ありふれた魔法――「魔女の旅々」3話レビュー&感想

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
旅のさなか美しい花畑を見つけたイレイナは、そこにいた女性から花畑の花を少し持っていってほしいと頼まれる。宣伝と解釈したイレイナは喜んで引き受けるのだが……
 
「魔女の旅々」3話は、森を飛んでいたイレイナがその先の花畑に目を奪われる場面から始まる。狭く陰鬱な森の中を飛んでいたためにいっそう花畑の美しさに魅入られたわけだが、嫌なことや不運で気分が沈んでいた時にちょっとした優しさや美しさに救われた経験のある人は多いだろう。そう、優しさや美しさには魔力がある。そして、魔力は人を幸せにするとは限らない。
 
 
 

 魔女の旅々 第3話「花のように可憐な彼女/瓶詰めの幸せ」

 

1.無力な魔女イレイナ

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
3話で際立つのは、イレイナが極めて無力なことだ。魔女である彼女は空を飛び局所的に時間を逆行させることもできるが、それは今回の2つの出来事にほとんど何も寄与しない。魔力を持った花に自分が狂わされることはなくとも運び手にはなってしまうし、割れた瓶を直すことはできても出された食事を減らしたりニノを奴隷の境遇から解放してやったりはできない。
もっとも象徴的なのは、村長がイレイナの美貌を全く評価しないことだろう。美しさにも魔力がある話で美しさを評価されないのであれば、今回イレイナは「魔法」を使うことはほとんどできないのである。
 
 

2.ありふれた魔法、ありふれた悲劇

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© 白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会
イレイナが魔法をほとんど使えずとも、世界には"魔力"があふれている。花畑から人間(だったもの)が多数出てくるのは花の美しさに愛する誰かの美しさを見た人間が大勢いた証であるし、ニノが遠い東の国から連れてこられたのは美しさが運命を歪めたものだが、その美しさはけして眼を見張るような特別なものではない。イレイナがかつて読んだ本を説教臭い(特別な価値を持たない)と評したように、こんな悲劇はありふれていていて魔女の存在を必要としないのである。そう、この話は空を飛んだり時間を戻したりするような特別なものがなければ成立しない話ではない。
 
私達の世界にはもちろん、イレイナのような魔女はいない。しかし私達の世界にももちろん優しさや美しさはあふれていて、そして私達はその"魔力"に影響されて日々を過ごしている。ならばこれは遠い国の話ではない。
誰かのためを思ってしたのにかえって傷つけてしまうことも、何かに魅了されて身を滅ぼすことも、私達のすぐそばで起きることなのだ。
 
 

感想

というわけで魔女の旅々の3話レビューでした。1,2話とはまた少しテイストの違う話なので解釈に戸惑いましたが、花畑を見たあの瞬間イレイナは魔法にかけられていたのだと捉えることでどうにか書くことができました。ニノに欲情する村長がイレイナに欲情しないの、正直よく分からんですけどね。原作だと容姿の違いがもっとはっきり言及されてるのかしらん。
 
3話まで見てきましたが、どうやら魔力によらない魔法(世知、嘘、優しさ、美しさ……)は毎回重要な要素になりそうですね。これを念頭に置くことでこれからのレビューの助けになる、かも。はてさて、次回はどんな出会いと別れが待ち受けているのでしょう。