イレイナが毎回様々な国を訪れる「魔女の旅々」だが、10話で旅をするのは彼女の師であるフラン、サヤの師であるシーラの2人だ。2人は連れ立って旅に出るにあたってそれが休暇であることを――日頃の立場から離れたものであることを強調する。2人にとっても旅は特別なものなのだ。今回は本作における重要な要素である「旅」とは何かを1つ定義づけるお話である。
魔女の旅々 第10話「二人の師匠」
揃って休暇をとり旅行に出かけるフランとシーラ。
フランは師匠がもうひとり弟子をとりたいといった日のこと、
そして犬猿の仲だったシーラと過ごした弟子時代に想いを馳せる。
それは、魔法統括協会からのある高額報酬依頼……。
(公式サイトあらすじより)
目次
1.時間旅行は今回も
イレイナやサヤの師として一世代上に位置づけられてきたフランとシーラだが、この10話では彼女達が共に魔女ヴィクトリカの下で学んだ姉妹弟子であることが明かされる。かたや魔法学校の教師、かたや魔法統括協会のエージェントとなった2人には日頃の接点はまるで無いことだろう。2人で、2人だけで連れ立って旅に出る時だけ彼女達は弟子だった時代に思いを馳せ語らうことを許される。前回イレイナは時間遡行を旅になぞらえたが、フランとシーラにとっても精神を過去に遡らせてくれるのがこの年に1度の2人旅なのだ。
そして思い返される日々の中でも、2人は師匠であるヴィクトリカと共にこれまた「旅」をしていた。ならば当然、思い出の旅の中でもフランとシーラは時を遡ることになる。
2.遡る旅が見せてくれるのは
姉妹弟子時代のフランとシーラの関係は険悪そのものだった。一人称の時点で上品な優等生のフランと、改造車両のようなホウキを操り初対面から悪態をついてくるシーラが馬が合うわけがなく、ことあるごとに対立していた。自由の街クローツを荒らし回る強盗団・骨董堂の退治依頼を師匠から任されようが互いに足を引っ張り合ってしまうのも当然と言えば当然だろう。
しかし2人の対立はけして陰湿なものではなかったし、頻発する口喧嘩も右か左かという程度の内容でしかない。馬が合わないようでその実、2人は根っこのところではむしろ似通っていたのだ。それは2人がどちらも敵にわざと捕まって一網打尽にしようという無茶なことを考えたことからも言える。
だから骨董堂を退治する戦いで2人は息の合った戦いを見せるし、休憩しながら話した2人が魔女を目指した理由はどちらも打算的でよく似ていた。自分が魔女を目指した理由を相手に語ることは、相手に自分の時間を遡らせること だ。つまり「旅」をさせることだ。そうして時を旅した2人が知ったのは、全く異なる自分と相手のオリジンがむしろ共通の、1つのものであったことだった。
2人のそうした気付きと共に、「現代に時を遡った」10話もまた1点のオリジンへと戻っていく。仕事でサヤが向かったのはかつて自由の街クローツ、彼女が持たされたのが骨董堂絡みの危険な品であると気付いてシーラ達は道をUターンする(さかのぼる)。更にはまた、時を同じくしてイレイナもニケの冒険譚の聖地たるクローツへ到着しようとしていた。
イレイナが旅を志したのはニケの冒険譚が大好きだったからであり、そこに書かれていた国が今どうなっているかを知るのは彼女の大きな楽しみの1つだった。そして映像の上では既に明らかだがニケのモデルはイレイナの母であり、イレイナが旅をすることは自分のオリジンに近づいていくことになる。
本作における旅とは、イレイナにとっての旅とは、時を遡る旅なのだ。
感想
というわけで魔女の旅々の10話レビューでした。「今回も時間旅行」「原点に戻る」といったワードは割と早々に浮かんだのですがなかなか決め手にならず、「本作とイレイナにとって旅とは何か」という枠組みを思いついてようやく書くことができました。それにしても骨董堂のおかしら、妙に存在感のあるキャラクターだったな。クレジット表記が「八重歯」て。
次回は事実上続き物の話ということで、全体における意味付けも大きい内容になりそうです。