変わらないことの価値――「ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN」1話レビュー&感想

f:id:yhaniwa:20201008221122j:plain

©2020 島田フミカネKADOKAWA/第501統合戦闘航空団

映画、スピンオフなど多面的な展開を続け、10年ぶりにTVシリーズ本編として帰ってきた「ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN」。1話の始まりはネウロイ出現の歴史やストライカーユニットの開発、ウィッチ達の空中戦と、TV1期やブレイブウィッチーズを踏襲したものだ。「良く言えばいつも通り、悪く言えば代わり映えしない」――だが、これは単に長期シリーズにありがちな作りというわけではない。「変わらない」ことへの決意表明なのである。

 

 

ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN 1話「アルプスの魔法少女

 

  

芳佳の不変

f:id:yhaniwa:20201008221311j:plain

©2020 島田フミカネKADOKAWA/第501統合戦闘航空団
芳佳がヘルウェティア連邦のローザンヌ医学校へ留学しているのは医学を学ぶためだが、そもそも彼女が医学を志したのは一度魔力を失い治癒魔法が使えなくなってしまったからだった。逆に言えば今は魔力を取り戻しているにも関わらず、芳佳は勉強を続けているのである。変わっていいのに「変わらない」ことを選んでいる。
友人アルテアにその理由を問われ、医学を学べば魔力がなくても人助けができるからと芳佳は答えるわけだが、つまり彼女は何があっても人助けができる自分でいたいのだ。そうできる力を「変えたくない」のだ。アイキャッチで言及されるように多くの人を守ることこそは彼女の望みであり、それが「変わらない」から芳佳は今も学び続けているのである。
 
一方で芳佳は、そのためにずいぶん無茶をしている。親子の対話のための無線使用、不確かな情報で正式にウィッチを動かせない故の単独飛行の申し出、オンボロストライカーユニットのポンプの詰まりの力づくの修理などは全て、不変で通じないはずのものを通じるように「変える」行為であるとも言える。しかしそれは全て人々の平和な暮らしを「守りたいから」=「変えたくないから」だ。彼女の変化は常に、不変の芯があればこそ起きている。
 
 

世界の変化

f:id:yhaniwa:20201008221326j:plain

©2020 島田フミカネKADOKAWA/第501統合戦闘航空団
芳佳の不変と対をなすように描かれるのは異常、すなわち常からの「変化」である。調教済みなのに暴れるシロクマも、意思なき氷山の接近も、常とは異なるもの――異常であり変化であることは変わらない。しかし芳佳は前者を鎮めることには成功しても、後者に対しては今回なにもできない。それは変化の道理が見えないからだ。調教済みのシロクマが暴れるのは何かがそれを苦しめているからと芳佳は洞察してみせたが、水を苦手とするはずのネウロイが氷山に化けているのはこれまでの理屈に合わない。氷山型ネウロイに「シロクマの虫歯」が見えないからこそ、この1話は芳佳の防戦で終わってしまう。本作の芳佳はおそらく、全体を通してこうした理屈に合わない変化と向き合うことになる。
 
 

変化の中で不変であるために

f:id:yhaniwa:20201008221337j:plain

©2020 島田フミカネKADOKAWA/第501統合戦闘航空団
世界は常に変化している。芳佳の憧れだった坂本はもう20歳を過ぎてウィッチではなくなったし、芳佳だってこれまでの時間でたくさんの成長という名の変化を遂げてきた。けれどその変化が受け入れられるのは、あくまで彼女達に不変の芯が通っているからだ。「唯一生き残ることができるのは変化できる者である」などとダーウィンの進化論――と誤解されているもの――を引用して変化を訴える人は後を絶たないが、変わらないものを持たない変化は生存の道ではない。もし坂本が魔力を持ったまま理由もなくウィッチをやめたり、芳佳が突然人助けを望まなくなったら、私達はそのキャラが"死んだ"と感じるであろうように。
 
10年以上シリーズが続く中、本作もまた様々な変化を迎えてきた。製作会社は幾度も変わっているし、多面的に展開されたことでプロジェクトは芳佳達501に留まらず「ワールドウィッチーズ」と化している。けれどその重さで自沈することなくいまだ展開が続いているのは、本シリーズが大事なところまでは変えない不変の芯は守り続けているからであろう。
世界は変わる。人も変わる。けれど芳佳達ストライクウィッチーズは大事なものだけは変えない。だからこそ 、「ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN」 はこれまでと「変わらない」始まりを示してみせるのだ。
 
 

感想

というわけでストパン3期1話レビューでした。やー久しぶりだ、「ストライクウィッチーズ 501部隊発進しますっ!」は視聴の余裕が無かったので、ブレイブウィッチーズ以来4年ぶりのシリーズとの再会。映像作品をちょいちょい摘む程度なので、シリーズをずっと追いかけている方には頭が下がります。
 

f:id:yhaniwa:20201008221426j:plain

©2020 島田フミカネKADOKAWA/第501統合戦闘航空団

ありがとう、おかげでまたバルクホルンお姉ちゃんに会えました。
 
往時は基本的にお姉ちゃんだけを見ていましたが、こうして芳佳を中心に据えて新しく物語を見てみると彼女が主人公であることに納得がいきます。順番的におかしいだろとツッコまれるでしょうけど、ブレイブウィッチーズの主人公である雁淵ひかりと「魂の姉妹」みたいだなと思ってしまったのですよね。頑固でひたむきで、自分の不変の芯を通すためにこそ変化を厭わない。彼女とも再会できるかな?などとも期待しつつ、この新シリーズを楽しみに見ていきたいと思います。