理解より必要なもの――「小林さんちのメイドラゴンS」2話レビュー&感想

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クール教信者双葉社/ドラゴン生活向上委員会
イルルを迎え賑やかさを増す「小林さんちのメイドラゴンS」。2話回想、人間の裏切りに激怒したドラゴン達は幼きイルルに彼らとは分かり合えないと告げる。だが、分かり合えなければ一緒にはいられないのだろうか?
 
 

小林さんちのメイドラゴンS 第2話「イケメン、小林!(いろんな意味で)」

イルルを退けた小林さんだったが、その代償に魔法で「アレ」を股間に付けられてしまう。すると普段は何とも思っていなかったトールやカンナが違って見え始め、次第に小林さんは悶々し始めていく。
 
 

1.分かり合うことはいいことか

分かり合うことは一般に良いこととされる。確かに、理解できない存在はイライラするものだし衝突も生まれやすい。互いに互いを理解できれば、相手の行動に不可解を感じることもない。…だが世の中には、分かってほしくない物事というものもある。
 

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イルルに魔法をかけられた小林さんは、自分の家なのにまるで忍び込むかのように帰宅する。また普段と変わらない態度で接するトールやカンナを奇妙に遠ざけ、接触を避ける。理由はもちろん、自分に起きた変化を知られたくない・・・・・・・から。つまり小林さんは、自分の体の異常もそれによる精神の変化もトールやカンナに「分かってほしくない」のである。
 
自分が二人に悶々としてしまうだなんて知られればこれまでと関係は変わってしまうし、トールはそれを利用して自分を繁殖行為を求めてくるのは想像に難くない(というより実際に求めてきた)。気の迷いのような些細な気持ちまで分かり合えては、関係性はむしろ息苦しくなってしまう。
 

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トール「ふふふ、途中から気付いてましたよ。小林さんは今、アレがついている!」
 
 
そしてそもそも、相手のことを完全に理解することなどは不可能だ。トールは「心と心で繋がった」と言うだけあって小林さんの異常を鋭く見抜いたが、繁殖行為まであと一歩と迫りながらもメイド服を脱ぐ行為が惚れ薬の薬効以上に小林さんを萎えさせることには気付かなかった。理解できていなかった。しかし結局は、それが彼女達の関係を崩さぬ救いになった。
この2話の序盤で描かれているのは、心底まで分かり合うなど不可能なことと、それがむしろ良い結果をもたらす場合の例示なのだ。
 
 

2.理解より必要なもの

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どれだけ親しくとも心底までは分かり合えないし、むしろ分かり合えない方が良い結果をもたらす場合すらある。だが、全くの無理解では闘いになってしまう。ちょうどいい"バランス"を維持するのに求められるのはなんだろう? この2話はもちろん、そこにも触れている。分かりやすいのはトールとイルルの関係だ。
 
小林さんにかばわれてイルルはトールと戦うのをやめたが、それはこれまでのいざこざを全て水に流すわけではない。二人はかつて殺し合った仲だし、トールにとってイルルは裏切り者だ。再び戦うのは必定……と二人共が思いながら、事態はそうならない。
 

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小林さん「喧嘩すんな」
 
トールとイルルの脳裏には、小林さんが止めるであろうことが同時に浮かんでいた。戦おうとする相手のことなど理解できているわけではないが、共通のことが思い浮かんだために戦いは始まらなかった。
 

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イルル「誰も許してくれなかった、あの子とあの子は悪くないのに!」
 
また自分にぶつけたい気持ちがあるのかと小林さんに問われてイルルはかつて感じた悲しさを口にしたが、あれだけの言葉でイルルの事情が小林さんに伝わるはずはない。けれどそれを聞いてくれたことが、イルルにとっては「騙されてもいい」と思えるほど大きかった。
 

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小林さん「だからイルルを、昔の自分と重ねて見ていたのかもしれない」

 
事が終わって、小林さんは個を否定するイルルのありようにかつての自分を重ねていたことに気付く。それは口で伝えたりはしないが、彼女がイルルにほとんど固執しその危機を救うきっかけになった。
 
これらはどれも、相手と心底から分かり合うこととは程遠い。相手が自分と同じことを考えているかどうかの認識すらされていない。しかしそれでも、これらはいずれも戦いを止めたり和解に繋がっている。相手のことが分からずとも、同じことを思い浮かべればそこには平穏が生まれていたのだ。
相手と心底から分かり合うことはできない。けれど分かち合う・・・・・ことはできる。厳密には違うことを考えてすらいても、そこに互換性があれば私達は手を取り合えてしまう。
 

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それは確かに理解ではない。小林さんが言うように「騙す」ことに近い。けれど、それが異なる者を一緒にいさせてくれるのも事実だ。その理解の一歩手前の汚いもので誰かと誰かの関係は埋め合わせられ、あたかも理解し合っているかのように機能していく。
分かり合えなくとも、ほんのわずかの共有さえあれば私達は誰かと一緒にいられるのである。
 
 

感想

というわけでメイドラゴン2期の2話レビューでした。思ったよりは苦戦せず書けた方かしらん、頭を休めつつ後半の理解のための貯金を今の内にしておきたい。かわいらしい絵柄だけどリビドーがあって、小林さんもけして最初から完成していたわけではなくて……と、1話に比べて陰影が濃い目に出た話だった印象(もちろんこれらの要素は1話でもあったけど)。あと三下悪役を杉田智和が演じているのも嬉しいサプライズ。
次回は副題によると課外活動とのことですが、カンナ関連の要素が多い回になるんでしょうかね、広がりに期待です。
 
 

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