鏡の国のかすみ部長――「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」2期10話レビュー&感想

ワンダーあふれる「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」。2期10話では、部長であるかすみの発案で13人のお泊まり会が開かれる。彼女が皆を誘うのは、副題通りの不思議な旅だ。
 
 

ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2期 第10話「かすみん☆ワンダーツアー」

ランジュたちも加わって13人となり、一段とにぎやかになった同好会。しかし、かすみは人数が増えたことで部長としての威厳を示せなくなっているのではないかと気にしていた。みんなに部長として認められるためには、どうしたら——! ひらめいたかすみの提案で、しずくの家でお泊り会をすることになった同好会。ショッピング、スポーツ、ゲーム大会と、13人そろっての初めての活動を楽しんでいた。一方、お泊り会にかこつけて部長としての威厳取り戻したいかすみの計画はことごとく失敗。果たして、かすみん部長化計画は成功するのか…。そして、ランジュも時折浮かない表情を見せていたのだった。
 

1.ちっぽけな悩みは視界を狭める悩み

嵐珠「哎呀、素敵なところね」
 
今回の話は和やかな話だ。2期で新たに登場した嵐珠達3人の悩みは解決し、新たなライブに向けてトラブルが発生するわけでもない。赤レンガ倉庫や鎌倉を観光する同好会の少女たちはいつも笑顔で、見ているだけで視聴者も幸せな気分に浸らせてくれる。……とはいえ、彼女達に悩みが全くないと言えばそれもまた嘘になる。
 
かすみ「この同好会の部長は、この中で一番かわいく人気があって実力があって、とびきりかわいい子ですよ!」
嵐珠「え、嵐珠?」
ミア「なわけないだろう」

 

悩みの1つは同好会1年、中須かすみが抱えているものだ。彼女はスクールアイドル同好会の部長であるがそのことを認知されているとは言い難く、栞子が入部届を渡そうとしたのは生徒会長であるせつ菜や精神的な柱となっている侑であった*1。今回のお泊まり会をかすみが企画したのは、一つにはこれを自分が部長なのだとアピールする機会にしたい思惑があった。
 
嵐珠「はあ、なかなかチャンスがないわ……」
 
もう1つの悩みは新メンバー・鐘嵐珠の抱えているもので、彼女は同好会の皆と一緒に写真を撮りたいことをなかなか言い出せない。他人との関係を築くのが下手な自分をようやく打ち明けられたのが前回であったが、それで人付き合いが突然上手くなるわけもないから当然の悩みではあろう。
 
先に書いたように今回は全体に和やかな話であり、これらが膨れ上がったり衝突するわけではない。かすみや嵐珠の悩みはちっぽけなものに過ぎない、とも言える。しかし一方、ちっぽけであっても悩みに違いはないし、むしろ大きな悩みより厄介な部分もある。それは、ちっぽけであるが故に他人に打ち明けづらいという点だ。
 
かすみ(……と見せかけて、かすみん部長が皆をばっちり引率しリーダーシップを示してやります)
 
例えば、劇中でリーダーシップや勝負強さを示そうとすることから分かるように、かすみの悩みは自分の部長としての威厳の乏しさに由来する。しかし威厳とは基本的に他者を圧倒するところに生まれるものであり、どうすれば威厳が生まれるか?と人に尋ねればその時点で相手に対しては威厳を持てなくなってしまう。
 
嵐珠「ううん、なんでもないわ」
 
また嵐珠の悩みはたった一言が言えないという本当にちっぽけなものだが、そのちっぽけさは誰あろう嵐珠自身が一番分かっている。分かっているからこそ言えないのだ。
人によっては考えたことすら無いかもしれない悩みほど他人に打ち明けるには勇気が必要なもので、そこにはかえって深刻さや頑なさが生まれてしまう。実際、幼なじみの栞子は嵐珠の様子からもっと重大な悩みを抱えているのではと考えていたし、一度はそれを尋ねたが嵐珠ははぐらかしてしまった。
 
かすみ「どうしよう、部長化計画全部ダメだったらかすみん部長じゃいられなくなっちゃいますよー!」
 
ちっぽけな悩みはちっぽけだからこそ、それに悩む人間の思考もちっぽけにする。要するに視野を狭めてしまうのだ。そして視野の問題となればその解決策はもちろん、思考をそのちっぽけさから開放すること――視野を広げる事に他ならない。
 
 

2.鏡の国のかすみ部長

かすみ「そうだ! 3人で一緒に『猫』を探しに行きませんか?」
 
観光の2日目、スマホで特定の場所に設置された『猫』を探すオリエンテーリングでかすみは嵐珠や栞子と行動を共にする。彼女の目的はこのオリエンテーリングで1位を取って皆にすごいと思ってもらうこと――つまり部長としての威厳を示すことにあり、本来それが他人と共有できないのは既に述べた通り。しかし悩みそのものではなくとも、猫を探すという行動については共有することができた。
 
栞子「嵐珠も、自分の気持に素直になってください」
 
また、かすみがうっかり口を滑らせてしまった上述の目的を聞いた嵐珠は彼女の素直さを羨ましがり、栞子はそれを例に嵐珠に素直になるよう促す。かすみの悩みは嵐珠のそれとは縁もゆかりもないが、彼女の素直さは嵐珠や栞子にとって大いに参考や話の導線になるものだった。
 
栞子「嵐珠。まずは私と2人で撮りませんか?」
 
嵐珠の悩みを聞き出した栞子は、それが本当にちっぽけな悩みだったことに驚きと安堵の笑みをこぼしつつ、まずは自分と一緒に写真を撮ることを提案する。同好会の全員と一緒の写真撮影をお願いするのは難しくとも、1人とならいくらかやりやすくなる。悩みを打ち明けた時点で嵐珠は、狭い視野のままでは見えなかったハードルを越えることができていたのだ。
 
 
一緒に写る写真と言えば昔は他の人に撮影をお願いするものだったが、スマホが普及した今はそんな必要はない。インカメラによって嵐珠と栞子は自撮りをしようとするわけだが――そこに映るのは、言うまでもなくスマホの画面を見る彼女達自身だ。つまり彼女達は、スマホを使って鏡を見ている・・・・・・*2。2期1話の嵐珠と侑の関係のように対照的な存在を通して2人は自分を見つめ直していて、しかもそれだけではない。突然の鳴き声に驚いた嵐珠と栞子が後方を確認すれば、そこには探していた『猫』が現れていた。嵐珠と栞子にとって今回の場合、鏡は自分だけでなく普段見えないものを見るツールとして機能したのである。
 
嵐珠・栞子「いたーっ!」
 
鏡は見る者を反射するが、そこには自分だけではなくその後方も映っている。前しか見ることのできない私達は、鏡を使ってより広く世界を見る事ができる。刺客の行動を鏡で察知するなどといった漫画的な話をせずとも、自動車や道路で鏡が大いに役立てられていることを挙げれば例示としては十分だろう。鏡とは自分を見つめ直すだけでなく、視野を広げてくれるものでもあったのだ。
 
侑「昨日も今日も最高に楽しかった! これも全部かすみん部長のおかげだね」
 
自分の部長としての威厳アピールにことごとく失敗し落ち込んでいたかすみもまた、そのための企画全てが同好会の面々を楽しませていたことで称賛を浴びる。嵐珠がようやく勇気を出して願った記念撮影で皆がかすみの後ろに立つのは、彼女が見ていなかった後方に部長としての正当性が積み重ねられていた証明だ。侑達同好会という鏡を通してかすみが得たのもまた、前だけ見ていたこれまでは得られかった広い視野であった。
 
 
観光旅行には、普段の生活では見ることのできないものを見せ、視野を広げてくれる力がある。そういう意味で、今回同好会の面々が目にした鏡は確かに普段の生活では見られないものだろう。前回までの話で既に役割を終えたようにも見えた"鏡"の概念には、まだまだ打ち上げられる花火が残っている。
かすみの企画したお泊まり会とは、同好会を鏡の国へ誘うワンダーツアーだったのである。
 
 

感想

というわけでニジガク、アニガサキの2期10話レビューでした。嵐珠と栞子の自撮りを見て「今回の鍵はこれだ!」と直感したまでは良かったものの、結論や理路の方がなかなか具体的にならず苦労しました。また栞子の八重歯から「これ反転してないのでは? というか自撮りって反転するものなのか?」と混乱しインカメラについて調べる機会となったのも面白いおまけで。こういうのも視野の広がりと言えるかもしれませんね。
 
2期で内容には満足しつつも若干物足りなさを感じていたかすみん成分の補充と、素直になっていく嵐珠のかわいさが非常に心地いい回でした。さてさて、最後に飛び込んできた大ニュースとはいったいなんなんでしょう。
 
追記。せつ菜のベレー帽とても似合ってます。
 
 

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*1:すみません私もかすみんが部長なの忘れてました

*2:スマホのインカメラは機種や設定によっては自動で左右を補正するようだが、嵐珠のほくろからこの画面は反転していると判断できる