あなたに触れて、わたしを知る――「白い砂のアクアトープ」4話レビュー&感想

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©projectティンガーラ
別世界へ手を伸ばす「白い砂のアクアトープ」。4話では、人手不足で中断されていたタッチプールが再開される。海の生き物に触れられるタッチプールは子供達に大人気――だが今回「触れられて」いるのは海の生き物ばかりではない。
 
 

白い砂のアクアトープ 第4「長靴をはいた熱帯魚」

来場者が海の生き物と直接触れ合えるタッチプールの実施が決まった「がまがま水族館」。夏休みの目玉イベント開催に向けてはりきるくくるは、飼育員の屋嘉間志空也や幼なじみの仲村櫂にも手伝ってもらいテキパキと指示を出していく。一方、案内係を任された風花は、人前に立つことを不安に感じつつも懸命に準備をする。そんな時、風花が元アイドルだと知る飼育員・貝殿轟介が休暇から復帰してきて……?
 

1.「タッチ」される風花

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風花「すみません、やめてください……!」
 
タッチプールの案内係を任された風花は今回は如才なくその仕事をこなしていたが、客の一組が彼女が元アイドルと気付くと一転、視線はそちらに集中し風花は安定を欠いてしまう。
 
タッチプールが大人気なのはもちろん、ふだん縁のない生き物に触れる機会だからだ。これがどこでも見かける種類のアリやダンゴムシであったら誰も見向きはしない。タッチプールの醍醐味とは、「別世界の生き物に触れられること」にあると言える。
そして別世界の生き物というのはけして、種族の違う生き物に限らない。例えばヒーローショーだって観客にすればふだん接する機会のない、別世界の生き物と触れる機会だからこそ人気を博す。そう、元とは言えアイドルだった風花は一般人にとって「別世界の生き物」である。くくるは風花をタッチプールの案内係にしたが、それは元アイドル・宮沢風花を海の生き物同様のタッチ対象にするに等しい行為だった。来客が海の生き物ではなく風花の方に興味を示したのは、当然のてん末だと言える。
 

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くくる「風花!……代わる、風花は裏で休んでて」
 
「無闇に触るのは生き物にストレスを与える心配がある」……タッチプールにおける海の生き物へのくくるの懸念は、そのまま風花にも当てはまる。元アイドルとしての過去に無闇に触れられるなど、嬉しいわけもない。くくるが風花を裏で休ませたのは、タッチプールでストレスを感じた生き物を休ませるのと同じ行為だと言えるだろう。
 
 

2.なぜ「風花に触れる」のがくくるにとって重要なのか

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くくる「ごめんね。こんな事になるなんて、全然想像してなかった……ごめん」
 
元アイドルとしての過去に触れられた風花を、くくるは海の生き物に対するのと同じように休ませた。つまりそれは、彼女が海の生き物に接するように人に接したということだ。他ならぬくくるがそうしたことは、実は大きな意味を持つ。
思い出してほしい、本来彼女は海の生き物にしか興味がない・・・・・・・・・・・・・のだ。興味がないから、幼馴染の少年・櫂からの好意にも気付く気配がない。そんなくくるの風花への接し方は、彼女が人間に接する上での新しいモデルケースとなる可能性を示している。風花に接することで、くくるは人間への接し方を学んでいると言ってもいいだろう。
 
「とっても怖がり」な海の生き物によく似た風花との触れ合いは、夏休み館長として奮闘してはいても少女に過ぎないくくるにとってこその(つまり他の誰かのためではない)タッチプールなのである*1
 
 

3.あなたに触れて、わたしを知る

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先の段では、くくるにとって風花がタッチプールの対象であると書いた。だが、それはけして一方通行の矢印ではない。今回のクライマックス、くくると風花は互いに互いの頬に触れている。
 

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思い返せば、風花にとってもくくるは別世界の生き物であった。出会いはキジムナーの見せた幻の向こうで、容姿も性格も正反対。東京でアイドル活動をしていたら出会うはずのなかった、沖縄の少女。夢についてもくくるは今その実現に全力を燃やしているが、風花は自分の夢は既に終わったと考えている。
 

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そして、彼女は無闇に触ってはいけない存在でもある。明るい性格だが海の生き物の飼育についてはプロ意識が強く、知識も覚悟もなく水族館の仕事を始めた風花はペンギンの餌やりに失敗してこっぴどく叱られてしまった。2冊の母子手帳についてなかなか祖父母に聞けない一面を考えても、くくるはけして見た目ほど単純な少女ではない。
 
 
くくると風花にとっては互いこそが別世界の生き物であり、ゆえに友人や家族とではなく二人が互いにタッチすることが得難い経験になる。そしてそのタッチで知るのはけして、相手のことだけではない。
 

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風花「そっか、だからわたし頑張ってたんだ。館長のこともっと知りたい、もっと仲良くなりたいって思って……」
 
無思慮を詫びるくくるの謝罪を否定する中で風花が気付いたのは、自分がくくるをもっと知って仲良くなりたいと思っていることだった。そしてその気持に触れたくくるもまた、気付いたのは風花と仲良くなりたいと思っている自分の気持ちだった。二人が知ったのは、相手のこと以上に自分のことだった。彼女たちは相手に触れているはずがその実、自分の心にも触れていたのだ。
 
 

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誰かに興味を持つことは、誰かに興味を持っている自分を知ることでもある。くくると風花にとっては、互いを知ることこそが自分を知る道標になる。
別世界の生き物だった二人は、相手に触れることで自分の奥底にも触れていくのである。
 
 

感想

というわけで白い砂のアクアトープ4話のレビューでした。今回はかなりすんなり書けた……のでなんだか逆に不安。レビューでは入れられませんでしたが、すぐに痛む海やんの腰も「無闇に触れちゃいけないもの」ですね。ニコ動では弾幕が飛び交うのでしょうが、惚れた腫れたを除いてもくくると風花の組み合わせの必然が描かれた回だったなと思います。
風花の母も登場して、次回はどんな騒動が待ち受けているんでしょうね。
 
 

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*1:だから仕事に戻った風花は、グループ客に自分はタッチ対象でないことを宣言するのだ