わたしを表現する方法――「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」6話レビュー&感想

同好会の1人1人にスポットを当てて行く「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」、6話の主役は天王寺璃奈。表情の変化に乏しい彼女はPVも自分の描いたキャラを前面に出したもので、いわくそれはキャラに頼ってしまっていて「ほんとの私じゃない」。
自分の本質に悩むのは愛を始め他のメンバーでも描かれてきたことで、この6話もまた璃奈だけのしかし普遍の壁にぶつかるお話だ。
 
 

 ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 第6話「笑顔のカタチ(⸝⸝>▿<⸝⸝)」

 

1.パフォーマンスの不安は表情の不安

天王寺璃奈は無表情だが無感情ではない。喜びも悲しみも怖がりもするし、他人との繋がりも強く求めている。けれどそれが伝わりにくいのはひとえに表情の変化に乏しいからで、彼女は思っていることと思われることが極度に異なってしまっていることに悩んでいる。全く伝わらない、という事態は乏しい表情からも感情を読み取ってくれる宮下愛との出会いがきっかけで解決したが、彼女はもっと多くの人と繋がりたいと思っている。璃奈がスクールアイドルをやりたいと思ったのは、自分の思っていることと思われることのギャップをより多くの人と解消したいと思えた証なのだろう。
 
璃奈の試みは概ね上手く行っており、映像製作も得意な彼女のPVは歩夢や愛同様に好評を受ける。PVはWeb上にアップされるものだが反応はWebだけとは限らず、璃奈にもまた現実の声援が寄せられている。それに応えたいと彼女はライブの開催を決めるわけだが――しかしライブの場合、主役はどうあっても生身の璃奈自身になる。パフォーマンスに自信が無いのは彼女が自分の表情の変化に自信がないことと同根の問題であり、だからライブこそが彼女にとって大きな課題となるのだ。
 
 

2.変え難い本質への絶望

ライブの開催を決めた璃奈は、苦手も厭わず練習に励む。毎日続けてきた柔軟で体も柔らかくなり、MCにも挑戦し、しずくの指導のもと発声練習に励むその姿は健気――を通り越してほとんど献身的・・・なほど(つまり自分を後回しにしていると言えるほど)だ。
先に述べたようにパフォーマンスの不得手は表情の変化の乏しさと同根であり、璃奈はそれを克服して思っていることと思われることのギャップを解消しようとしている。そのために、自分のやり方を相手に合わせられるだけ合わせようとしているのだ。
 
しかし相手に合わせようと努力できることは、相手に合わせられることと同義ではない。練習の応援に来てくれたクラスメイトに友達になってほしいと伝えようとして、彼女は自分の表情が変わらず無表情なことに気付く。その無表情さはいくら自分の肉を削っても残る骨のようなもの、(少なくとも今は)変わりようのない自分の本質だと璃奈は気付いてしまう。だから彼女は絶望してしまうのだ。
 
 

3.その本質は孤独なものじゃない

一番変えたかった無表情さこそが自分の本質で変えようがない。それが間違いの無い事実だから璃奈はもう駄目だと思ってしまうのだが、彼女は重要なことを見落としている。彼女は無表情だが無感情ではないのだ。表情で表現する(パフォーマンスする)ことはできなくとも、表現するものが無いわけではないのだ。事実、彼女は励ましに来てくれた皆を受け入れる意思を言葉ではなくドアの遠隔操作で表現している。
 
「駄目なところも武器に変えるのが、一人前のアイドルだよ」
 
かすみのこのアドバイスは正鵠を射るもので、璃奈の悩みとそれへの対応策は実はありふれたものだ。例えば果林は璃奈が来ないことにクールな対応=感情を交えない対応を装うが、それは彼女がスネてしまったからであることをエマは見逃さないし、バレればそれはむしろあざといほどのかわいさの表現になる。無表情のまま、感情を表す方法はあるのだ。
 
だから璃奈のパフォーマンスへの不安は――無表情への不安は、無表情でなくなることでなくむしろ無表情を活かすことで解決される。冒頭で訪れたVRゲームアトラクションでも明らかなように、彼女は表情が隠れていた方がむしろ感情の豊かさが顕になる。無機質なはずの仮面、璃奈ちゃんボードを付けることは、彼女が「無表情だが無感情ではない」人間だと伝える最高の表現――パフォーマンスとなった。
 
伝える悩みは万人共通で、しかし伝える方法は一つではない。そして、伝えられる喜びは誰にとってもかけがえのないものなのである。
 
 

感想

というわけでニジガクの6話レビューでした。天王寺璃奈という女の子が、スクールアイドルがとても大切にされた話だったと思います。これでパッと笑えるようになっていたら、それは嬉しい話ではあるけどきっと彼女は凡百のアイドルになっていたことでしょう。少なくとも今の彼女にとっては、表情の変わらない自分を受け入れることが自分を大切にすることになる。基底にあるテーマこそ共通ながら1人1人違うお話が描かれていくのは本作の大きな魅力ですね。
 
さて、次回は睡眠大好きこれまた個性的な近江彼方の主役回。何が見えてくるのか楽しみです。