遥かな焦点距離――「SK∞ エスケーエイト」1話レビュー&感想

f:id:yhaniwa:20210110232711j:plain

©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
車輪の付いた板一枚に体を預け、滑り跳ねるスポーツ、スケボー。負傷と隣り合わせのそのスリリングさは、アニメ「SK∞ エスケーエイト」では一層視覚的だ。山を一気に滑り降りるスピード感、攻撃・妨害上等のバーリトゥードぶり、必ず何かを賭けなければならない退路の無さ。そういう世界では、安全に見えるものが危険でない保証はどこにもない。例えば1話冒頭、主人公の歴(れき)は対戦相手のシャドウに肉薄するもそれは罠で、彼の投擲した爆竹にあっけなくクラッシュさせられてしまう。肉薄したはずの勝利が本当は近くにはない、今回はそういう距離の話、ピントのお話だ。
 
 

SK∞ エスケーエイト 第1話「熱い夜に雪が降る」

 
 
カナダから転校してきたランガは、スケートボードが大好きな高校生・暦と出会う。暦は、閉鎖された鉱山で行われる危険な極秘レース“S”にハマっているらしい。バイト先を探していたランガは、手伝いとして暦と一緒に“S”の会場に向かうことに。そこで暦に怪我をさせた仇敵でもあるシャドウが暦を挑発し、スケート未経験のランガも巻き込まれて……?!
 
 
 

1.ピンぼけとピンぼけの出会い

f:id:yhaniwa:20210110232725j:plain

©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
歴ともう1人の主人公、転校生のランガは今回多くの時間を一緒に過ごすが、その近さは意気投合といったものではない。スケボーや極秘レース「S」についてなど歴はノリノリで話してもランガは乗り気にならず、彼が関心を示すのはバイト代や日本の弁当などの方だ。2人のコミュニケーションはいつもピントが合っていない。つまり焦点「距離」が合っていない。級友とスケボーの楽しみを共有できない歴も、自己紹介もちゃんとできないランガも、どちらもズレている。
 
ピントが合わなければどんな熱意も努力も空回りし、花開くことはない。冒頭で歴が敗北したのも、勝機と罠のピントを合わせられなかったからだった。勝機は夢であり、罠は現実だ。「大丈夫って言う時に大丈夫だったことがない」とバイト先のスケボーショップの店長から歴が受ける指摘はつまり、夢と現実のピンぼけの指摘なのである。
 
 

2.それは本当にピンぼけなのか

f:id:yhaniwa:20210110232744j:plain

©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
先の段で触れたように歴のピンぼけは著しく、故に彼はドジだ。極めつけとして問題化するのが客に届けるスケートボードの取り違えで、歴は負傷した身でシャドウとの再レースを余儀なくされてしまう。再び敗北し左腕を再起不能にされるのは火を見るより明らかだったが――それを救ったのは、未経験者にも関わらず自分が滑るというランガの、これまたピンぼけであった。
取り違えは歴のピンぼけで起きたものだが、ランガにしてもそのピンぼけぶりは相当なものだ。ガムテープで足をスケボーに固定して転んだ時の怪我のリスクを高めるし、始動の仕方が分かっていないからスタートで出遅れ手で漕ぐという素人丸出しの滑り出し。あまりのピンぼけぶりに、スケボー猛者揃いの観客は爆笑せずにはいられない。しかしその後に彼らが見たのは絶技と言って差し支えない、先をゆくシャドウを無視してまで見ずにはいられないランガの滑りだった。
 
ランガはけして短期間でピントを合わせられるようになったわけではない。ターンをしくじり「タイヤがついてるんだった」と驚く彼の滑りはどこまでもスケボーの常道から外れて、ピントがズレたままだ。にも関わらずシャドウに追いすがる彼の正体を、有名スケーターのチェリーだけは看破してみせる。ランガはスケボーは確かに素人だが、スノボについては熟達者だったのだ。
 

f:id:yhaniwa:20210110232758j:plain

©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
チェリー「お前たちが滑っていたのを見ていたが、彼の体重のかけ方、スタンスの姿勢、そしてあの位置で足を固定したこと……おそらく奴は、スノーボードの経験者だ!」
 
歴達にはピンぼけとしか思えなかった足の固定も特異な滑りも、全てはスノボの感覚にスケボーを近づけるためのものだった。
 

f:id:yhaniwa:20210110232811j:plain

©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
歴「その時、俺は確かに見たんだ。この沖縄に舞う、白い雪を!」
 
世の中には夢想としか思えないことを、人から笑われるような途方もないことを考える者がいる。多くの人にとってみればそういう考えは、世界からピントのズレた愚か者の発想に過ぎない。けれどそれは本当にピンぼけなのだろうか? もっと大きなスケールで見た時、それは私達の理解よりもっと遠くへピントが合っているのではないか?
歴はシャドウの爆竹を物ともせず舞うランガの姿に雪を見た。沖縄に舞う白い雪などとはもちろん錯覚、あるいは詩的な表現に過ぎない。しかし彼が見たのはもっと遠く、遥かな先にあるものの可能性だ。本作はきっと、12話かけてそこへと焦点を合わせる物語なのである。
 
 

感想

というわけで「SK∞ エスケーエイト」1話の考察・レビューでした。やー面白い!初視聴では「近くは遠い、遠いは近い」というテーマが浮かんだのですがなかなかしっくり来ず、数回視聴することでそれが歴やランガから見た「ピント」として昇華できるのではないかと考えました。そうやって考えると、歴が最後に見たものにもピントが合ってとても美しく感じられます。
 
1話ではまだ顔見せ背中見せに過ぎないようなキャラもかなり濃そう、ピント合わせは歴とランガの関係にも当てはめられそう、アニメでは難しかろう題材の興味深さ。とても刺激的な1クールが楽しめるんじゃないかと期待の高まる1話でした。ランガの母親役で園崎未恵さんの声が聞けるのも嬉しいなあ。