問われるのは正当性――「戦闘員、派遣します!」3話レビュー&感想

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
悪の組織と異世界が入り交じる「戦闘員、派遣します!」。3話では六号は自分の手に勇者の紋章が現れたかと勘違いするが、それは害虫に噛まれた痕で勇者の証とは認められない。今回は意外にも「正当性が結果を導く」お話だ。
 
 

戦闘員、派遣します! 第3話「正しい塔の攻略法」

グレイス王国には
『魔王の脅威に脅かされた時、勇者が現れる』
という伝承があった。
魔王を倒すべく先に仲間と旅立っていた勇者が、魔王軍の襲撃により負傷してしまう。
勇者一行に代わり、強い魔物たちが守る《ダスターの塔》攻略を命じられる六号たちだったが…。

 

 
 
 

1.王国軍はバカ正直ではなくバカである

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
今回の舞台となるのはダスターの塔。魔王の城の攻略に必要な秘宝を勇者が入手しようとするも撃退され、やむなく王国軍は塔の攻略を試みる。効率的な六号の案を却下し党内を正面の螺旋階段から攻めていく手法は「バカ正直」に見えるが――本当にそうだろうか?
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
将軍「しかし、勇者様の回復を待つのでは時間がかかり過ぎる。そこで我々がダスターの塔を攻め、秘宝を手に入れるのだ」
 
そもそも塔とは城の一部となっているのでなければ軍事的な攻略目標の意味合いは薄く、権威の象徴や周辺情報を収集するための建築物といった役割が大きい。そして荒野にポツンと立つダスターの塔にはもちろん、そのような役割すらない。これは勇者が昇って目的を果たすための、典型的な「ゲームに登場する塔」だ。そんな塔を勇者でなく軍隊が攻略するのはお約束・・・に反している。正当性が無い。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
ゲームのお約束に則るなら、勇者の回復を待つことこそ正道……つまり「バカ正直」さのはずだ。にも関わらず時間がないからと軍隊で攻略しようとするのはバカ正直ではない。単なる「バカ」に過ぎない。
王国軍は手段を選ぶから愚かなのではなく、騎士道精神を掲げながらどこに正当性があるか見極められないからこそ*1愚かなのである。
 
 

2.なんでもありのようで手段を選んでいる六号

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「お前、自分の相棒をいくらで買う?」
スノウ・ロゼ・グリム「……」
 
真正面から塔攻略に挑み苦戦する王国軍に対し、六号達の遊撃部隊は常識はずれかつ卑怯な方法でたやすく塔の魔族を駆逐してしまう。塔を外壁から登攀して最上階へ昇り、二人組のボスの片方を常に人質にして要求を飲ませる。彼の行動はなんでもありの非道に見え、仲間達も呆れてしまうが――本当にそうだろうか?
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「よしお前ら、遠距離攻撃をくらわしてやれ!」
 
六号は確かに卑怯な方法を採っているが、もっと非道でもっと効率的な方法はいくらでもある。不採用になった塔内キャンプファイヤー作戦もそうだし、ボスの片方を人質にとった作戦だって二人を死なせることもできたはずだ。人質にとって金と秘宝を奪った後、銃で殺してしまえばいいのである。
本当になんでもありなら、効率だけが大切ならそれが正解のはずだ。だがそんなものを見せられて面白いか?答えはノーだろう。酸欠と炎で一方的に殺される敵を見ても、銃でなぶり殺される敵を見ても、ナイフをグリグリと突き立てられる敵を見てもそこに面白さは生まれてこない。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「おっと、お前は俺の言ったことが聞こえなかったのか?そう、生きてると言ったんだぜ」
 
特撮的悪の組織は本来、ヒーロー1人で立ち向かえない巨大な存在だ。にも関わらずお約束・・・通りに負けるのは、彼らが卑怯卑劣な振る舞いをしながらも本当に効率的で非道な振る舞いをしないからである。たまにそれに近い行動をする悪役もいるが、「これだから子供向け作品は」と嘲るような人もそういう悪役をただ称賛したりはしない。多くの場合、そういう悪役に向けられるのは嫌悪だ。悪役としての正当性が無いからこそ、そういう悪役は視聴者からも憎まれる。
今回求められている正当性の本質は、そういうお約束に限りなく近い。そしていわゆる「光の勇者」だけでなく、物語に登場するあらゆる存在に問われるものなのである。
 
 

3.問われるのは正当性

正当性は物語の誰もが問われるもの。そう考えた時、六号の行動にはこの上なく正当性が伴っている。もちろんそれは光の勇者としてのものではない。「悪の組織のヒラ戦闘員の主人公」という独特の正当性である。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会

六号(念願のエロイベントです。本当にありがとうございます!)

  

六号は体力が限界のスノウをおぶさって塔を登るが、同時に彼女の胸の感触を楽しむゲスさも発揮する。
六号は蒸し殺しや突き落としといった本当に非道な行動を考えたり採ったりもするが、それは他人の意思や偶然によって果たされない。
六号はボスの片方を人質に攻撃したり取引したりするが、そこでは一方的に銃やナイフを使わないし結果的に彼らの命を奪わない。
 
ヒロイックな行動もするが常に下品さを失わず、卑怯で卑劣だが非道はしない(あるいはできない)。六号は「悪の組織のヒラ戦闘員の主人公」という正当性の難題を常にクリアし続けている。だからこそ彼の行動は笑えるしかっこいいし、魅力的なのだ。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「いいかよく聞けよ、俺はサハラ砂漠で1ヶ月以上戦闘して、ようやく帰ったらねぎらいの言葉もなく上司にパシリに行かされ、そんでもって給料が手取りで18万円だった!」
アリス「むしろなんで今までお前が辞めなかったのか不思議なくらいだな」
 
そして、正当な行動には正当な対価こそが求められる。数百万円に相当する六号の報酬は全く正当で、しかしそれはこの異星だからこそ得られたものだ。彼は地球では単なるヒラ戦闘員に過ぎない。「悪の組織のヒラ戦闘員の主人公」……ある種の「裏勇者」としての正当性はここでのみ成立する。
これまでの話もそうだったが、「正当性のない者が一周回って正当性を持つ」ことこそは本作の*2醍醐味なのであろう。
 
 

4.余談:ヒロインとしてのアリスの正当性

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
以上、正当性をキーワードに3話をレビューしたが、余談としてアリスの「ヒロインとしての」正当性について触れておきたい。
アリスは一見、六号に対するヒロインとしての正当性に乏しい少女だ。年端も行かぬ容姿は六号へのアピールに乏しいし、アンドロイドの体は生身ではない。口を開けば彼をバカだのアホだのと罵る。おまけに組織には既に彼に思いを寄せる女性・アスタロトがいる。ヒロインレースとして見れば初戦敗退もので、事実彼女はそういう素振りを見せない。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会 2話より
アリス「おい、自分が美少女だからって変なことするなよ。生殖機能はついてないからどうしてやることもできんぞ」
六号「ロボット相手にそんな気起きるか!」

  

2話の会話を見ても分かるように、アリスはヒロインレースに出ようとしないし六号もその気を起こさない。しかし先に触れたように本作は「正当性のない者が一周回って正当性を持つ」物語だ。であれば、ヒロインとしての非正当性はかえって正当性への道程ですらあり得る。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員 2話より会
六号「はー、たかが乳揉んだくらいでガチギレするんだもんなあ」
 
スノウの乳を揉む六号に、アリスはなぜかムッとする。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
アリス「人様から何かもらうなんて、ショットガン以来だな」
六号「ショットガンは別にプレゼントじゃ……」
 
六号にそのつもりはないが、1話で言ったようにアリスにとってショットガンは六号からのプレゼントだ。そして彼女は、ショットガン同様の報酬を愛しげに抱く。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
アリス「あん、あん、あーん」
 
ラッキースケベイベントを渇望する六号に自分の胸を揉ませるアリスの行動は、今はヒロインとしての正当性を持ち得ない。しかしそんな彼女の内心にはどんな思いが隠されているのだろう。アニメでは描き切れない先の話なのかもしれないが、僕はそこにとても魅力的な物語が隠されている気がしてならないのだ。
 
 

感想

というわけで戦闘員3話のレビューでした。初見時は塔の扱いが中途半端なのではないかとモヤッとしたのですが、むしろそれを手がかりに書けて筆がはかどりました。単に「卑怯でも卑劣でもなんでもありなんだ、手段を選ぶのはバカのやること」としか受け取られない可能性もある話ですが、非常にコントロールが巧みだったと思います。アリスに関して1話からボンヤリ感じていたことも言語化できましたが、これはまだ妄想レベルなのではてさて。
回が進むごとに六号の魅力が増していて、今後がますます楽しみです。
 
 
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*1:ロゼやグリムへの非道な仕打ちもこれに含まれる

*2:あるいは多くの異世界転生ものの