痕跡の怪談――「のんのんびより のんすとっぷ」6話レビュー&感想

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
ゆっくりだが確かに時の流れる「のんのんびより のんすとっぷ」。れんちょんはキャンプの日をすっかり忘れてしまっていたが、楽しみにしていた痕跡はカレンダーに残っていた。この6話は、消えない痕跡を巡るお話だ。
 
 

のんのんびより のんすとっぷ 第6話「みんなでキャンプに行った」

夏休み終盤、宮内れんげは旭丘分校の皆と一緒にキャンプにやってきました。
早速テントを張り終わり、ボール遊びや釣りなど、思い思いに楽しむ一同。
夕方になりバーベキューの準備が整いました。肉や野菜の美味しさについ食べ過ぎてしまった子供たちですが、引率の教師でもある宮内一穂は、お酒を飲みすぎて酔い潰れてしまいます。
夜も更け、カブトムシの蜜を塗りに行く事になったれんげと越谷夏海ですが…。

 

 
 

1.痕跡は消えない

人は忘れっぽい生き物だ。れんちょんはカレンダーに花丸をつけるほど楽しみにしていたのにキャンプのことを忘れていたし、テントを張る手伝いをするはずだったのにペグの形状を見れば戦いの真似事を始めようとしてしまう。
けれどカレンダーに花丸が残っていたように、痕跡は簡単には消えない。昼から既に飲み始めていた一穂はその痕跡と夕飯分の飲酒で酔い潰れてしまうし、目が覚めても酔いが残っていて呂律も回らない。結果、黒蜜を塗りに行くのが深夜になったことや一穂がまずれんちょんの足を掴んだこと、枝に引っかかったからと髪留めを解いたことなど些細な痕跡の積み重ねによって一穂は幽霊と見間違えられてしまう。
 
 

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
この図式でもっとも目配りが上手いのはもちろん前半のオチで、小鞠は当初おばけと聞いた瞬間に慄いたにも関わらずそれをごまかそうとした。忘れようと、無かったことにしようとしたわけだが――相手が一穂だという認識の痕跡に支配されていたことで、「一穂がおばけと見紛う状態になっている」ことは想像できずその姿を直視することになってしまった。結果小鞠は、気絶という一番激しい形で自分の怖がりを晒すことになってしまったのだ。
 
 

2.痕跡の不思議な性質

痕跡が消えないことが問題になるのは後半も同様で、そちらではひかげと夏海の夏休みの宿題が問題となる。夏休みの宿題とは痕跡だ。「勉強もしました」という痕跡だ。逆に言えば、それが手つかずで残っているのは(特段の事情がなければ)勉強していなかった痕跡である。
 

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©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
2人が宿題をボイコットしようとするのは自分に都合の悪い痕跡を消そうとする行為であり、しかし前半同様に痕跡は消えてくれない。そして先に述べたように宿題を残すことは勉強していなかった痕跡であり、目をそらせばそらすほどその痕跡は強く大きくなってしまう。すったもんだで宿題にこぼれるジュースは、痕跡がもはや手に負えないほど大きくなった象徴だ。夏海達は結局、その巨大化した痕跡に抗うことはできなかった。
 
痕跡は消えない。そして、消そうとすればかえって大きくなるものなのである。
 
 

感想

というわけでのんのんびより3期の6話レビューでした。アバンのれんちょんの「心の準備!」をどう解釈したらいいのか首を傾げたのですが、「動揺(ワクワク)の痕跡」と捉えたらいいのかなあと。
テーマもあってちょっとしたことの積み重ねが面白い回だったなと思います。前回幽霊対策とか大真面目に考えてた小鞠が「お化けなんていないんだよ」と強がるのそれだけで笑えるし、カレンダーに痕跡を残していたれんちょんがラストで夏海とひかげの討ち死にっぷりの痕跡を残しているのも面白い。一穂役の名塚佳織の酩酊演技や、夏海役の佐倉綾音の「プレッシャーに耐えられなかったんだ、許してぇー!」の野太さなんかにもたっぷり笑わせてもらいました。
季節は移って次回は秋、どんなお話が見られるか楽しみです。