ・スクールアイドルであるアイラもけして孤独ではない。彼女には活動を応援してくれるペネロペという友人がいるし、繋がった空の向こうに虹ヶ咲の仲間もいる。無理だと決めつけてしまった限界の先にだって、きっとたどり着ける。それをこそ・・・・・栞子達はアイラに見せる。
 
自分には愛嬌がない。そんな決めつけを捨て、リボンを新たな髪型のための髪留めに変えて、栞子は皆と一緒にアイラに歌を披露する。今までと明らかに曲調の異なるその歌「Go Our Way!」は、彼女達が限界を超えた証だ。空の向こうに行っても同じような悩みに直面するこの世界で、それでも次なる空に――「NEXT SKY」にはばたいた証だ。そう、この姿こそは本当の意味で彼女達の「いつも通り」ではなかったか。だからこの歌はアイラへの最上のエールになる。彼女にソロと孤独の違いを伝えるメッセージになる。その励ましあればこそアイラは帰国後に認可が下りずともスクールアイドルを始めた動画を配信するし、同好会の皆もまたアイラに触発されて意欲を燃やせるのだろう。
 
空は繋がっているからどこに行っても同じような繰り返しになるけれど、一方でそれ故に孤独ではない。そして限界を超えた空は、目に見える空とは別のところにある。「NEXT SKY」とはすなわち、栞子達がアイラに見せるべきもう一つの空なのである。
 
 

感想

というわけでニジガク、アニガサキOVAのレビューでした。TVアニメ放送時はさんざん手こずったので1回の鑑賞で書けるかとても不安だったのですが、幸いにして迷わずレビューの方向性が決まって一安心。書いていく内にこれはやっぱりソロ・スクールアイドルのアニメなんだと気付けたのも嬉しかったです。30分と聞いた時はちょっと驚きましたが、本当に30分でまとまっている……
 
せつ菜の声が楠木ともりさんでないことにやっぱり寂しさはありますが、林鼓子さんのせつ菜も魂みたいなものは同じと感じられるので違和感はありませんでした。次はまさかの劇場版3部作決定ということで、どういう内容になるのか公開が楽しみです。

 

 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>