呼びかけと答えと――「機動戦士ガンダム 水星の魔女」24話レビュー&感想

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問いかける「機動戦士ガンダム 水星の魔女」。最終回24話、スレッタは傷ついたエアリアルに必死の呼びかけをする。必要なのは返答である。
 

機動戦士ガンダム 水星の魔女 第24話(最終回)「目一杯の祝福を君に」

宇宙議会連合の放ったレーザー送電システムによって、激しく損壊したエアリアル
救出に駆け付けたスレッタの身体を、キャリバーン搭乗によるデータストームの負荷が襲う。
一方、停止したクワイエット・ゼロでゴドイに捕らえられたミオリネたちは、エアリアルとユニットの譲渡を迫られる。
公式サイトあらすじより)
 

1.迎える危機の正体

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スレッタ「返事してエリクト、エリクト!」
 
各人の必死の努力によって巨大機構クワイエット・ゼロの停止に成功するも、宇宙議会連合のレーザー送電システムから皆を守ろうとしたガンダムエアリアルが大破してしまった前回。続くこの最終話で見られるのは、対話や会話が絶望的に不可能な状況だ。
 

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アリヤ「スレッタ! 応答しろ、スレッタ!」
 
本作の世界ではパーメットという物質を介して通信や制御が置かれており、リンク状況がスコア8ともなればエアリアルに生体コードを移された少女エリクト・サマヤは自分の意思だけで機体を制御できるほどだった。しかしボロボロになったエアリアルはスコア8でなくとも話ができていた唯一の相手である主人公・スレッタの呼びかけにも答えられず、そこでは会話が成立していない。スレッタにしても、事態収集のためパイロットの安全を考慮しない危険な機体ガンダム・キャリバーンに乗っていた彼女はパーメットのデータストームによって直後に意識を失い、仲間達からの通信に応答できなくなってしまった。
 

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議長「フロント平和の理念に反したベネリットグループに弁明の余地はない。これは守護者となる議会連合の大義だよ」
 
対話や会話が不能な状態、というのは恐ろしいものだ。クワイエット・ゼロが停止した今となっては危機は去っているのだが、巨大企業ベネリットグループを危険視する議会連合は彼らに弁明の余地無しとして再度レーザー送電システムで攻撃を行おうとする。つまり聞く耳を持たない。あらすじとしてはスレッタ達が迎えているのは消し炭になる危機だが、物語として見れば迎えているのは全てディスコミュニケーションの危機と言えるだろう。
 
 

2.話し合うために

対話や会話ができない状況で、それをさせるのは主人公の専売特許……というわけではない。対話や会話を成立させるのは、むしろ個々人のそれだけ見れば些末にも思える努力だ。
 

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ヌーノ「エアリアルの推進制御を、キャリバーンに肩代わりさせる」
オジェロ「ニカみたいにはできねえけど、俺たちだってエアリアル触ってきたんだぜ!」

 

例えば意識を取り戻したスレッタはエアリアルを連れて再びクワイエット・ゼロへ向かおうとする際、議会連合のMSに接近されるが、彼らはけして戦闘しようとしていたわけではなく秘密通信に相当する光無線通信でその意思を伝えた。連合の艦隊司令は周辺にも多大な被害をもたらすレーザー送電システムの使用を快く思っておらず、暗黙の内にベネリットグループとの対話を試みたのである。
また、エアリアルの反応がないのは駆動系が全てやられてしまったのが原因ではないかと考えたスレッタの仲間達は、推進系をキャリバーンに肩代わりさせるプログラムを組んで問題を解決しようとした。仲間内ではガンダムのメンテナンスを一番してきたニカがいない状況ではあったが、彼らは彼らなりにエアリアルとの対話を試みたと言える。
 

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プロスペラ「エリーを思うなら、あなたも進めるでしょ?」
 
対話を、会話を、話をしようとする意思はいつだって小さなものだ。「対話をと言いながらあいつらはそのつもりがない」というような憎悪も世界には満ちているし、交わす言葉が本心とは限らない。エリクトの母プロスペラはその最たるもので、彼女は娘が生きられる世界を作るためそのリプリチャイルドであるスレッタをいいように操ってきた。命令して言うことを聞かせるというより、母を慕うスレッタをその口先三寸でいいように転がしてきた。今回にしても彼女は、自分が実はデータストーム汚染でもうすぐ体が動かなくなるといった事実を織り交ぜつつもスレッタを利用しようとするほどだ。この場面で彼女は仮面を外しているが、素顔をさらしているからといって本心を口にしているわけではない。けれどそれでもなお、そうであってもなお、話が成立しないとも限らない。
 

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エラン(4号)「始めよう、スレッタ・マーキュリー」
 
スレッタは母を失いたくないこと、そしておそらくエリクトも同じことを望んでいるのを理由にプロスペラの指示を拒否し、クワイエット・ゼロへのエアリアルの再接続抜きでエアリアルと対話しようとする。クワイエット・ゼロ内にオルガノイドを格納されていた強化人士4号(エラン・ケレスの一人)の助けも借りて、とうとうスレッタはエリクトと再び話をすることができた。
 

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スレッタはエアリアルは家族同然だといい、スコアが低い状態でもその声なき声を聞き取り時には人生相談をもちかけることもあった。エアリアルと話をしているつもりだった。けれど実際にはエアリアルは自分がエリクトであることやスレッタの正体について黙っていたし、それを明かした時でさえ彼女を思うが故にプロスペラの考えを明かさなかった。前回に至っては半ば姉妹喧嘩の様相を呈していたが、スレッタとエアリアル(エリクト)はもっとも会話できているつもりで実は会話できていない状況にあったと言えるだろう。すなわち今回スレッタの呼びかけにエアリアルの瞳が輝き、再びエリクトが姿を現すのはコミュニケーションの回復だ。スレッタはもっとも身近と思っていた相手とのディスコミュニケーションをようやく解決できたのであり、エアリアルからガンビットを託されたキャリバーンが未知の輝きを放つのはその祝福なのである。
 
 

3.コミュニケーションの入口

対話や会話というのは、当然ながら誰かや何かとするものであって一人では成立しない。それを知れば人は、ディスコミュニケーションもまたコミュニケーションとして使いこなすことができる。
 

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ミオリネ「弊社の資産は先のグラスレー社と同様地球側の企業へ売却、もしくは合併を行う形で合意に至りました」
 
先に触れたように議会連合はベネリットグループの弁明に聞く耳を持とうとしなかったが、これは見ようによっては聞く耳を持たない相手の存在故に成立するコミュニケーションだ。ならば彼らを止めるには、聞く耳を持たない相手の存在すら消してしまえばいい。ベネリットグループ総裁であるミオリネが議会連合に叩きつけたのは、グループの解散と清算手続き……つまり消滅の通告であった。連合がそれでもクワイエット・ゼロの存在を理由に攻撃を強行しようとすれば、今度はこれまでのスコア8以上のパーメットリンクを可能したスレッタがレーザー送電システムをオーバーライドした上、最終的にはクワイエット・ゼロそのものをパーメット粒子に分解してしまう。つまりミオリネとスレッタは議会連合に、攻撃というコミュニケーションを取る相手を失わせてしまったのだ。そしてスレッタにはもうひとり、コミュニケーションを取らなければならない相手がいる。ただ一人のディスコミュニケーションの中にいた愛しい母、プロスペラだ。
 

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プロスペラ「ごめんね、エリー、スレッタ……!」
 
プロスペラはスレッタを始め多くの人を口車に乗せて操ってきた。そういうことができる人を、一般にはコミュニケーション巧者と呼ぶのかもしれない。だがミオリネの頭脳明晰な幼馴染のシャディクが彼女に対して口にできない思いを抱えていたように、コミュニケーションは口数や言葉の巧さでは測れない。エリクトのために自分の本心を隠し振る舞ってきたプロスペラは実際のところ、誰ともディスコミュニケーションの状態にあったと言える。けれどスレッタは、本心を口にしない彼女からそれでもその心の内を見て取る。21年前のヴァナディース事変で夫や恩師、仲間達を殺されたにも関わらず、彼女は復讐ではなくエリーの幸せのために動いてきた。多くの人を巻き込み命すら奪ってきた行動は多くの人に否定されるものだが、自分はその選択を肯定する、と。
誰にも心を開かずにきたプロスペラはそれでもスレッタの言葉から耳を背けようとするが、データストームの中で再会したエリクトにだけはそうできない*1。そう、エリクトというもっとも身近な相手とディスコミュニケーションにあったのはプロスペラも同様であり、だから彼女との対話が成立すればそれを入口に世界と向き合うことができる。コミュニケーションを、取れる。
 

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ミオリネ「さっさと返事しなさいよ、バカ……!」
 
コミュニケーションとディスコミュニケーションの壁が取り払われる中で、クワイエット・ゼロと共に全てのガンダムはパーメット粒子に消えていく。キャリバーンもエアリアルも、エランが乗ったファラクトやジェターク社のガンダムであるシュバルゼッテも。意識を失いその場に一人取り残されたスレッタをどうにか見つけたミオリネの声は宇宙の静寂に一切の音を響かせないが、しかしスレッタの「あ痛……」という言葉と共に二人の間に声は、音は戻ってくる。これはつまり、音にならない部分の声はスレッタには聞こえなかったということだろう。音の回復は、応答の回復はつまりコミュニケーションの回復なのである。
 
 

4.呼びかけと答えと

改めて言うまでもない話だが、コミュニケーションというものは難しい。入念に考えた言葉も相手に正確に届くとは限らないし、それは思わぬ結果を呼ぶことがしばしばだ。エピローグ、スレッタ達の戦いから3年後の世界もまた例外ではない。
 

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シャディク「ありがとう、ミオリネ。……さようなら」
 
例えばスペーシアンによるアーシアンの搾取構造を変えるため策謀に走り捕えられていたシャディクはミオリネの求めに応じ議会連合との関わりを供述していたが、彼はそれに留まらずクワイエット・ゼロ周りの罪まで全て被っていた。「さよなら」と告げている点からすれば、おそらく彼には極刑が課せられるのだろう。シャディクはミオリネの罪を背負ったとも言えるし、生きて果たすべき償いを彼女に上乗せしたとも言える。そこにもまた、言葉通りにいかないコミュニケーションがある。
 

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エラン(5号)「場所くらい書いとけよな……」
 
また顔こそ同じに整形されているものの4号とは全く異なる人となりを見せていた強化人士5号のエランは、かつてほんのわずかの時間心を通わせた少女ノレアのノートに描かれた景色を求めてこの3年探し歩いていた。ノレアとしてはおそらく何の気なしにスケッチしたから場所の名前を書かなかっただけのことが、エランにずいぶんな長旅をさせる結果に繋がってしまった。けれど逆に、その分だけ5号はノレアのことを強く想い続けるだろう。
 

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ミオリネもまた、自身の会社・株式会社ガンダムの社長として働き続けていた。かつてエアリアルはクイン・ハーバーで虐殺が起きるきっかけを作り、エアリアルを地球へ連れて行ったのはミオリネである。プロスペラの陰謀があったにしてもミオリネもまた責任は免れないし、ガンダムへの誤解もまた続いていることが本編の描写からは伺える。それでも彼女は粘り強く、人々と話し合っていくことだろう。スレッタを守るための咄嗟の思いつきから生まれ、しかし結果としてガンダムの基礎であるGUND技術の本来の目的である医療技術を受け継ぐ企業の長として。ベネリットグループの解体で地球に回った資産が結局は宇宙に回収されつつあると語られるように、彼女の採った方法はけして一番正しいやり方だったとは言えないが、それでも彼女はできることを続けていくのだろう。
 

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エリクト「あれは、スレッタにしかできないことだったんだ」
 
20話で描かれたように、正しさや理解には必ず間違いや誤解がつきまとう。スレッタもまた同様で、3年前の戦いは彼女の身体機能の一部に麻痺を起こさせていた。けれど一方で嬉しい誤算もあり、エアリアルと共にパーメットに溶けていくかと思われたエリクトはスレッタによってキーホルダーにその意志を移されていた。これはエリクトにもできなかったことであり、スレッタはけして彼女の劣化コピーではなかった。そしてそれが可能になったのは、スコア8を超えられたのは、スレッタがエリクトとコミュニケーションできたから――呼びかけて、答えることができたからだ。
 

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コミュニケーションとは、呼びかけと答えの両方があって成立するものだ。応答によって時に勢いを増し、時に逆流し、けれどそれが思わぬものを生んでいく。
呼びかけと応答の"二つ"がなければ話は"進まない"。故に、コミュニケーションこそ私達を進ませる最大の原動力なのである。
 
 

感想

というわけで水星の魔女の24話レビューでした。いつもと違って夕飯を後回しにして書き始めたのですがそれでもこの時間、やはり最終回は書くことが多い。他作品より幅広い層へのアピールに成功した本作、それ故に期待と違う展開になったと感じる人も途中からたくさん見かけるようになりましたが、それも包括した最終回だったと言えるのではないかと思います。
 

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これで終わりだよ、とちゃんと書いているのも印象的で、言ってみればここまでが本作の「呼びかけ」。続編要望の声を出すという意味ではなく、私達がどう応答するかで作品とのコミュニケーションが成立する。学んだことも不満点も、全てがきっと私達を進ませる原動力になる。個人的にはゴドイさん達が何を理由にプロスペラに従っていたのかよく分からない。あと最終回でソフィがもう一度見られて本当に嬉しかったです。
 
よくよくまとまった作品でした。スタッフの皆様、本当にお疲れさまでした。

 

<7/9>

本作を私なりに総括した感想を書きました。

dwa.hatenablog.com

 

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*1:ここでようやく、本当の意味でプロスペラの仮面が取れる