賢愚同根――「のんのんびより のんすとっぷ」7話レビュー&感想

f:id:yhaniwa:20210226010138j:plain

©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
夏が終わり季節の進む「のんのんびより のんすとっぷ」。授業参観と聞いてれんちょん達はそれぞれ異なる反応を見せるが、母の怖い夏海はほとんど死にそうな顔を見せる。7話は主に彼女を通して、愚かさと賢さについて考えさせてくれるお話だ。
 
 

のんのんびより のんすとっぷ 第7話「ハラハラする秋だった」

 
宮内一穂は終わりの会で、明日は授業参観だと生徒たちに告げます。
越谷夏海は、いつもの体たらくが母の雪子にバレる事に絶望していました。「勉強していなかった夏海が悪い」と笑っていた一穂ですが、夏海は「一穂が自習中に居眠りしている」事も雪子に伝えている様子。
授業参観の内容次第では自分にも被害が及ぶと焦った一穂は、必死になって夏海に勉強を教え始めるのですが…。

公式サイトあらすじより)

 
 
 

1.夏海の愚かさはどこから生まれる?

f:id:yhaniwa:20210226010207j:plain

©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
夏海「かずねえ!こうなったらあらかじめ、明日の授業の質問決めといてうちに教えておくってのはどう!?」
一穂「な、なるほど! それで夏海がちゃんと答えられれば、うちもちゃんと授業してると思ってもらえる!」
一同「……」
一穂「……夏海くん。うちは仮にもいち教師。そんな八百長みたいな真似はできない」
夏海「さっきはなるほどって言ってたのにぃ!」

 

夏海は学校の勉強が苦手だ。そして前回の夏休みの宿題を巡るドタバタを見ても、彼女が愚かしいのは間違いない。しかし彼女が知恵が働かないかと言えばむしろ逆だろう。ものを壊してしまった時の誤魔化し方やサボりをボイコットに置き換えるなど、なまじ知恵が働くからこそかえって愚かしい行動を取ってしまうのが夏海という人間なのである。
 
今回も彼女は、知恵が働くからこそ母に自分の不勉強を誤魔化せない。暗記力が意外と得意だからいけるかと思いきや翌日になったら頭から消えている、一穂が出した簡単な問題もただ「分からない」よりむしろたちの悪い回答をしてしまう……繕おうとすればするほど母の怒りは増すばかり。事実上の共犯である一穂も今回は夏海の同類だから、彼女のフォローはことごく裏目に出る。
愚かさは時に、賢さからこそ生まれるのだ。
 
 

2.しおりの賢さはどこから生まれる?

f:id:yhaniwa:20210226010226j:plain

©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
れんちょん「まんまるなものはこの世に存在しないって議論してたん」
夏海「……レベルの高い話してるな」

 

Aパートの授業参観で愚かさは賢さからこそ生まれることが分かるが、Bパートでは逆もまた真であることが描かれる。こちらで主役を務めるのはれんちょんとしおり、本作でも特に年少の――「頑是なさ」という愚かさを持つ2人である。
 
れんちょんが天才なのはともかくとして、2人が年齢を大きく超えない存在であることは見ているだけで分かる。ボールをペットの代わりと考え、重力の存在も知らない。その発想はどこまで行っても、年端のゆかない幼児の考えだ。
しかし一方で、幼児そのものの2人の会話には大人がハッとするような指摘も確かに含まれている。丸いボールが止まるのはなぜ、ボールが下に落ちるのはなぜ、私達は本当にまんまるなものを見たことがないのでは……終わりになってから何を話しているのか聞いた夏海が「レベルの高い話してるな」と驚くのも無理はない。
 
極めて科学的な話をしている時だけ、れんちょんとしおりが賢くなったわけではないだろう。摩擦(まさつ)の話をサツマイモと混同してしまうことからも、その境は明らかではない。2人の科学的な話は2人が愚かしい子供だからこそ生まれている。Aパートとは逆に、ここでは賢さが愚かさから生み出されていると言える。
 
 

3.賢愚の源泉

f:id:yhaniwa:20210226010242j:plain

©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期
一穂「へーえ。夏海勉強できないのにこういうことはすごいなあ」
夏海「かずねえ一言多いよ」

 

愚かさは賢さから生まれる。賢さは愚かさから生まれる。卵が先か鶏が先かといった様相を呈してきたが、そもそも、賢さと愚かさの区別などはっきりつくものなのだろうか?
 
Cパートでは再び夏海が前面に出るが、こちらでは彼女は小賢しいことをして事態を悪化させたりはしない。そこにいるのはむしろ、親切心と発想力にあふれた頼りになるお姉さんだ。捕まえたカニを飼うというれんちょんに水槽を貸すだけでなく、作るのも手伝ってやる。必要な素材は手際よく現地収集、遊び心にあふれたギミックも仕込んだ水槽にれんちょんは大喜びだし一穂も驚かずにいられない。ここで輝く夏海の賢さはしかし、Aパートで自分で自分の首を絞めた愚かさと切り離せるものではないだろう。
 
愚かさは賢さから生まれる。賢さは愚かさから生まれる。道理をわきまえた人間がそれ故に成功するとは限らないし、無知の生み出した行動が偶然その状況に最適となる例も無いではない。私達はしばしば愚かさと賢さを失敗と成功で判別しようとするが、それはたまたま状況に合致・乖離した思考を後付で称賛・非難しているに過ぎないのではないか。
 
人は賢さ故に失敗もするし、愚かさ故に成功もする。愚かさと賢さは存在するかもしれないが、多くの場合、私達は両者を本当に区別することはできない。それはきっと、愚かさも賢さも1人の人間の同じところから生まれているからなのだろう。
 
 

感想

というわけでのんのんびより3期7話のレビューでした。合間にしおりとれんちょんを挟みつつなっつん大活躍回。分からない2連発の後で「同じことを言わせれば」って一穂が出した「I don't know」は分からないと言わないところとか掛け合いが絶妙。そりゃ母も笑うしかない。
 

f:id:yhaniwa:20210226010304j:plain

©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期

f:id:yhaniwa:20210226010315j:plain

©2021 あっと・KADOKAWA刊/旭丘分校管理組合三期


あとバケツを運ぶ時に両手で持って揺らすところに腕力が現れてて非常にかわいい。キュート。繰り返しますが本作で一番かわいい娘を選んでと言われたらなっつんを挙げます。水槽を探す時のアップも美人だった。
 
さて、次回はこのみとあかねの関係が一つ鍵になってくるのかな。楽しみに待ちたいと思います。