新しい距離――「ワンダーエッグ・プライオリティ」7話レビュー&感想

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少女達が前へ進んでゆく「ワンダーエッグ・プライオリティ」。7話で描かれるリカの家の入り口は狭い。故に母親との物理的な距離は近い。離れた4人を結ぶSNSと合わせて、今回は「距離」の話として読み解くことができる。
 
 

ワンダーエッグ・プライオリティ 第7話「14才の放課後」

 
リカの誕生日を祝うために集まったアイたち。
遅れてやってきたリカが「愚痴に付き合ってもらう」と取り出したのは、自分の父親と思われる5人の男性の写真だった。
母・千秋と交わした「中学にあがったらパパに会わせる」という約束が果たされず、父への思いと母への苛立ちを募らせ、悪態をつくリカ。
その態度をたしなめたねいると桃恵に、リカは怒りをぶつけてしまう。

 

 
 
 

1.距離感の狂った少女、川井リカ

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リカ「パパのファイブカード」
桃恵「まさか、パパ活!?」
リカ「するか!」

 

"距離感"を考える時、川井リカは少々面倒な娘だ。初対面の相手にも物怖じしないかと思えば図々しい態度で人を遠ざけ、かと思えばそれが親密さの渇望の裏返しであったりもする。友達であるアイ達すらしっかりと測れてはいないから、「パパのファイブカード」などと言われても困惑してしまう。いや、リカ自身すら分かってはいないのだろう。
事態を解決するのはファクト(事実)に基づく距離感の客観的合理的判断……ではない。現実がそうであるように。母を悪し様に罵るリカもまた母に依存している、共依存であるというねいるの指摘はリカの神経を逆撫でするだけに終わる。
 

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アイ「いつか、会えるよ」
リカ「いつか……今会いたいんだ、今」

  

会えないから逆に父のことを妄想してしまう。父の優しい声は覚えていても顔は思い出せない。いつかではなく今会いたい。母が大嫌いなのに同じような人間になりそう。リカの距離感はことごとく噛み合わない。だから、叫びながら振るう彼女のバットはことごとく空を切る。
 
 

2.正しい距離感は、正確な距離感とは限らない

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志乃「あなただって辛いんでしょ?」

 
狂った距離感の先にあるのは、誤解と混同による自滅である。今回のリカの護衛対象である志乃は、心の隙間を偽の宗教家ムカデに付け込まれ一家心中した哀れな少女だ。不幸を前世のカルマと結びつけ、死後すらも彼女の距離感は狂ったままでいる。
しかし、一見まるで縁"遠い"ように思えた志乃とリカはむしろ非常に"近い"関係にあった。己の境遇への深い絶望は、2人に自傷癖という客観的な共通項を刻み込んでいた。事実として、彼女達は同質の存在だったのである。
 
同質の存在であるが故に、リカは志乃同様にムカデに言いくるめられてしまう。すぐ近くに聞こえるアイ達の声すら耳から遠くなり、死が救いだと思ってしまうほどに距離感の異常は極まっていく。しかし先に述べたように、事態を解決するのはファクト(事実)に基づく距離感の客観的合理的判断ではない。
 
 

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リカ「そうか、刷り込みをしたから私をママだと……『ママを守らないと』って……」
 
リカを救ったのはポマンダーの亀、万年であった。刷り込みによって万年は、リカが自分のママだと認識している。それはもちろん事実に基づかないが、だからといって万年の思いは否定されるものだろうか?違う。
生物的な齟齬もアンチ対応という役割も投げ捨てて、万年はリカとあるべき関係を築いている。"本物"の関係を築いている。事実に基づかず間違っていても、正しい距離感を掴むことはできる。*1それを知ることができたから、リカは自傷した自分をも受け入れることができた。
 
 

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千秋「どうせ、リカもわたしを捨てるんでしょ?」
リカ「うん。でも、今じゃない」
千秋「……そう」

 

共依存の関係はいつか終わらせるべきものだ。「どうせリカもわたしを捨てるんでしょ」という母の言葉をリカは否定しない。けれど、今じゃないとも言う。
それは離れようとして付かずにいられなかったこれまでとは違う、新しい距離感だ。彼女を引きちぎりも押しつぶしもしない距離感だ。即座に問題を解決してくれる正解ではないけれど、今はそれでいい。それが見つけられたことが、救いになる。
14歳のリカは、こうして誕生したのだった。
 
 

感想

というわけでワンエグの7話レビューでした。今会いたいというリカの涙が切なくてもう。犬猿の仲だったねいるが彼女のことを心配するところなどもキュンとしてしまいました。前回もそうですが、癒やしというだけでなく成長でもある。
 
この感じだと4人でエピソードを2周している感じですが、そうなると次回の主役は桃恵ということかしらん。スポットライトに期待。
 
 

*1:アイの優しさもきっと、そういう類のものなのだろう。