崩れる私と世界――「裏世界ピクニック」9話レビュー&感想

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©宮澤伊織・早川書房/ DS研
ますます境の怪しくなっていく「裏世界ピクニック」。前回は裏世界との中間領域が舞台だったが、9話はそこにすらいかない。今回は「似ている」ことで裏世界も空魚も区切りの怪しくなっていくお話だ。
 
 

裏世界ピクニック 第9話「サンヌキさんとカラテカさん」

 
空魚と鳥子は、急遽小桜に呼び出される。彼女の自宅を訪れると、そこには茜理がいた。空魚に相談があったが、学校で話しかけるタイミングがあわず、小桜を頼ったということだった。乗り気ではない空魚だが、鳥子にも促されて相談に乗ることになる。それは、茜理の幼なじみが、庭にいた猿から話しかけられたと言う奇妙な体験談だった。幼なじみから送られてきた携帯の画像を見ると、人のように笑う、猿に似た獣が写っていた。
 
 
 

1.割って入る茜理がもたらすのは何か

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©宮澤伊織・早川書房/ DS研
空魚が断固拒否したことで共犯者とはならなかった茜理だが、その存在は空魚と鳥子の間に楔を打つように入り込んでくる。冴月から聞いていた僅かな情報を手がかりに小桜を訪ね、手土産で彼女を懐柔し協力を取り付ける。見事なまでの取り入り上手ぶりだが、彼女を共犯者にしたら2人の関係が崩れるという空魚の懸念が正しいのは半分だけだ。茜理が奪うのは、空魚に向けられていた鳥子の目線ではない。
 
 

2.空魚は台風の目

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©宮澤伊織・早川書房/ DS研
茜理は空魚を強く慕っている。都市伝説への豊富な知識を尊敬し、避けられても忙しいのだと解釈して落ち込まず、ぐいぐい空魚の領域に入り込んでくる。空魚も迷惑がりはするが断固拒絶したりはしないから、その視界には必ず茜理が入ってくる。以前なら鳥子しかいなかった視界に、だ。
 

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©宮澤伊織・早川書房/ DS研
今回の事件解決では、空魚のパートナーとしての鳥子の役割は乏しい。いつもと同じ「空魚が視て鳥子が触れる」はそのリスクの大きさから選択されない。代わって解決策となるのは「空魚が視て茜理が殴る」――つまり茜理を加えたことで起きたのは、空魚に対する鳥子の目線の奪取ではなく、鳥子に対する空魚の目線の方の奪取であった。だから鳥子は、空魚の茜理への暗示に怒るのだ。それが繰り返されれば、自分と空魚の共犯者関係(もっとも親密な関係)は薄れてしまうのだから。
 
この9話を主に動かすのは空魚と鳥子と茜理、そして茜理の幼なじみの"なっつん"こと市川夏紀も加えた4人だが、その中で空魚は強い感情を一身に受けている。鳥子の共犯者意識と茜理の慕いようは先に述べた通りだが、夏紀も当初は空魚のことを警戒していた。茜理を遠くへ連れて行かれるのではないかと、その視線を奪ってしまうのではないかと恐れていた。空魚の存在こそは、この9話の人間関係では台風の目であった。
そして台風の目なのは、人間関係の中心にいた人物は空魚だけではない。
 
 

3.知らずに誰かに似る

鳥子も茜理も夏紀も、空魚に強い感情を向けた人間は過去、別の1人の人間にも強い感情を向けている。そう、閏間冴月だ。鳥子と共に裏世界へ潜り、茜理からは慕われ、夏紀からは警戒される。空魚に向けられた強い感情は全て、冴月に過去に向けられた感情の延長線上にある。その相似はおそらく、前回明かされた冴月の過去のように今回空魚が茜理を操ったこととも無縁ではないだろう。
 

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©宮澤伊織・早川書房/ DS研
前回も示されたように、個性の強化がむしろ同質化に繋がることは珍しくない。知らず知らず空魚が冴月に近づいていたように。そんな彼女が暗示をかけた結果、怪異より怪異的な茜理にサンヌキカノが倒されたように。茜理が直感する空魚と冴月の「似ている」とは、そういう類のものだ。空魚がぶつかっているのはそういう、唯一性に対する普遍的な悩みなのだ。
 
 

感想

というわけで裏ピクの9話レビューでした。またウンウン悩んでそのまま書く感じになってしまった。すっきりやれないのはもどかしい、そもそもすっきりしないというのは(自分なりにでも)ものにできていないということだし。今回はアバンから答えを引き出せていないのが大きいのだろうけど。
冬アニメになってから読み解きの調子が本当におかしいです。燃費か結果か、どちらかだけでも改善できないとこのままでは潰れてしまう……