比例特異点六号――「戦闘員、派遣します!」4話レビュー&感想

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
好事魔多し「戦闘員、派遣します!」。グレイス王国で大活躍の六号だが、彼はそれに比例して妬みも買っている。4話は"比例"に対する彼の不思議な力のお話だ。
 
 

戦闘員、派遣します! 第4話「悪の幹部の倒し方」

《ダスターの塔》を攻略した六号たちの活躍が評価され、
特別任務として魔王軍四天王の相手を任されることに。
スノウは出世の機会だと大喜びするが、
六号とアリスはそれを新参者の自分たちのことを
気に入らない王国参謀の差し金だと見抜いていて……。

公式サイトあらすじより)

 
 

1.世界は比例と反比例でできている

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
アリス「それは恨まれる理由として十分だと思うが……ま、単純に目障りなんだろうな。」
 
世の中は基本的に、比例か反比例でできている。出世すれば比例して人から頼られるし、人数が増えれば反比例して1人が食べられる量は減る。身近なところに目を向ければ、多くの比例や反比例が見つかるはずだ。
しかし比例や反比例はけして単純なものではなく、おかしな方向に向く場合もある。活躍に比例して人に恨まれ、戦果に反比例して手ひどい扱いを受ける――常識から外れた有能さなどにはしばしば、そういうおかしな比例や反比例が伴う。劇中でも例えば、ロゼやグリムは高い能力に比例してむしろ疎まれていたし、遊撃部隊はその活躍に反比例して捨て駒扱いされてしまう。
出る杭は打たれるのである。世の常なら六号も打たれるところだが、彼はそうならない。「悪の組織のヒラ戦闘員の主人公」という矛盾じみた存在に、世の法則が全てそのまま通じるわけがない。
 
 

2.比例と反比例を狂わせる六号の力

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
スノウ「貴様、自分を客観的に見たことあるか?」
アリス「六号、鏡って道具を知ってるか?」
ロゼ「隊長、ブーメランって知ってますか?」

   

「悪の組織のヒラ戦闘員の主人公」の立場からも分かるように、六号は世の常から逸脱した存在だ。キサラギでは最古参の立場に比例せぬヒラ戦闘員で、遊撃部隊でも仲間からは隊長の立場に比例せぬ扱いを受けている。そう、彼は存在そのものが比例と反比例をおかしくする特異点であり、ゆえにその法則に従って行動する者は彼の前でバカを見る。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「アリス、俺石を返してやるなんて言ったっけ?」
アリス「いいや一言も。アイツが勝手に勘違いして指示に従ってただけだ」
ハイネ「ここまでやらせといてそりゃないだろ!?殺す、お前は絶対に殺す!」

  

今回その最大の被害者はもちろん、彼と相対したハイネだ。魔王軍四天王の1人の筈の彼女は六号の前ではどうも調子が狂うし、費やした年月に比例した魔力をもたらす魔導石を失ってしまう。おまけに受けた辱めに比例した報酬(魔導石返還)は得られず更に汚される始末。羞恥に耐えきれず撤退せざるを得なくなってしまった。
六号の扱いは捨て駒であった。しかし彼は、その扱いに比例せぬ大戦果を挙げたのだ。
 
 

3.狂わせるがゆえの魅力と落とし穴

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
これまでも六号は、クズさをそれに比例した失敗ではなく成功に繋げることで物語を動かしてきた。そういう、比例と反比例を狂わせる力こそは彼の主人公としての力と言っていい。それは今回のスノウの態度からも言える。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「おい見ろよロゼ、これがツンデレってやつだ。こいつ口ではこんなこと言ってるが、もう俺のことが好きでたまらないんだぞ」
 
ツンデレ……好意が高まるほど嫌悪として現れるこの態度はすなわち、比例と反比例の狂った状態の分かりやすい例だ。恋愛感情としてはまだあやふやでもスノウが六号に信頼を寄せているのは明らかで、だから自分と同じく六号を妬んでいると考えた参謀の甘言は逆にスノウの仲間意識を強める結果に終わる。手柄と金と名剣に目がないはずの彼女は今やそこから遠い場所にいて、にも関わらず居心地の良さを感じるようになっている。
ロゼやグリムにしてもこれまではその出自や信仰から疎まれていたのが、六号と行動を共にしてからは能力に比例した扱いを受けられるようになった。比例と反比例を狂わせる六号の力は、勝てぬはずの敵を倒し報われるべき者を救う契機となっている。クズでもヒラ戦闘員でも、その力を持つ者は確かに主人公に相応しい。
ただ、主人公の力は幸せばかりをもたらしはしない。比例と反比例を狂わす力は当然、トラブルも巻き起こすものだ。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
スノウ「……スパイとはどういうことだ?」
 
好調な戦果に浮かれた六号がポロリとこぼしたスパイ任務は、偶然にもスノウの耳に入ってしまう。もし初対面の時であれば、スノウはさほど衝撃を受けることはなかったろう。
強い信頼から裏切りのショックへの変化もまた、比例と反比例の異常だ。六号は六号らしく、主人公らしくある限りその落とし穴から逃れられない。
 
このピンチに六号は、いかにして悪の組織のヒラ戦闘員らしく、そして主人公らしくスノウの信頼を取り戻すのか。次回は一つの山場回となりそうだ。
 
 

感想

というわけで戦闘員の4話レビューでした。比例と反比例のおかしさの切り分けはもうちょっと詰める余地があるかも。戦闘服の制限解除なんかも組み込んで書ければよかったなあ。
酒場でのやりとりを見ていても六号にとって遊撃部隊は居心地のいい場所になっていて、その居心地の良さが増せば増すほど裏切りも深まるのを突きつける回だったなと思います。次回が気になる幕引きでした。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
あと頭なでる手をどかさないアリスがかわいい。
 
 

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