反復と変質――「オッドタクシー」1話レビュー&感想

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(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ.
タクシーに様々なものが乗り合わせる「オッドタクシー」。擬人化された動物のかわいらしい外見と裏腹に、主人公同様にどこか偏屈な物語は掴みどころが難しい。テーマとまではいかないが、全体に影響するであろう1話の特徴を探ってみたい。
 
 

オッドタクシー 第1話「変わり者の運転手」

個人タクシーの運転手・小戸川は今日も色々な客を乗せる。あと、かかりつけの病院にも通う。
 
 

1.一期一会で終わらぬ、思わぬ形の反復

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(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ.
主人公・小戸川の職業であるタクシードライバーは、基本的に一期一会を繰り返す仕事だ。客との関係は乗せて運んで降ろせば終わりで、再び会う可能性はごくごく低い。細部の反復性がごく低い仕事である、と言っていいだろう。
しかしその職業性に反して、本作の描写は反復に満ちている。芸人のラジオや劇中歌「超常恋現象」は二度に渡って実際に流れ、忘れ物によって小戸川は再び客のところに戻る羽目になり、看護師の白川は病院で小戸川に言われた言葉を逆に返してみせる。最後に挙げた白川のように明白な意趣返しの場合もあるが、多くの場合これらの反復を当人は企図していない。本作における反復とはおそらく、空気のように作品世界にあふれたものなのだ。
 
 

2.反復がもたらす変質

反復とはもちろん、同じことの繰り返しである。しかし場所や時間が異なれば、反復から生まれるものまで同じとは限らない。
 

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(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ.
小戸川「じゃあ3回言ってみろよ、ブルース・スプリングスティーン
剛力「ブルース・スプリングスティーンブルーススフィングスティーンぶるーすすふぃんすふぃん……」
小戸川「言えてね―から」

 

 
ロックミュージシャンの名前を3回連呼するだけで剛力の舌は呂律が回らなくなり、わけの分からないものになる。であれば、反復する人間や状況が変われば変化はその程度では済まない。
タクシー客の樺沢が挙げたバズり投稿の好例は小戸川にはうぬぼれの強い気持ちの悪いものとして反復されるし、指名手配犯のチンピラ・ドブとの繋がりを誤魔化す警察官・大門兄の言葉を大門弟は素直に、言葉そのままに反復し直す。
反復されたものはしかし、その時点で元のままではなくなっている。反復は変質をもたらすのである。
 
 

3.変質の紐付く先

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反復は変質をもたらす。そして本作における変質とは主に、劇中の女子高生失踪事件への紐付けだ。
例えば撮影時はSNS用のネタでしかなかった樺沢の写真は、小戸川がもう一度見た時には指名手配犯のドブを捉えた奇妙なものと化す。大門兄は小戸川のドライブレコーダーを事件資料として押収するが、反復される念押しは警察官のものではない。そして彼は、ドブにレコーダーの記憶装置を渡してしまう。何気ない描写は、反復される度事件との繋がりを示すヒントへ変質していく。
くだらない会話がいつ重要なキーワードとして反復されるか分からない緊張感が本作にはある。それはつまり、視聴者に作品を反復させ描写の意味の変質を試みさせる魔力がある証拠だ。
 
 

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(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ.
同時にもちろん、本作はただサスペンスだけに偏った作品ではない。動物を擬人化したデザインは混乱を呼ばずに多数のキャラクターを印象づけ、またスラリとしていない造形で生身の感覚を与えもする。また正式には登場していないキャラの発見や細かく書かれた広告・SNS投稿文の読み取り、一般人的な軽妙さに満ちたトークなどは反復した視聴もそうそう飽きさせはしない。
私達視聴者を乗せて、本作はいったいどこへたどり着くのか。この奇妙なタクシー移動に3ヶ月、付き合ってみたいと思う。
 
 

感想

というわけでオッドタクシーの1話レビューでした。これは何度も見返したくなるな。1話内だけでもチマチマしたところに情報が仕込んであって、こうなると後々見返した時に「あっ!」ってなる描写も多く含まれているはずだと期待が高まってしまいます。どこに後ほど"反復"される描写があるのか油断ならない。ハイテンションとは縁遠い全体の雰囲気も他のアニメとは違った視聴感覚で好ましく感じられる。付き合うのになかなか骨の折れそうな作品ですが、今後が楽しみです。
 
 
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