∞はXの先――「SK∞ エスケーエイト」3話レビュー&感想

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
北の国から来た少年とのいくつもの交差が生まれていく「SK∞ エスケーエイト」。日本代表候補の知念実也に勝負を挑まれたランガは、シャドウに勝った時のヒリヒリした感覚をまた味わえることを期待してそれを受ける。交差する瞬間の眩しさを描いたのが2話なら、3話は交差の先に必要なものを描いたお話だ。
 
 

SK∞ エスケーエイト 第3話「望まない勇者」

 
めきめきと上達するランガに、中学一年生にして日本代表候補のMIYAがビーフを挑んでくる。暦の心配をよそにビーフを受けてしまうランガ。ハイレベルなスケーターのMIYAの実力に圧倒される2人。ランガのために練習に付き合う暦があることに気付く。そして迎えたMIYAとのビーフ。暦がランガに託したものとは……?!
 
 

1.Xの交差は一度で終わり

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
今回ランガと競う少年・MIYAこと知念実也はスケボー日本代表候補にも選ばれる天才少年であり、本人も周囲も一般人とはレベルが違うことを強調する。それはけしてこけおどしではなく、歴が転倒する難トリックを軽々とこなす様からも実力は明らかだが――自分に劣る者をスライムと呼ぶその姿には、交わり(交差)がない。
 
人間は社会性を持つ生き物であり、ゆえにその暮らしの中には無数の交わりが存在する。喪失が人生を変えるような重大なものもあれば、さもしい動機が生む一瞬のものもある。例えばマスコミの実也への注目ぶりに嫉妬した他の候補者の嫌がらせにしても、交わりには変わりない。彼らは実也を目がけ、Xの字に交差するようにボードを放って妨害する。
 
だが、Xは一度交差したらそれで関係は終わりだ。もう二度と交わることはない。後に描かれるように、実也にもかつては仲間がいた。スケボーを通じた無数の交差があった。しかし彼が実績を上げれば上げるほど周囲は距離を感じ、交わりを避けるようになった。Xを繰り返すことなく分かれてしまったのだ。だから実也自身もまた、交わりを避けている。彼がそれを「群れる」と呼んで嫌うのは、交わった後の別れが辛いことを知ればこそなのだろう。
 
 

2.∞の交差は繰り返す度に勢いを増す

世界には確かに、Xの交わりが満ちあふれている。親しい友人も仲睦まじい夫婦もその交差がずっと続くとは限らない。実也の諦観は厭世的だが現実的でもある。しかし世界にあるのは果たして、Xの交わりだけだろうか?
 

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
実也の過去ほど重大ではないにしても、今回の歴とランガの会話で見られるように人と人の関係には行き違いが、つまり交わりの途切れがいくつもある。ランガが呆れるダサさ全開の歴のネーミングセンス、歴の話を聞かないランガのぼんやりぶり……気心の知れた友人であっても、いつも交差するとは限らない。これはランガの滑りにしても同様で、彼のスノボ経験はスケボーでも大きな財産となっている一方で足を引っ張ることもある。スノボでは前でも横でも摩擦は一緒だが、車輪のついたスケボーでは横に滑ろうとするとブレーキがかかる感覚にランガはどうも慣れない。この時、スケボーとスノボの交差は途切れているのである。
 
交差はどこまでいっても一瞬のもので、永遠に続きはしない。これは避けようのない事実だ。だが、なら別れた交差はそれで終わりなのだろうか?違う。父の死によってスノボへの滑る楽しみを見失ったランガは、同じものをスケボーに再び見た。全てが全て同じでなくとも、再び交わる方法はある。
 
例えば駐車場でこっそり練習していたところを警備員に追われた歴とランガが、一度は二手に分かれて逃げるもバイト先であるDOPE SKETCHで合流するように。
例えば歴がランガのボードを、進行方向に合わせて回転するよう改造してスノボの感覚に近付けたように。
 
一度分かれた交差はもう一度交わることができる。Xではなく∞を描いたなら、交差は繰り返すことができる。そしてその"無限大"は、交差を単なる繰り返しにしない。
レース最終盤、実也によって進路を塞がれたことでランガは前回のようなアウトコースを用いたショートカットを封じられてしまう。以前と同じ交差を繰り返すだけなら、彼はもう勝てなかったはずだ。しかし歴によって改造されたボードとランガのテクニックの再交差は、途切れた手すりの上を滑ることすら可能にし勝利をもたらした。もう一度交差したから、以前ならできなかったことができたのだ。
 

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
Xの交差は一度きりの繰り返しだが、無限大の交差は繰り返す度に強くなる。今回の勝負を通して実也が知ったのはきっと、そういうことなのだ。そしてランガの味わったヒリヒリした感覚もまた、今後更に強く激しいものになるだろう。
ただそのためには、交差の終わりの繰り返しもまた欠かせない。互いが互いを利用するXの交差は終わりとばかりに実也を突き放した伝説のスケートボーダー、愛抱夢は果たしてどんな試練をもたらすのだろうか?
 
 

感想

というわけでエスケーエイトの3話レビューでした。本作、タイトルネーミングと「スケートは無限」のセリフがとんでもなく秀逸!テーマに絡めて考えるのがとても面白かったです。交差を一度見失ったという意味では実也もランガと同じで、このあたりは他のキャラからも今後見えてくるのかな。
3話でこれだから、終わりにはどんなものが見えてくるのか非常に楽しみです。