「対等」に見る長瀬小糸への疑念――「ワンダーエッグ・プライオリティ」2話レビュー&感想

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死んだ友達を蘇らせるため摩訶不思議へ飛び込む「ワンダーエッグ・プライオリティ」。2話の副題は「友達の条件」……同じ境遇の少女ねいると出会ったアイは彼女と友達になろうとするも断られてしまう。つまり、条件を満たせない。友達の条件とは、一体なんだろう?
 
 
 

ワンダーエッグ・プライオリティ 第2話「友達の条件」

 
アカと裏アカの声に導かれ訪れた地下の庭園で、エッグを大量に購入する少女・青沼ねいると出会ったアイ。
同じ境遇の相手に興味津々のアイだったが、ねいるからは関わりを避けられてしまう。
また独りエッグの世界に挑むアイ。次のエッグの中から現れたのは、レオタード姿の鈴原南という少女だった。
戦いに挑むアイに、アカと裏アカは「ワンダーキラーを倒せ」と告げる。

 

 
 
 

1.不均衡な関係は不健康な関係

この2話にはサラリと流される、しかしとても異様な場面がある。帰宅したアイに担任の沢木と母が怪我の理由を尋ねる、その時の様子だ。
 

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ソファにアイだけが座り、沢木と母は正座している。まるで祟り神かなにかでも祀るような2人の接し方は、丁寧で親身であっても過剰にへりくだっている。アイと2人の関係が不均衡で不健全な状態にあることは、このカットだけで明白だ。 
不均衡な関係とはつまり一方的な関係であり、片方に尊厳が無い関係だ。そして片方に尊厳の無い関係は、支配や利用ではなくこのような献身でも発生する。尊厳は他人に認められるものであると同時に、自立も合わさって初めて成立するものだからだ。
 
人と人の対等な関係が皆そうであるなら、友達もまた然り。ねいるの興味を引こうとアイはあの手この手で話しかけるが、後ろから追いかけるばかりで正面から見ようとはしない。そこにはどこか、媚びの気配が漂っている。(自分とは違うスタイルの良さやエッグを大量に回す手際に対する遠慮ゆえでもあろうが)だからアイの言葉はねいるに届くことはなかったのだ。
 
 

2.不均衡な関係は破綻する

アイの友達作りの下手さは、今回のゲストである鈴原南への接し方にも現れている。アイは当初エッグを割ろうともしなかったし、アクシデントで割れた後は話を後回しにしてまず逃げさせようとした。小糸を蘇らせるためのミッションに過ぎず相手は最後に消えるとは言え、その効率的なやり方には相手も人間であることへの理解と敬意が欠けている。南がアイの思う通りに動いてくれず慌てる羽目になるのは、当然の帰結だろう。
 

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アイ「大丈夫? わたしは大戸アイ」
南「……鈴原南です」
アイ「安心して。小糸ちゃんを救うために、あなたのことを守る」

 

 
人心地ついた屋上で、アイは初めて南を正面から見る。名前を知る。それは相手も人間と知るための第一歩だが、相手を「対等な」人間として扱うにはまだ足りない。南の視線は落ちたままだ。アイが口にする"守る"という言葉は、美しいが一方的な関係にたどりつきやすい危険な代物だ。
その傲慢を、アイは直後に身を持って知ることになる。チャイムが鳴るまでエッグから現れた少女を逃がすだけでなく、そのトラウマ対象である"ワンダーキラー"を倒さなければ小糸は蘇らせられない。今回のワンダーキラーである新体操部顧問に立ち向かったアイに待っていたのは惨めな敗北と、南がワンダーキラーの言うことを聞いてついていったからこそ殺されずに済んだ――守るどころか守られてしまった、一方的な関係であった。
 
 

3.対等だから結べる手と、だから感じる悔しさ

人と人の対等な関係は、一方的なものでは成立しない。救われたなら、救い返してそれはチャラになる。南に救われたアイはだから救い返しに行くが、それは果たしてワンダーキラーをアイが倒せば叶うことだろうか?否。顧問のしごきに耐えきれず死を選んだのであろう南の心は、そんな結果になっても未だに「自分が悪いんだ」という呪縛に囚われている。そこからの解放こそは、南にとって本当の救いのはずだ。
 
「自分が悪い」と責め続ける南をアイは「構ってちゃん」だと、そしてだからこそ放っておかないと宣言する。全てを己のせいとしてしまうことはとても簡単で、逆に相手に媚びることだ。アイが母や担任に心を開けないように、そこには顧問との対等な関係など生まれようも無かった。
けれど全て己のせいにすることを否定し、同時にそれでも自分を放っておかないアイに、南もそれまでのままではいられない。絶対服従だった顧問に自分は言うことを聞くからアイは見逃してほしいとすがるのは変化の第一歩であり、そしてそれだけではまだ足りない。アイも南をくるみと同じように認めたからこそ彼女のリボンを手にとって武器に変えるが、それでもまだ足りない。
 

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顧問の放った粘液にアイが視界を奪われても勝てたのは、彼女だけの力ではない。南が声で敵の場所を教えてくれたから、体を張って引きつけてくれたからだ。この場合、アイも南も自分が相手を守ったとは言えないだろう。どちらがと言うなら、どちらもがどちらをも守ったのだ。対等に守りあったのだ。
戦いが終わった後に残されたのは対等な相手との結び合う手と――だからこそ感じるようになった、本当には南を救えないことへの悔しさであった。
 
 

4.友達の条件とは

南とのひとときによって対等な接し方を知ったアイは直後、もう一つの対等を知る。怪我の治療で病院を訪れた彼女が見たのは、自分よりもっと酷い怪我を負って手術室へ搬送されるねいるであった。
 
最初に接した時に遠慮してしまったように、ねいる自身が言ったように、アイはねいるを自分とは違う存在だと、不均衡な存在だと認識していた。自分と違って自分が大好きで、自分と違って一度に大量のエッグを守れる孤高のつわもの。けれどそんなことは無かった。彼女もまた、ヘマをして死にかける自分と同じ存在に過ぎなかった。
返り討ちに会ったようなねいるの有様を揶揄する裏アカにアイが激昂するのは、アイがねいるを自分と違う存在とは思わなくなったからだ。そしてそこで知ったのは、ねいるがエッグをたくさん守ろうとしたのは強さではなく、彼女もまた一人の弱い人間に過ぎないということだった。不均衡の魔法はことここに至って、跡形もなく解ける。
 

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媚びるのでもなく見下ろすのでもなく、アイは再びねいるに接する。友達になろうと言う。なって何をしようと言うかと思えば、ただファーストフード店で一緒に食べて話すだけ。そこには何の利害関係も、見返りもない。気兼ねなく一緒にいる関係そのものにこそ無上の価値があると、アイもねいるも知る。
この2話が示す友達の条件。それはきっとそういう、対等な関係であることなのだ。
 
 

5.長瀬小糸は「友達」だったのか?

ここまで本稿では、不均衡と対等をキーワードに2話の、「友達」の読み解きを試みてきた。ならば当然、見て見ぬ振りのできないものがある。アイが命をかけて救いたい「友達」、長瀬小糸だ。
アイにとって小糸は、学校で孤立していた自分を拒むことなく受け入れてくれた初めての存在であった。アイは小糸に救われたのだ。だからアイは小糸を救い返そうとしている。紛うことなき「友達」そのもの――本当にそうだろうか?
 
小糸に頼まれたいじめの撮影を、アイは恐ろしさから上手く撮影することができなかった。それを謝るアイの声にあるのは、謝罪という以上に媚びの音色だ。私達はそれと同じものを、ほんの少し前に見ている。そう、顧問に謝り続ける南である。
 

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アイ「ごめんね・・・・。わたし仲間外れが怖くて……」
(中略)
アイ「ごめんなさい」
小糸「大丈夫。頑張ってくれたって、分かるから」
アイ「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」

 

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南「違うの!私が駄目な子だから……」
顧問「そうだ。お前の気合が足りないからだ」
南「すみません、もっと頑張ります!」
アイ「何言ってるの、それが辛くて耐えられなかったんでしょ!?」
南「わたし根性無くて、だから先生は私のためにって……」

 

この時アイにも南にも表情はない。意思の光はない。
支配という不均衡はしばしば、救い主の形をとって現れる。一方的に救う関係もまた、不均衡なものだからだ。虐げれば虐げるほど見捨てられたくないと媚びてくるよう"教育"された人間にとって、支配者と救い主は区別がつかない。
 
アイが撮影を頼まれたいじめの場面とは、「誰が誰を」いじめる場面だったのだろう?
もともと孤立していたはずのアイが恐れる「仲間外れ」とは、一体誰から仲間外れにされることだったのだろう?
 
私は今、とても嫌な想像をしている。アイが撮影できなかったのは小糸がいじめられる場面ではなく、彼女が誰かをいじめる場面だったのではないか? 長瀬小糸は親友という救い主の皮を被った支配者であり、アイは体よく利用されたのではないか?
 
今後のこの物語を、私は注意深く見ていきたい。思い過ごしなら恥をかけばいいだけだが、この胸に生まれた疑念に「見て見ぬ振り」をするわけにはいかないのだから。
 
 

感想

というわけでワンエグの2話レビューでした。恐ろしいものを見た。蜃気楼かもしれないが、見てしまった。今はそうとしか言えません。