此方彼方を行き来する「白い砂のアクアトープ」。22話ではくくるの復帰とさらなる変化の兆しが描かれる。環境問題への言及もあるが、これはけして本筋から独立したウンチクなどではない。
白い砂のアクアトープ 第22話「覚悟の帰還」
ウミガメの孵化を見届けたくくるは、気持ちを新たに「アクアリウム・ティンガーラ」へと戻る。そんな彼女を夏凛と朱里は温かく向かえ、諏訪は引き続き、新エリアを使った結婚式の企画を任せる。結婚式にふさわしいアイデア出しに悩むくくるは、知夢たちにも協力してもらい、ついに企画書を完成させる。そして、向かえたウエディングプランナー・三浦へのプレゼン当日。果たして、くくるの企画は通るのか!?
(公式サイトあらすじより)
1.近くから遠くへ
くくるの居場所が分かるや離島まで駆けつけ、立ち直らせる一助となった風花。相変わらずの優しさだが、それは彼女が与えるばかりの存在だというわけではない。
風花「この前、ゴミの問題に触れる機会があってもっと色々知りたくなったんです」
離島での経験は、風花が環境問題へ関心を持つきっかけとなっていた。飼育員だからというわけではない。実際、彼女はウミガメの絶滅危惧種としての危機については全然知らなかったことを告白している。
くくる「三浦さんもこんな気持なのかな。わたしが生き物のことを大事に思ってるように、新郎新婦のこと……」風花「きっとそうだよ」
風花が関心を持ったのはウミガメの孵化をその目で見て愛情を感じていたのが一因であり、そして孵化を見たのはくくるが心配で離島に来たから。彼女は身近な人や生き物への関心から遠大な環境へ思いを馳せるようになったのであり、つまり近くを見つめることで遠くへの目線を手に入れることができた。これは、身近な人の結婚式を想像することでウエディング・プランナーの三浦の新郎新婦への思いが自分の魚達への思いと同じものだとくくるが気付けたのと同じことだろう。人は遠くのものをただ遠くに見つめても、なかなかそれを掴むことはできない。むしろ、既に掴んでいる手近なものに当てはめることによって遠くまで手をのばすことができるものだ。
2.遠くに手を伸ばす方法
手近なものが遠くへの道になる。三浦へ再度プレゼンの機会をもらったくくるが採るのは、正にそれを利用した方法だ。
三浦「前回は生き物の保護にこだわっていたようですが」くくる「生き物が大事なのは変わりません。ですが結婚式が大前提の企画ですから、お客様に喜んでいただけるようお互いが納得できる形を見つけたいと考えています。」
くくるが改めて提示したティンガーラ・ウエディングのプランは、実は前回からそれほど変化しているわけではない。写真撮影は魚達が驚かないよう水族館がカメラマンを手配するものだし、ウミガメの死亡例のような誤飲を防ぐため飾り付けも最小限。くくるの魚達を大切にする姿勢は全く変わっていない。変わったのはその表現の仕方、伝え方――"形"である。
くくる「天井をご覧ください。足元から天井にかけて、頭上を覆う天球が水槽になっています。水がキラキラと輝く中を色鮮やかな生き物達が泳ぎます。飾り付けをしなくても、十分華やかではないでしょうか」
くくるは今回、飾り付けを最小限にする理由を人が生き物のために我慢するという形にしない。生き物が悠々と泳ぐ姿が、砂を敷き詰め自然を活かした会場のロケーションこそが既に最高の飾り付けなのだと説明する。誤飲がウミガメと水族館の生き物で共通するようにこれはくくる流の環境問題への対応(僕がたびたび触れてきた"偽物"、海に対する水族館を始めとした擬似的な体験)なわけだが、それをただ説明しても納得してもらうのは難しかったろう。三浦も一度は難色を示したように、くくるが提案した海の中のような結婚式など誰も見たことも聞いたこともない。遙か遠く の話だ。……つまり、それを引き寄せるために必要な手近なものこそはティンガーラで実際に魚や会場を見てもらうことであった。
三浦「今日はティンガーラさんに来て本当に良かった!文面だけでは想像できないことも、実際に魚や新エリアを見たことでイメージが明確になりました。」
検討や調整は多々必要と前置きはしつつ、三浦はティンガーラ・ウェディングに企画に値する価値を見出す。彼女が言うように、実際に魚や新エリアを見なければくくるの提案に現実的なイメージを抱くことはできず、この企画は採用されなかったろう。くくるはティンガーラ・ウェディングという遠くにあるものを、得体の知れない恐ろしいものから未知への好奇心をかき立てるものへと変えてみせたのだ。
3.寄せる波、返す波
くくる「三浦さん、クラゲのぬいぐるみ買ってくれたんだ!家に飾ってくれるって!」
こうして、くくるの2回目のプレゼンは見事に成功した。そしてこのプレゼンは、彼女が想像しなかった副産物を生んでいる。三浦が魚自体にも興味を持ってくれたことだ。くくるは身近な人間を手がかりに遠くの結婚式を想像したが、それは逆に魚に関心のなかった遠くの人間を近くに引き寄せることにも成功したのである。
手近なものから遠くに手を伸ばせるというのは逆も然りで、遠くのものに手を伸ばせたらそれは身近なものを見つめ直すきっかけにもなる。これは遠くに手を伸ばせたくるるが次のフェイズとして当然行うべき、ある種の内省だ。
月美「お母さんがカメーのお客さんから聞いたんだけど、櫂のお父さん倒れちゃったんだって」
無断欠勤から戻った際、くくるは諏訪副館長のはからいで飼育部への欠員補充に推挙された。しかしそもそも、その欠員とはなんと幼馴染の櫂であった。父が倒れ手術が必要となったため、職場を離れざるを得なくなったのである。
櫂「そんな顔すんなって。退職じゃなくて休職になったんだ」
幸いにして、櫂が職場を離れるのは退職ではなく休職であった。父の容態が落ち着けば、彼はまたティンガーラに――くくるのそばに戻ってくるだろう。だが、そうだとしても櫂がしばらく一緒にいないことは間違いない。この時間はくくるにとって、櫂が当たり前のように自分の近くにいてくれた意味を考え直す時間になる。休職ではなくずっと彼と会えないとなればどうなるか、彼が自分にとってどういう存在なのか、見つめ直す時間になるだろう。
近くのものは遠くのものに手をのばすきっかけに、遠くのものは近くのものを見つめ直すきっかけになる。人は、寄せては返すことを繰り返す波のような動きの中を生きているのだ。
感想
というわけで白い砂のアクアトープ22話のレビューでした。スゴイな!結婚式の企画が環境問題と背景的にリンクしてくるのは、気がついてみれば当然なんですが想像できなかった。結婚式、今後も描かれるなら様々な要素のモチーフになりそうだなと思います。
ただ、1クール目から言われている「できることをやるしかない」はしばしば「できることはこれしかない」になったり、やることを個人の枠組みに限定したり責任を押し付けることにもなったりするので注意が必要な言葉だとも思います。色々な思惑が大いに絡んでるにせよ、国際的な環境保護の取り決めというのは「できること」を個人の限界から解放するために作られるものなのですし。もちろん、准教授の岬さんは今回描かれた以上にいろんなことをしているに違いなく、こんなのは釈迦に説法でしょう。
結婚式の企画も一段落つき、いよいよ次からラストステージでしょうか。正直なところ視聴するかとても迷った作品だったのですが、今となっては名残惜しい気持ちでいっぱいです。残り3話、くくる達の物語を見届けたいと思います。
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寄せる波、返す波――「白い砂のアクアトープ」22話レビュー&感想https://t.co/98iUS523zI
— 闇鍋はにわ (@livewire891) December 4, 2021
環境問題と結婚式企画の意外な物語的結びつき。#白い砂のアクアトープ#aquatope_anime #アニメとおどろう